【12年ぶりの待望作】パテック フィリップ 5328G 評価|8日間持続する「長動力」を、究極の薄さで実現

なぜパテック フィリップが「時計界の王様(表王)」と呼ばれるのか?
それは、あらゆる「複雑機構」を、量産腕時計の枠組みで「極み」まで高めているからです。万年暦やミニッツリピーターなどの大複雑時計だけでなく、今回のテーマである「長動力(パワーリザーブ)」のような比較的オーソドックスな機能においてでさえ、他ブランドを圧倒する完成度を誇ります。
🔎 製品概要:Ref. 5328G
今年(2025年)、実に12年ぶりに登場した長動力モデルが、この「リューメル(Luminor)」ではなく、「Ref. 5328G」です。
モデル名: パテック フィリップ カラトラバ Ref. 5328G
ケース: ホワイトゴールド(白金)
サイズ: 41mm × 厚さ 10.52mm
ムーブメント: 手動巻き Cal. 31-505(8日間動力)
価格: 約 667,400 円(※人民元価格換算参考値)
💎 核心技術:なぜ「8日間」が凄いのか?
一般的な「長動力時計」と一言でいっても、その裏には2つの大きな課題があります。この2つを同時に解決しているのが、パテック フィリップの真骨頂です。
サイズの肥大化を抑えること
動力の変動による精度の乱れを防ぐこと
① 極薄設計の秘密
Ref. 5328Gは、厚さ10.52mmという驚異的な薄さを実現しています。これは、ロレックスのデイトジャスト41(約11.6mm)よりも薄い、極めて洗練された正装時計のサイズです。
対照的に、他のブランドの長動力モデル(例:IWC 7日間パワーリザーブ、パネライ 8日間モデル)は、ケース厚が13mmを超えることが多く、「ごつい」印象を与えがちです。しかし、この5328Gは41mmという扱いやすいサイズ感で、スーツのカフス(袖口)にもしっかり収まります。
② 走時精度の秘密
長動力時計は、ゼンマイが巻ききっている状態と、切れかけの状態で、出力が変動しやすく、それが誤差の原因になります。
これを解決するために採用されたのが、「主発条(マスター)」と「副発条(スレーブ)」の2つの発条盒(はりばこ)を直列接続する構造です。
副発条(大きな方): エネルギーの貯蔵庫。先に巻き上げられ、常に満タン状態を維持。
主発条(小さな方): 時計の運針に直接使う動力源。
副発条が、主発条に常に一定の動力を供給(充能)するため、主発条は常に「動力が豊富な状態」を保てます。これにより、パテック フィリップ ジュネーブ ホールマークが定める厳しい基準(-1〜+2秒/日)を、8日間という長期にわたり維持できるのです。
💡 裏話: 実際の機構上は9日間は動くのですが、精度を最優先するため、メーカー公称は「8日間」となっています。残り1日は「巻き上げの猶予期間」としての意味合いがあります。
🎨 デザイン:現代的な「遊び心」
このRef. 5328Gは、2013年に発表されたスクエアケースのRef. 5200以来の、パテック フィリップによる長動力モデルの復活作です。
① 文字盤(ダイヤル)
レイアウト: 上半分に「動力貯蔵表示」、下半分に「小秒針」、「日付」、「曜日」を配置。Ref. 5200のエッセンスを受け継いでいます。
ヴィンテージ調: 「注射器針」のような針先の形や、アラビア数字時刻表示は、パテック フィリップのアンティーク時計を彷彿とさせます。
ディテール: ケースサイドには「パリネジ」の装飾が施され、ラグ(耳)の下まで隙間なく彫刻されているなど、細部へのこだわりが随所に見られます。
② ムーブメント(Cal. 31-505)
手抜きのできない「量産ムーブメント」です。5枚の独立した橋板(ブリッジ)が特徴で、それぞれに施されたシャンフェル(面取り)や円弧の美しさは、まるでアンティークの懐中時計を覗き込んでいるかのよう。大量生産でありながら、職人技の温かみを感じさせる、他に類を見ない仕上げです。
📝 総括:正統派 vs. ヴィジュアル派
2025年現在のパテック フィリップの正装時計(カラトラバ)には、2つの方向性が見られます。
「Ref. 6196」代表する「純正装」の世界: 伝統を守り、極めてフォーマルな雰囲気。
「Ref. 5328G」代表する「レトロ・カジュアル」の世界: ヴィンテージの趣があり、ややカジュアルで遊び心のある雰囲気。
「Ref. 5328G」は、単なる「長時間動く時計」ではなく、「パテック フィリップが持つ技術力と美学」を凝縮した、まさに「王道」の一本です。