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カルティエがスイスに時計製造拠点を移した1970年代を振り返る。

1972年は、カルティエの歴史において重要な年であった。まず初めに投資家グループがカルティエ・パリを買収し、続いてニューヨークとロンドンのカルティエ支店を買収した。これによりピエール・カルティエ(Pierre Cartier)の死後に分裂していた3つのメゾンが統合され、カルティエの成長の礎が築かれた。

ふたつ目の重要な進展は、カルティエ スーパーコピー 代金引換を激安がエベルと提携し、時計の生産拠点をスイスのラ・ショー・ド・フォンに移したことである。それまでのカルティエの時計は、スイス製ムーブメントを使用してパリ(またはロンドン)で生産されていた。パリでは70年代まで、限られた数の時計を生産し続けていたが、エベルとともにスイスに拠点を構えたことで、これまで以上に多くの時計の生産を始めたのである。

cartier santos dumont 1970s
1970年代のカルティエのシェイプを一部紹介。サントス デュモン(上)、タンク ノルマル、タンク ルイ(下)だ。タンク ルイについては同記事後半で詳しく取り上げる。

1970s cartier tank normale
1970s cartier tank louis
 これは1973年、カルティエ初となる真の歴史的コレクション、ルイ カルティエ コレクションを発表したことに端を発する。タンクやサントス デュモンなど、カルティエ黄金期のデザインを連続生産に持ち込むとともに、クリスタロー、エリプス、クッサンなど、新しいデザインを取り入れた12本のコレクションとしてスタートした。

vintage cartier watch advertisement
ルイ カルティエ コレクションウォッチを紹介した、1980年代の広告(サントスは後に発表)。Image: Courtesy of eBay

 カルティエは世界で最も人気のある時計メゾンのひとつである。スイス時計産業に関するモルガン・スタンレーの2023年の年次報告書によれば、その年の時計ブランドとしては世界で2番目に大きいブランドであった。それにもかかわらず、ロレックスやパテック フィリップのようなブランドと比較すると、簡単に入手できる文献や情報は依然として少ない。1970年代以前のカルティエの時計は極めて希少なままだが、ただ1970年代に生産量が増加したことで、リファレンスナンバーやシリアルナンバーを理解し、記録し、収集することが容易になった。

 このコレクターズガイドは、1970年代のモデルやダイヤル、さらには生産数についてより理解を深めるために、これらの情報の一部をまとめたものだ。将来的には、より人気のあるモデルについての追加情報を掲載したいとも思っている。

 本記事では、1970年代のカルティエに関する一般的な情報から始め、そして最も人気のあるモデル、タンク ルイ Ref.78086について具体的に深く掘り下げていく。

1970年代のカルティエラインナップと生産数
louis cartier collection watches 1970s
1973年に発表されたルイ カルティエ コレクションのオリジナル12モデル。カルティエは70年代を通じて、ほかにもいくつかのモデルを追加していた。お好きなモデルを選んで。

エベルとの新たなパートナーシップを追い風に、カルティエは1973年に野心的な行動に出た。“ルイ カルティエ コレクション”の一環として、12本の新作ウォッチを発表したのだ。すべてゴールドケース、シンプルなホワイトエナメル文字盤にローマ数字、バトン針、そしてカルティエのサインが入ったETAキャリバー(手巻き)を備えていた。カルティエはその後10年間をとおして、コレクションに新たなモデルを追加し続けたが、これらの核となる特徴はほとんど変えなかった。

 その代わりに、カルティエはシェイプを変えて実験をした。これらは1973年のL.C.(ルイ カルティエ)コレクションの12モデルであり、それぞれが独自のシェイプによって定義されている。

ベニュワール(Rref.78094)
サンチュール(Ref.78099)
クッサン(Ref.78102)
クリスタロー(Ref.78096)
エリプス(Ref.78091)
ファバージ(Ref.78101)
ゴンドーロ(Ref.97050)
サントス デュモン(Ref.78097)
スクエア(Ref.97051)
タンク ルイ(Ref.78086)
タンク ノルマル(Ref.78092)
ヴァンドーム(Ref.78090)
 これらのモデルのなかには、ラージモデル(“LM”)とスモールモデル(“SM”)を持つものもあれば、ベニュワールのように区別がないものもある。両方あるものについては、上にLMのリファレンスのみを掲載した。この情報を提供してくれた@cartier_chroniclesことマット・タカタ(Matt Takata)氏に感謝する。これはヨーロッパスター(私は彼らのアーカイブが大好きだ)の当時の広告にも裏付けられている。

 各モデルのケース裏下部には5桁のリファレンスナンバーが、そのすぐうしろにはシリアルナンバーが刻印されている。またリファレンスとシリアルのさらに下には、手彫りのストックナンバー(その時計が販売されたカルティエ支店固有のもの)が記されていることもある。各リファレンスのシリアルナンバーは連続しているため(例えば0001~10000)、あるリファレンスの十分な例を記録すれば、生産数を推定することができるのだ。

cartier 1970s serial numbers
1970年代のカルティエウォッチの裏側にある数字は、最初の5桁がリファレンスナンバーで、それ以降の数字がシリアルナンバーとなり、モデルごとに連番になっている。

 たとえば、私はタンク ルイ(Ref.78086)の生産量を1万5000と見積もっている(つまり、14xxxまでのシリアルナンバーを記録しているということ)。タンク ルイが最も一般的なモデルであると考えられるのは、それが“タンク”に属しているからである。一方でクッサン “バンブー”の生産数はわずか250本と見積もっており、これが最も希少(または最も無名)であると推測される。

 さらに裏にはゴールドのホールマークが刻印されているが、これは長い年月が経つにつれて磨り減っていることがある。

 1973年以降もカルティエは実験を重ね、トーチュやタンクのバリエーションなど、さまざまなモデルやシェイプをコレクションに追加していった。1973年に確立された方式を維持したままで。

 カルティエはこれらの時計の大部分をイエローゴールドで製造したが、ホワイトゴールドで作られたものもいくつかある。例えば、私が記録したタンク ルイのうち10%未満はWGだ。興味深いことに、すべてがいくつかの限られたシリアル範囲に集中している。

1970年代のカルティエの文字盤
cartier 1970s dials
 一般的に、70年代のカルティエには3世代の文字盤が存在する。ほかのブランドでは“マーク”と呼ばれることが多いので、カルティエについても同様の呼称を使用しよう。年代順に、以下のとおりだ。

マーク1: カルティエサインの“A”のトップがワイドでフラット。数字にシークレットシグネチャーはない
マーク2: カルティエサインの“A”のトップが尖っている。数字にシークレットシグネチャーはない
マーク3: カルティエサインの“A”のトップがやや平たい。通常7時位置にシークレットシグネチャーがある
cartier watches vintage 1970s dials
1970年代のカルティエにおける3つの一般的なダイヤルサインを詳しく見ると、カルティエの“A”で最も簡単に区別できる。

 すべてのリファレンスがこれらのダイヤルタイプにすべて沿っているわけではなく、これらのマークのなかには追加のバリエーションを持つものもある。例えばトーチュに関して私が見たことあるものは、後期のマーク3ダイヤルだけなので、このモデルが70年代後半まで導入されなかったことを示唆している。改めて、マット・タカタ(@cartier_chronicles)氏は、このような文字盤の種類を公に記録し始めた最初の人物であり、ここでの彼の協力に感謝する。

 すべての文字盤の6時位置には“Swiss”または“Paris”というサインがある。“Swiss”とサインされた文字盤は、カルティエ・ニューヨーク店を通じて販売されたもので、“Paris”とサインされたものはロンドンおよびパリ店を通じて販売されたものだ。なおサービス用ダイヤルには“Swiss Made”とサインされている。よく見られる誤解として、パリの文字盤が希少であるまたは高い価値があるとされるのだが、これは単にカルティエをパリの高級品店としてロマンチックに捉えているからかもしれない。実際には文字盤に差はない。事実、私がある程度詳しく調査した2モデル(タンク ルイとトーチュ)では、パリ文字盤のほうがスイス文字盤よりもわずかに多いようだ。

vintage cartier service dial
6時位置のサインは、この時計がカルティエのどの店で販売されたかを示し、サービスダイヤルのサインは“Swiss Made”となっている。

 私にとっては、このマーク1、2、3の文字盤の区別のほうがはるかに興味深い。マーク1の文字盤はマーク2やマーク3の文字盤よりもかなり希少である。カルティエのサインとスタイルは、以前のパリ製カルティエウォッチのいくつかの特徴を維持しており、文字盤に独自の魅力を与えている。その希少性について少しだけ触れると、私は数百例のタンク ルイを記録してきたが、マーク1の文字盤はほんの数例しか見たことがない。一方、マーク2の文字盤はマーク3の文字盤よりも多く、おおよそ2対1の割合で出回っている。エナメルはひび割れしやすいため、このような初期の文字盤の多くは、長い年月のあいだにサービスダイヤルに交換されたと推測される。

vintage cartier paris tank 1960s
1965年頃にパリで製造されたカルティエ タンクは、実際に手に取ると、70年代以前のカルティエウォッチの優れた職人技がすぐに感じられる。しかし、1970年代初頭のカルティエの文字盤は、長い年月を経て進化する以前から、同様の“カルティエ“”のスタイルを保っていた。

搭載されるキャリバー
 1970年代のカルティエウォッチにおいて、ムーブメントはセールスポイントではない。ほとんどのムーブメントには、カルティエのサインが入ったシンプルな手巻きのETAムーブメントが搭載されている。カルティエのCal78-1は、ETA2512のカルティエバージョンに過ぎないのだ。特別興味を引くムーブメントではないが、信頼性は高い。一部のモデル、例えばカルティエのRef.17002 タンク “ジャンボ”では、自動巻きムーブメントが採用されている。

フルセット
vintage cartier watch tank box and papers
 1970年代製のカルティエウォッチで、ボックス、ペーパー、オリジナルの保証書が揃ったフルセットが残っているものはあまり見かけない。例えば、これまで見かけたタンク ルイのうち、箱と保証書が残っていたのは10%にも満たなかった。赤いカルティエのボックスは、おそらくiPhoneのパッケージをふたつ重ねたくらいの大きさで、そこにゴールドの縁取りが施されているなど、古きよき時代を象徴した贅沢なセットである。また書類、証明書、保証書はすべて赤で統一されている。

通常カルティエウォッチはレザーストラップに装着されていることが多いが、カルティエのサイン入りビーズオブライスブレスレットに装着されている1970年代のものは存在感が際立つ。Image: courtesy of The Hairspring

 もともとこれらの時計は、内側に“Cartier Paris”と刻印された数種類あるレザーストラップに、ゴールド製デプロワイアントクラスプを合わせたものが一般的だった。カルティエのビーズオブライスブレスレットが付いたものを見つけるのは簡単なことではない。

その後
cartier tank 96065
次世代モデルのタンク ルイ Ref.96065は、超薄型のFP(フレデリック・ピゲ)社製Cal.21、ギヨシェ文字盤、さらに薄いケースを備えたモデルとしてアップデートされた。Image: courtesy of Amsterdam Vintage Watches

 こうしたオリジナルの1970年代モデルの多くは、1980年代半ばまで生産され続けた。その後、カルティエは次世代の時計製造へ移行を始めた。カルティエはETAキャリバーを廃止し、フレデリック・ピゲ社のムーブメントを使用するようになっていくのだ。ほとんどの場合、手巻きの超薄型FP社製Cal.21を使用している。1970年代のフォルムを踏襲しながらも、新しいリファレンスナンバーとムーブメントを採用し、さらにスリムになったモデルも多い。たとえばタンク ルイ Ref.96065は78086に置き代わり、最終的にエナメルダイヤルをギヨシェ装飾へと変更した。エクストラプラット(エクストラフラット)とも呼ばれるが、これは薄型のFP社製キャリバーを採用することで、ケースをさらにスリムにすることができたからである。これらのモデルのいくつかは、カルティエが1998年から2008年にかけて製造したCPCPの基礎を築いた。

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タンク ルイ(Ref.78086)で実践する
1970年代のカルティエウォッチの基本を説明したところで、次は具体的なリファレンス、タンク ルイ カルティエ Ref.78086を見てみる。前述したように、私はオークション、ディーラー、Chrono24のようなマーケットプレイスで販売された数百の例を記録してきた。新しい時計は常に発見されるので、これらの情報が最終的なものであるとは主張しない。

 タンク ルイ Ref.78086は、おそらくよく知られている典型的なカルティエ タンクである。23mm×30mmの薄型レクタンギュラーゴールドケースにレザーストラップがついていて、ブルーカボションがセットされたリューズで巻き上げる、手巻きムーブメントを搭載している。

タンク ルイの文字盤
cartier 1970s dials
タンク ルイ Ref.78086のダイヤルタイプ。

 カルティエがタンク ルイを発表したのは1973年のこと。新しいリファレンスに取って代わられる80年代まで製造されたため、上記の3つの文字盤タイプが存在する。

マーク1: “A”がワイド。数字にシークレットシグネチャーはない
マーク2: “A”が尖っている。数字にシークレットシグネチャーはない
マーク3: “A”がやや平たい。通常7時位置にシークレットシグネチャーがある
 一般的に、これらは古いものから順にリストアップされていると考えることができる。

 ただし今のところ、各ダイヤルタイプに対して広範なシリアルナンバー範囲を定義することさえ困難である。特にマーク2と3はシリアルナンバーが重複しているので、しばらくはふたつとも並行して生産されていたのではないかと思われる。

 初期のマーク1の文字盤は圧倒的に希少だ。私はほんの一握りしか見たことないが、すべて3桁のシリアルナンバーが付いていた。これらの文字盤は、60年代のタンクに見られるプリントに似ているので、私はとても気に入っている。

 マーク2ダイヤルは、シリアルナンバーが数百番台から現れ始める。私はマーク1ダイヤルよりも前のシリアルでマーク2ダイヤルを記録しているが、そのシリアルナンバーは6xxx番台までに及ぶことがある。

 マーク3ダイヤルは、1xxxまでのシリアルナンバーで見られるが、6xxx~7xxxの範囲ではより一般的になる。マーク3ダイヤルを使った初期の例はオリジナルである可能性もあるが、どこかの時点で交換または修理されたのではないかとも思う。

リューズの種類
vintage cartier tank louis crowns
 文字盤と同様、タンク ルイにも3種類のカボションリューズがある。

タイプ1: リューズが高く、先端がとがっている
タイプ2: リューズが短く、先端がとがっている
タイプ3: 先端が丸みを帯びたスタビークラウン
 いずれのタイプも、より簡単に巻き上げることができるように、ローレット(凹凸のある)ベースを介してケースに接続されている。繰り返しになるが、一般的に、これらのタイプは早期から後期にかけて列挙されていると考えることができる。

 タイプ1のカボションリューズが最も高く、先端が長く尖っている。これらは製造開始時から確認でき、6xxx~7xxxのシリアルレンジではある程度一般的だ。

 タイプ2のリューズはタイプ1のものよりも明らかに短いが、それでも先端は尖っている。これらは若いシリアルナンバーでも観察されるが、7xxx~8xxxシリアル範囲ではより一般的なリューズタイプとなる。

 最後に、タイプ3のリューズは最初のふたつのタイプよりも短く、先端が丸く尖っていない。これらは主に、10xxx~14xxxのシリアルナンバーで見られる。

 3タイプはおおよそ同じくらいの頻度で見られるが、私は高いリューズタイプが最も望ましいと考えている。これが最初期のリューズタイプだと推測しているが、オリジナルの高いリューズの多くは、あまりにも突き出ているためにカボションが非常に簡単に欠けてしまうため、長い年月のあいだに失われ、交換されてきたのだと思っている。

ケースとホールマーク
vintage cartier tank white gold
初期の“マーク2”ダイヤルと長い“タイプ1”リューズに注目。Image: courtesy of Wind Vintage

 すべての1970年代製カルティエウォッチがそうであったように、タンク LCのほとんどはYGでつくられていたが、カルティエはWG素材の例もいくつか製造していた。私が記録した例の10%未満がWGで、そのすべてに生産前期でつくられたシリアルナンバーを持っていた。興味深いことに、私が見た完全な連続データが揃っていいたもののうち、すべてがいくつかの狭い範囲に集中していたようだ。これはヴィンテージウォッチによく見られる現象で、ケースが数回に分けて製造された可能性を示唆している。

 WGのほうが希少性が高く、また繊細で身につけやすいというイメージがあるため、WG製タンクはYGよりも約2倍の価格となっている。まあ、もしそれが見つかればの話だが。YGのタンクLCは週に何度でも見つけることができ、日曜日には2回見つかるかもしれないが、WGの例は1年のうちに数本しかお目にかかれないかもしれない。

cartier tank case hallmarks
裏側とミドルケースにはタンク ルイの特徴的なホールマークがある。ケースサイドのリューズの下にホールマークがあるが、しばしば磨耗して消えてしまうことがある。下にある1枚目の写真では、ホールマークが消えかかっているもののまだ確認できる。2枚目の写真のほうが、ホールマークがはっきりと表れている。

大人気のカルティエ時計コピーNランク 代金引換年月を経るうちに、多くのヴィンテージタンク ルイのケースは磨かれてしまうことが多い。正直なところ、LCはもともと丸みを帯びた、洗練されたプロファイルを持っているので、ケースプロファイルのラインを見ただけで判断するのは難しい。しかし、ケースに存在するホールマークはコンディションを評価するのに役立つ。

まず、ケース裏側にいくつかのホールマークが刻印されているか
次にリューズすぐ下のミドルケースにホールマークがあるか。このふたつ目のホールマークは、ケースが研磨されているために消えているか、ほとんど見えないことが多い
 ホールマークが残っていたり、手付かずのシャープなケースを見つけるのはいいことだが、ヴィンテージロレックスのスポーツウォッチに比べれば、それほど大きな問題ではないと思う。ケースは数回研磨するだけで、シャープなエッジや面取りの多くを失うことがあるからだ。

オメガ ムーンシャイン™ゴールドとセドナ™ゴールドを使用したバイカラーモデル

オメガは、ブランド独自の18Kムーンシャイン™ゴールドまたはセドナ™ゴールドを使用した、新しいバイカラーのオメガ スピードマスター ムーンウォッチモデルを発表した。バイカラーのニューケースとブレスレットを除けば、基本的には私たちがよく知るムーンウォッチである。つまりゴールドのセンターリンクを持つブレスレットに42mmのケース、サファイア風防&シースルーバック、そしてオメガの手巻きマスター クロノメーターCal.3861を使用しているということだ。これらの新しいムーンウォッチは、どちらもセラミックのセラゴールド™製ベゼルを備えている。針と同様、ムーンシャイン™ゴールドバージョンはシルバーのサンレイダイヤルとムーンシャイン™ゴールドのインダイヤルを持ち、セドナバージョンにはセドナ™ゴールドのPVDコーティングが施されている。

新しいバイカラースピードマスターはともに279万4000円(税込)であり、オメガ時計コピー 代引きによれば、現在一部のオメガブティックで購入可能だという。

omega speedmaster moonwatch bi-color sedna gold
我々の考え
振り返ってみれば、オメガがまだツートンのムーンウォッチを出していなかったのは意外だった。オメガは2019年に、アポロ11号50周年記念モデルで豪華なフルムーンシャイン™ゴールドモデルを発表。そのあとツートンオプションを提供するのは自然な流れである。その記念限定モデルのあと、オメガは独自のゴールド合金を一般生産へと展開した。2022年には、既存のカノープス™ゴールド(独自のホワイトゴールド合金)とセドナ™ゴールド(ローズゴールド)のラインナップに、ムーンシャイン™ゴールド(イエローゴールド合金)のムーンウォッチを追加した。ツートンは、オメガが1983年に最初のツートンスピードマスターを発表して以来、バックカタログに掲載されてきたものでもある。

omega speedmaster moonwatch bi-color moonshine gold
オメガがフルゴールドのムーンウォッチに継続的に取り組んでいることを考えると、標準のステンレススティール製ムーンウォッチと、それらのより豪華な金無垢製スピーディのあいだにツートンモデルを挟むのは自然な流れのように思う。フルゴールドのムーンウォッチはすべて650万円以上であるのに対し、標準的なソリッドバックのスピードマスター プロフェッショナルは107万8000円(税込)で手に入る。

新しいバイカラーのスピードマスターは、ツートンデイトナ(税込で293万3700円)よりも14万円ほど安く設定されている。スピードマスターとデイトナは直接比較できるものではないが(理由はいろいろあるが、ここでは省略する)、少なくとも言及する価値はあると感じた。

omega bi-color speedmaster
また既存のムーンウォッチとは異なり、これらはセラミックのセラゴールド™ベゼルが採用されていることも興味深い。セラミック製のリングを持ち、ブラックのタキメータースケールにはセラゴールド™が使用されている。これはセラミックとゴールドの混合物であり、アルミニウムインサートを使用していた従来のムーンウォッチモデルとは異なる。今後、この技術がより広く展開される可能性もあるだろう。

omega speedmaster bi-color caliber 3861
ともあれ、これらが新しいムーンウォッチのバイカラーモデルである。最初に画像を見た限り、私の目にはムーンシャイン™ゴールドのほうがより優れて見えた。シルバーダイヤルは主にSSを主体としたパッケージとマッチしており、ブラックベゼルとのコントラストも美しい。ただいくつかのプレス用画像だけで判断するのは、初デート前に行うオンラインデートのようなものだ。まずは実物を見てから判断しようではないか。

オメガ スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル。Ref.310.20.42.50.02.001(18Kムーンシャイン™ゴールド)、Ref.310.20.42.50.99.001(セドナ™ゴールド)。42mm径、13.2mm厚、ラグからラグまで47.5mm。サンブラッシュ仕上げの文字盤とセラミック製セラゴールド製ベゼル。METAS認定のマスター クロノメーターCal.3861を搭載。約50時間パワーリザーブ。50m防水。サファイア風防とサファイア製シースルーバック。望小売価格はともに279万4000円(税込)。

ハミルトン 33mmと38mmのユニセックスサイズで登場した。

ハミルトンはフィールドウォッチの王者である。エディター同士の会話でエントリーレベルのスイス製時計が話題に上がる際、カーキフィールドはほぼ必ず名前が挙がる。ハミルトンはクォーツムーブメントを搭載したカーキ フィールドの新しいコレクションを発表した。同コレクションはどこへでも持ち運べ、何にでも対応できるスイス製ツールウォッチを、より手ごろな価格で提供している。今回は38mmと33mmの両サイズでコレクションが展開された。これはより広い層のユーザーに向けた、ユニセックスのオプションを提供するためであることは間違いない。

Black Khaki Quartz, Old Radium Lume
約1カ月前、同僚のマーク・カウズラリッチがハミルトンのカーキ フィールド メカニカル 38mmに投入された3つの新ダイヤルについて記事を書いた。そのなかで特に私の目を引いたのはホワイトダイヤルだったが、今回のリリースを通じてカーキ フィールドの多くのバリエーションにおいてホワイトダイヤルが定着しつつあるようだ。この新しいカーキ フィールド クォーツラインにはホワイト、ブルー、ブラックの3色があり、ダイヤルと針にはそれぞれ異なる色調のスーパールミノバが使われている。具体的に、ホワイトダイヤルには“オールドラジウム”色のスーパールミノバを、ブルーダイヤルには白色のスーパールミノバを、そして2種類あるブラックダイヤルにはそれぞれグリーンもしくは“オールドラジウム”色のスーパールミノバが組み合わされている。なおホワイトダイヤルの針とインデックスは黒で縁取られており、コントラストをより高めている。

Old Radium 34ths shot
“オールドラジウム”色の夜光。

ホワイトダイヤルとオールドラジウム夜光を備えたブラックダイヤルには、ロレックス スーパーコピーグリーンのテキスタイルストラップが組み合わされている。一方、ブルーダイヤルと非オールドラジウムの夜光を備えたブラックダイヤルには、ダイヤルに合わせた色のテキスタイルストラップをセット。これらのストラップはカーキ フィールド ラインの特徴であり、レザーのキーパーがついていることで少し高級感を感じさせる仕上がりになっている。

original GS watch
1960年代後半に製造された、オリジナルのハミルトン G.S. ウォッチ。

Khaki field watch sold on AS
アナログシフト(AnalogShift)で販売された、1980年代製造のカーキウォッチ。

Khaki Field Quartz up close
新作は“カーキ”ロゴが追加されているが、ダイヤル全体で見るときわめて小さく配置されている。

ハミルトンはこの新しいカーキ フィールド クォーツのデザインを、1960年代のハミルトン G.S.(ジェネラルサービスの略)モデルに由来すると話す。このモデルは英国政府の非軍事関係者向けに製造された時計であり、ヴィンテージのミリタリー美学を強く反映している。たしかに各要素は現代的にアレンジされており、コントラストが向上したダイヤルや、視認性を高めるためのレイルウェイミニッツトラックなどもある。アラビア数字は大きくて太く、オリジナルよりも比例して大きくなっているようだ。新作は、ダイヤル中央下にあった“G.S.”の代わりにスタイリッシュなカーキロゴを配置。これは1980年代に市販されたカーキ フィールドを参考にしたデザインであるようだ。

すべてのバリエーションはサイズに関わらず、6万4900円(税込み)で購入可能である。

我々の考え
このリリースはハミルトンにとって特に革新的なものではないが、製品ラインナップにうまく収まっている。カーキ フィールドラインにおいて、ハミルトンは過去数年間で700~1200ドル(日本円で約10万~17万円)の価格帯で製品群を強化してきており、ときにはチタン製バージョンでその価格帯の最上位に位置することもある。

Khaki Quartz in blue
この新しいコレクションにより、クォーツはもはや妥協や“安価な選択肢”という印象を与えない。デザインは十分に独自性を持っており、ラインナップのなかでも際立っていると思う。6万4900円(税込)という価格は提供される製品に対して妥当だと感じる。ハミルトンのウェブサイトに掲載されているすべてのカーキ フィールド クォーツウォッチを見ていると、この新しいクォーツモデルでついに、カーキ フィールド メカニカルの最新デザインに統一されたのだろう。

Khaki 33mm Old
1990年代製のカーキ フィールド 33mm。ワナ・バイ・ア・ウォッチ(WannaBuyAWatch)で販売されたもの。

デザインの観点から言うと、私はこれらの時計をとても気に入っている。まず歴史的な背景を考えると、特別にデザインされたカーキロゴが非常にいいアクセントになっていると思う。また小さいサイズが35mmや36mmではなく、33mmで登場したのもとても素晴らしいアイデアだ。これはかつてそのサイズで製造されていたヴィンテージのカーキ フィールドをすぐに思い起こさせる。以前、友人が見つけたヴィンテージカーキ フィールドを見て、その小ささに驚いたのを覚えている。ただしひとつだけ気になるのは、視認性を最適化するために、ダイヤルにあるカーキロゴや数字のバランスが、オリジナルの時計にあったヴィンテージの魅力を少し失っているように感じたことだ。

全体的にこれらのデザインはとても好感が持てるものであり、幅広い層に受け入れられるだろう。スイス製ツールウォッチの世界に初めて足を踏み入れる人にとって、これは完璧なエントリーモデルとなる。しかしここで疑問が生じる。メカニカルモデルに2万900円のアップグレードをする価値があるだろうか。

基本情報
ブランド: ハミルトン(Hamilton)
モデル名: カーキ フィールド クォーツ(Khaki Field Quartz)
型番: 33mm/H69301910(ホワイト)、H69301940(ブルー)、H69301430(ブラック)、H69301930(ブラック、オールドラジウム)。38mm/H69401910(ホワイト)、H69401940(ブルー)、H69401430(ブラック)、H69401930(ブラック、オールドラジウム)
ムーブメント:クォーツ

直径: 33mm、38mm
厚さ: 7.5mm(33mm)、8.3mm(38mm)
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: ホワイト、ブルー、ブラック
インデックス: プリント
夜光: あり、スーパールミノバ
防水性能: 5気圧防水
ストラップ/ブレスレット: テキスタイル製NATOストラップ、各色に合わせたレザー

khaki quartz white
価格 & 発売時期
価格: 各6万4900円(税込)
発売時期: 発売中
限定: なし

モンブランをより魅力的なものにしてい

モンブランが創業したのは1906年だが、時計製造に乗り出したのは1997年のこと。100年以上の歴史を誇る老舗がひしめく時計業界においてはまだまだ若いブランドだ。当初はモンブランを象徴する万年筆の名品“マイスターシュテュック”にインスピレーションを得たデザインを特徴とする、ありふれたエタブリサージュスタイルの時計メーカーであったが、2006年以降モンブランの時計づくりは加速度的に進化を遂げた。

 2006年に、160年以上の歴史を持ち、特にクロノグラフの製作において高い技術力と名声を得たスイス・ヴィルレの老舗メーカーであるミネルバ(1858年創業)を傘下に収めたモンブランは、翌年共同でミネルバ高級時計研究所(Institut Minerva de Recherche en Haute Horlogerie)を立ち上げ、2008年には初の完全自社製ムーブメントとなるMB R100(モノプッシャー クロノグラフ)を発表。以来、このミネルバの工房で製造されたムーブメントがモンブランの腕時計に採用されるようになる。

モンクレール スーパーコピー 代引きのもとにミネルバが加わって以降、世界的なクロノグラフメーカーとしてのミネルバの輝かしい歴史はモンブランのそれと同義に語られるようになった。もともとル・ロックルにあったモンブラン マニュファクチュールとは別に、ヴィルレにあるミネルバの拠点はそのまま引き継がれてモンブラン マニュファクチュール ヴィルレとなり、そこではブランドの一部のハイエンドピースがムーブメントから一貫して自社製造されている。また併設されたモンブランのムーブメント&イノベーション エクセレンスセンターは、モンブラン時計部門におけるR&Dセクションとしての役割も持つに至った。

アイスシー ゼロ オキシジェン ディープ 4810。時計の詳細はこちらの記事へ。

ウィリアム・トゥルブリッジ(William Trubridge)

フリーダイバー。手足にフィンなどを装備せず、泳力のみで潜るコンスタントウェイト ノーフィン(CNF)部門で初めて100m(102mの世界記録を樹立)の境界を破り、垂直に設置されたガイドロープを使って潜るフリーイマージョン(FIM)部門では121mの世界記録を持つ。ほか18ものフリーダイビング記録を保持しており、世界チャンピオンのタイトルを6度も獲得するフリーダイビングの第一人者。

 モンブランは彼をアンバサダー(マークメーカー)に迎え、モンブラン アイスシー ゼロ オキシジェン ディープ 4810を提供。フランスのティーニュで行われたテストにおいて実際にこの時計を身につけて氷河の水中に潜り、過酷な環境下におけるゼロ オキシジェン技術の有用性を実証した。

2024年に発表されたモンブランの新作における目玉のひとつに、アイスシー ゼロ オキシジェン ディープ 4810がある。先立って公開された記事を読んでもらえると理解が早いが、本作の見どころはゼロ オキシジェン技術である。これはケース内部から酸素を排除、窒素を充填して密封することで完全無酸素状態を実現する技術だ。パーツの劣化を引き起こす酸化からムーブメントを守ることに加えて、急激な気温変化で生じるケース内部の結露を防ぐことで、時計の内部を長期間にわたって良好な状態を保ち、時計の精度と耐久性の向上を狙っている。

 ケース内部に生じる酸化や湿気の影響を防ぐことを目的とした似た発想の技術にバキュームウォッチがある。これはかつてセンチュリーやウォルサムで製造されていた時計だ。こちらも時計の精度と耐久性が向上させることが目的だが、モンブランのゼロ オキシジェンとはアプローチが異なり、時計内部を真空状態にすることで外部からの影響を排除し、耐水性や防塵性、耐腐食性の向上を狙ったものである。

 バキュームウォッチの場合、長期間にわたって真空状態を維持することは技術的に難しく、また真空状態により時計内部の圧力が均等化されているため、大きな衝撃が加わるとガラスやケースが破損するリスクが高かったといわれる。加えて時計の修理やメンテナンスには特殊な装置が必要であり、一般的な時計よりもコストが高くなるなど、多くの点で気軽につけられるものとは言い難かった。もちろんモンブランのゼロ オキシジェン技術においてもケース内部の窒素充填に特殊な技術を要するが、こちらは極限環境(高所や寒冷地)での性能向上を想定した技術。日常使用にはオーバースペックだが、それゆえの安心感はユーザーにとって大きなメリットと言えよう。

 Watches & Wondersの会場では、モンブラン ウォッチ部門のディレクターであるローラン・レカン氏自らこの新作のプレゼンテーションをしてくれた。彼の言葉を借りながら、スペックや技術的な側面だけではない、アイスシー ゼロ オキシジェン ディープ 4810が持つ本当の魅力についても紹介したい。

ツールウォッチに見える“日常使用”への配慮

ローラン・レカン(Laurent Lecamp)

モンブランウォッチ部門ディレクター。2001年にLVMHでワイン&スピリッツのブランドマネージャーとしてキャリアをスタート。2008年には共同設立者として時計ブランド、サイラス(Cyrus Watches)を立ち上げたほか、2014年からはカール F.ブヘラでセールス部門のエグゼクティブバイスプレジデントとして、2016年からは日本法人CEOとして辣腕をふるう。2021年にモンブランのスイス本社ウォッチ部門のディレクターに就任。

佐藤杏輔(以下、佐藤)
2021年にモンブランウォッチ部門のディレクターに就任されましたが、これまでにどんなことをされてきたかを教えてください。

ローラン・レカン氏(以下、レカン氏)
 まずはモンブランというブランドのルーツに注目しました。私はブランドが成功するためには3つの要素が必要だと考えています。ひとつはイノベーション、それから強いストーリーテリング、そして評価価値、つまりお客様が評価する顧客価値の3つです。

 私はモンブランに入社直後、モンブランの氷河を見に行きました。そこで時間をかけて、なぜこのロゴ(モンブランのロゴ)ができたのかを理解しようとしたのです。モンブランのロゴは六角形の白い星のような形ですが、これはモンブランにある6つの氷河を上から見た様子を表現したものです。そのなかで1番大きい氷河がメール・ド・グラース、英語で言うとアイスシーになります。このとき訪れた氷河の写真を撮影したのですが、これをダイヤルサプライヤーへ持ち込み作り上げたのがアイスシーコレクションのグレイシャー(パターンの)ダイヤルでした。

 モンブランのもうひとつのテーマに登山があります。例えばラインホルト・メスナーは酸素補給なしに8000m級の山々、14の最高峰すべてを世界で初めて制覇しましたが、そこから発想を得たのがゼロ オキシジェン技術、つまり酸素を排除した時計のコンセプトが生まれたのです。これらふたつのコンセプトはブランドの今を支え、ベストセラーとなりました。

 アイスシー ゼロ オキシジェン ディープ 4810の“4810”という数字は防水性を意味するが、これはモンブランの標高が4810mであることにちなんだものだ。そのような深さまで潜ることができるダイバーズウォッチで結露が発生しない(技術的に)初の時計となるのが本作だが、アイスシー ゼロ オキシジェン ディープ 4810は、ISO 6425に準拠している。これは4810mという防水性能が担保されているのはもちろん、規格によりさらに+25%の数字が保証されているため、理論的には6000mの深さまで耐えられることを意味する。

ツールウォッチに込められた“日常使用”へのこだわり
 技術的な側面については先立って公開された記事のなかで解説されているため割愛するが、グレイシャーダイヤルは非常にユニークなものだ。彼はこのダイヤルについてこんなことを言っていた。

「実際に近くで見てもらえると分かりますが、本当に氷河の模様が見事に表現されているのです。そして模様だけでなく、その立体的な構造も再現されています。独特の溝など立体的な造形は実際の氷河の模様なのです。そして文字盤の色も実際の氷河を見事に表現したものとなっています」

 さらに特徴的な裏蓋のモチーフについても尋ねると、彼は次のように続けた。

佐藤
裏蓋にも模様があしらわれていますね。これはどのようなものなのですか?

レカン氏
 ケースバックの模様は氷河を潜ったときに見られる景色を表現したものですが、これはグレード5のチタン製です。ケースバックだけではなくケース自体もチタンですが、この模様を得るために酸化処理を行っているんですね。実は我々はこれだけの広い面積にこういった酸化処理を行っている唯一の時計ブランドです。

 酸化処理は社内で行っていますが、外部パートナーと一緒に開発したプロセスを利用しています。これを実現するためにはやはり経験を積まなければいけないため、そうした外部のパートナーと一緒に行う必要があるのです。(模様は)7つのレーザーを使って処理をしています。ひとつのケースバックの模様を作り上げるのには100時間かかりますが、1度描けるようになるとひとつのケースバックあたり4時間ほど作れるようになります。

厚さこそ19.4mmとかなりの数字だが、ケース径は43mmとその高い防水性能の割には大きさが抑えられている。日常的にも十分につけられるサイズ感といえよう。

ケースと裏蓋はチタン製、そしてベゼルはブラックの陽極酸化加工を施したアルミニウム製のため、見た目のボリューム感とは裏腹に軽量だ。さらにフィット感に優れた滑らかなラバーストラップでつけ心地も軽快。

 アイスシー ゼロ オキシジェン ディープ 4810は、スペックや技術的な側面を見る限り過酷な環境での使用を想定したツールウォッチであることは間違いない。だが、グレイシャーダイヤルや氷河に潜ったときに見られる景色を表現したというケースバックのレリーフなど、ツールウォッチには本来不要ともいえる装飾的なこだわりが本作から見て取れる。

 それだけではない。裏蓋のアイコニックな装飾に目を奪われがちだが、簡単に取り外しが可能なレバー付きのブラックラバーテーパードストラップが採用されており、これは容易なストラップ交換や日々のメンテナンスなど、どちらかといえば日常使用のなかでこそ魅力に感じられる仕様といえる。また微調整可能なステンレススティール製のダブルフォールディングクラスプを採用しているが、これはウェットスーツを着ていても手首につけたまま簡単に調整をすることを意図したものだが、日々最適なフィット感でつけるためにも便利な実用的な機能だ。そして約120時間パワーリザーブを備えたムーブメントの採用も同様。ロングパワーリザーブは精度の安定性というだけでなく、巻き上げ不足によりつけたいときに時計が止まってしまっているという事態を回避しやすいという実用的なメリットが大きい。

 アイスシー ゼロ オキシジェン ディープ 4810には、日常使用も見据えたがゆえと思われるようなこだわりやディテールがいくつも見られる。こうした遊び心のあるディテールが単なるツールウォッチとしてだけではなく、目を引きつけるポイントとなっているのではないだろうか?

斬新なスタイルに息づく質実剛健なものづくり

モンブランは今年、アイスシー ゼロ オキシジェン ディープ 4810を筆頭に、さまざまな興味深い新作を発表した。スペックや技術的な側面が時計の大きな魅力であることに異論はないが、モンブラン、そしてミネルバにも共通して見られる確固たる哲学が表れたものづくりやディテールへのこだわりこそ、筆者は新作の見どころではないかと思うのだ。

 筆者が思う双方に共通するポイントは、日常的に使う・つけることに配慮したスタイル、ウォッチメイキングが貫かれているということ。アイスシー ゼロ オキシジェン ディープ 4810は前述のとおり。1858 アンヴェールド ミネルバ モノプッシャー クロノグラフ、さらには1858 アンヴェールド タイムキーパー ミネルバ リミテッドエディションなどでも、そうしたこだわりが目につく。

1858 アンヴェールド ミネルバ モノプッシャー クロノグラフ リミテッドエディション

Ref.133296 742万5000円(税込) 世界限定100本

ケース側面にムーブメントを見るためのサファイアウィンドウを備え、ケースバックにはミネルバ マニュファクチュールの特別なエッヂングが施されている。手巻き(Cal.MB M17.26)。SSケース、アリゲータープリントのスフマートカーフレザーストラップとSS製トリプルフォールディングクラスプ。43mm径。厚さ14.78mm。3 気圧防水。時計の詳細はこちら。

 1858 アンヴェールド ミネルバ モノプッシャー クロノグラフ リミテッド エディションは、一見するとムーブメントを透かし彫りしたスケルトンウォッチに見えるかもしれないが、厳密に言うとそうではない。本作は機械的な動きを見せるために、ムーブメントの輪列やクロノグラフ機構を時計のダイヤル側に反転。既存のモノプッシャークロノグラフCal.MB M16.26をベースに開発されたCal.MB M17.26 を搭載しているが、特徴的な部品を強調し、光が差し込むようにクロノグラフ機構を柱の上に構築し配置している(きわめてモダンな印象だが、この独創的なデザインはミネルバが1912年に特許を取得しているという)。

 そして本作が見事なのは、時計として、クロノグラフとしての実用性が損なわれていないということだ。もちろんその独創的なスタイルゆえに視認性はやや犠牲になっているものの、時刻用のアワー&ミニッツインデックスやスモールセコンド(9時位置)、そしてクロノグラフの30分積算計目盛り以外を肉抜きしたサファイヤクリスタル製のパーツをムーブメント上面に設けることで、しっかり各表示を判読できるようになっている。

1858 アンヴェールド タイムキーパー ミネルバ リミテッドエディション

Ref.133246 757万6800円(税込) 世界限定100本

フルーテッドベゼルによって操作を行う斬新なクロノグラフ。機構としては既存のモノプッシャークロノグラフをベースとしている。手巻き(Cal.MB M13.21)。ダメージ加工SSケース(18金WG製ベゼル)、アリゲータープリントのグレーカーフレザーストラップとSS製トリプルフォールディングクラスプ。42.5mm径。厚さ13.85mm。3 気圧防水。時計の詳細はこちら。

 1858 アンヴェールド タイムキーパー ミネルバ リミテッドエディションも、なかなか興味深い。これは2023年に発表された1858 アンヴェールド タイムキーパーのバリエーションモデルだ。昨年のモデルはSSとライムゴールド(75%のゴールドにシルバー20%、コッパー5%を合わせた金合金)ケースの2種類が登場したが、本作ではダメージ加工を施したSS製ケースを採用した。このケースはブラックコーティングを施したSSを手作業で洗浄し、モンブラン山の珪岩とヴィルレの工房の向かいにあるラ・コンブ・グレードと呼ばれるV型の山の石灰岩を用いてブラシ加工することで独特のダメージ処理を加えている。

 独特の外装も見どころだが、やはり本作最大の特徴はベゼルで操作するクロノグラフだろう。一般的なクロノグラフに見られる2・4時位置プッシュボタンは持たず、その代わりに溝を施した回転ベゼルを回すことでスタート・ストップ・リセット操作を行うという画期的機能を備える。このベゼルは誤操作を防止する一方向回転式でベゼルを掴んで時計回りに回すことでクロノグラフがスタート。2回目のスライドでストップ、3回目のスライドでリセットとなる。

 これはもともと1939年にミネルバが発表した、アウター回転ベゼルとリセット機能を備えたクロノグラフにデザイン的なインスピレーションを得ているが、ベゼル操作機構はまったくの新しいものだ。その独創性に目を奪われるが、ボタンがないためにクロノグラフでは起こりがちなボタン周りの不具合が起きることはなく、操作はベゼルを回すだけなのできわめて扱いやすい。

 上記のような革新的な製品が発表されていることもあり、モンブランにおけるミネルバの名を冠したモデルにはハイエンドでアバンギャルドなイメージがあるが、そのディテールをじっくり掘り下げてみると、現在もミネルバの質実剛健なものづくりは変わらないことがよく分かる。

 確かに思わず目を奪われるようなインパクトのあるデザインやスタイルは大きな魅力である。しかしモンブランの時計をさらに魅力的なものとしているのは、日常的につけることまで想定したユーザーフレンドリーなものづくりにあるからこそだと思うのだ。

初のスイス製クォーツムーブメント搭載モデルを5つ紹介していこう。

お気づきでなければお知らせしておく。今週(記事執筆当時)はHODINKEEにとって“クォーツウィーク”であった。初めに私たちの専属時計職人アーロンがジラール・ペルゴのCal.350について執筆し、ジャックがグランドセイコーのクォーツモデル、SBGX061についての記事を書いている。しかし今日の市場で注目されているほかの収集価値のある“クォーツ”時計、例えばBeta21ムーブメントを搭載したモデルについて掘り下げてみるのはどうだろうか。

クォーツの歴史は複雑で長いものであるため、ここでは簡潔に述べる。クォーツは1928年にベル研究所で発明された。当時のクォーツ時計は非常に大型であったため、主に実験室において基準時刻の計測用として使用されていた。クォーツの研究開発は数十年にわたり続けられ、1960年代初頭にはマリンクロノメーターに搭載可能な程度に小型化が進んだ。このころ主要なスイスの時計ブランドがこの新技術に注目し、オメガ、ピアジェ、パテック フィリップなど約20のメゾンが1962年にヌーシャテルにCentre Electronique Horloger (CEH)を設立。CEHの目的は次世代の時計製造に向け、効率的で信頼性が高く、かつ高精度なクォーツムーブメントの口コミ第1位のパテックフィリップスーパーコピー代引き専門店!研究開発および製造に専念することであった。

6年間の研究の末、最初の試作機であるBeta1が1966年に完成。このムーブメントには8192Hzのクォーツ振動子が内蔵回路に組み込まれていた。その後1967年にはBeta2が製造され、“Concours Chronométrique International de l’Observatoire de Neuchâtel(ヌーシャテル天文台クロノメーターコンクール)”において最高賞を受賞し、テスト期間中の精度は1日あたりの誤差がわずか0.0003秒という新記録を樹立した(当時の腕時計クロノメーターにおける一般的な精度は1日に3~10秒の誤差であった)。

Beta21は1969年に完成し、スイスの20の時計メーカーによって6000個のムーブメントを製造することが決定された。同年後半にはバーゼルフェアで数百個のBeta21搭載時計が発表され、同フェアにおいて新たな記録を打ち立てた。Beta21ムーブメントの精度は月差5秒と非常に高く、当時の自動巻きや手巻き時計をはるかに上回っていた。また、Beta21搭載時計のデザインは当時の特徴を色濃く反映しており、厚く、角ばった、いわば“ゴツい”デザインが一般的であった(これは初期のクォーツムーブメントが比較的大型であったため、ある程度必要に迫られた結果でもある)。

残念ながら(あるいは見方によっては幸運にも)、Beta21の人気はすぐに衰退した。ムーブメントは大きく、消費電力も非常に高かったためだ。さらにCEHで生産されたムーブメントを使用していたメーカー各社が、それぞれ独自のクォーツムーブメントを製造し始めた。これらの新しいムーブメントはより小型で薄型となり、例えばピアジェのCal.P7などがその筆頭となっていた。

現在の時計市場において、Beta21ムーブメントは一部で地下的なカルト的支持を得ており、搭載したモデルはコレクション性の高い時計となっている。残念ながら同ムーブメントは永久的なものではなく、クォーツムーブメントは基本的なタイミングユニットが故障した場合、通常修理ができない。しかしそのデザイン全体とBeta21が象徴する意義――時計史における革新と実験の時代――を鑑賞する価値はある(現代のApple Watchにも似たものがある)。Beta21搭載時計を購入する際の主な問題は、ムーブメントが後継のBeta22に交換されていることが多い点である。これは時計の価値と真正性に大きく影響するため、購入者は十分注意するべきである。真の時計愛好家であれば、いいものを愛するためには悪い部分にも敬意を払わなければならないということを知っている。では以下に、最も象徴的でコレクタブルなBeta21搭載腕時計をいくつか紹介していこう。

オメガ エレクトロクォーツ

これはおそらく最も認知度が高く、かつ最も一般的なBeta21搭載腕時計である。この時計はBeta21ムーブメントを使用した“スイス初のクォーツウォッチ”としての称号を持つ。オメガは1970年から1977年のあいだに、1万本のエレクトロクォーツを製造した。これらの時計の価格は使用されている金属や状態により、3000ドルから1万ドル(当時のレートで36万〜120万円)の範囲で提供されている。

IWC ダ・ヴィンチ

1969年に発表されたダ・ヴィンチもまた、非常に興味深い六角形のケースを持つクォーツウォッチである。IWCはBeta21ムーブメントを収めるための適切なケースの開発に、多くの時間と労力を費やした。このダ・ヴィンチは非常に人気があり、瞬く間に完売した。現在でも入手可能ではあるが、元のBeta21ムーブメントがBeta22に交換されていることが多い点に留意すべきである。これらの時計はオンラインで3000ドル(当時のレートで約36万円)未満で購入可能である。

ピアジェ Ref.14101

ここにふたつの例を掲載する。ひとつは1970年製の“タイガーアイ”ダイヤルを持つモデル、もうひとつは約10ctのダイヤモンドで装飾された1971年製のモデルである。ここでもサイズの大きなBeta21ムーブメントを収めるために設計された大型ケースが確認できる。ピアジェは当時クォーツムーブメントの使用に積極的であり、この特定のモデルは1970年に発表され、ブランドが独自の薄型クォーツムーブメントである7Pを設計し始める1976年まで製造されていた。このCal.7Pにより、より小型のケースへの搭載が可能となった。

ダイヤモンド付きのこのモデルは、過去数年でオークションにおいて2回ほど出品されている。状態や付属品に応じて、毎回およそ2万5000ドルから3万ドル(当時のレートで約300万〜360万円)で落札されている。

ロレックス オイスタークォーツ Ref.5100

ロレックス初のクォーツモデルとして登場したRef.5100は、1000本限定で製造され、そのすべてが出荷前に完売した。各時計にはシリアルナンバーが刻印されている。またロレックス初のサファイアクリスタルを採用したモデルであり、秒針はガンギ車によって動かされるなど、競合製品に対して優位性を持っていた。さらにこのモデルではデイトのクイックセット機能も初めて導入された。1972年にロレックスはCEHを離れ、自社製クォーツムーブメントの開発に着手。のちに“オイスタークォーツ”として知られるシリーズを発表することとなった。

Ref.5100が最後にオークションに出品されたのはニューヨークのクリスティーズであり、事前のエスティメートは2万〜3万ドル(当時のレートで約240万〜360万円)、落札額は2万ドルであった。時計は箱と保証書が完備されていた。

パテック フィリップ Ref.3587

この時計は非常に珍しいモデルであり、わずか数百本の限定生産であった。最初のRef.3578は、Beta21発表直後の1969年に製造された。1973年にはBeta22ムーブメントを搭載したRef.3597が登場。写真に示されているRef.3587は主にホワイトゴールドとイエローゴールドで製造され、ピンクゴールドのモデルは極めて少数である。Ref.3587には3種類のバリエーションがあり、ひとつはラグ付きケースで、ほかのふたつはラグなしでブレスレットが一体化されたデザインであった。このムーブメントを搭載したほとんどの時計同様、全体のデザインは43mm径のクッション型ケースと非常に大きい。ブレスレットはすべてパテック フィリップのためにドイツへ特注されたもので、3種類のスタイルがあった。編み込みリンクのもの、穴あきリンクのもの(写真)、そして大きなオイスタースタイルのリンクのものだ。

F.P.ジュルヌの2作目となる時計に、

ブランドとして2作目にあたり、初めて販売された時計であるトゥールビヨン・スヴランが、F.P.ジュルヌ史上、そして独立時計師による腕時計史上最高額を記録した。

ジュネーブオークションの2024年冬季シーズンは早くも盛り上がりを見せている。約1600点以上が出品された先日のオークションにおいて、ロット14の出品物が注目を浴びていた。ジュネーブ時間の金曜日午後に、1993年に製作されたF.P.ジュルヌにとって2番目の腕時計であるトゥールビヨン・スヴラン・ア・ルモントワール・デガリテが落札されたのだ。ハンマープライスは600万スイスフラン(日本円で約10億4700万円)、総額では732万スイスフラン(835万7441ドル、日本円で約12億7700万円)に達した。

最信頼性の日本パネライスーパーコピー代引き専門店!これまでにF.P.ジュルヌでオークションにおける最高額を記録したモデルといえば、2021年のチャリティーオークション・ONLY WATCHに向けて製作されたユニークピースの“ザ・ハンド”だろう。その落札総額は450万スイスフラン(正確には総額474万9000スイスフラン、日本円で約5億8780万円)にのぼった。今回の出品作が“ザ・ハンド”を超えるかどうかについてジュネーブや時計業界ではあまり疑問の余地はなかったというが、最終的な落札価格がどこまで上がるかは正直謎であった。確かに現代のマーケットにおいてジュルヌはピークにないが、このように歴史的に重要な時計は一般的な市場動向の影響を受けにくいとされている。

フィリップス オークションにおける注目のロットには、もはや恒例ともいえる演出がある。今回はポール・ブトロス(Paul Boutros、フィリップス米国担当副会長兼アメリカ地域責任者)氏がその伝統を引き継ぐ形で、電話席から力強く「500万!」と入札を開始した。このひと声はほかの入札者を牽制するためだったかもしれないし、あるいは2017年のオークションでポール・ニューマン デイトナで見られた「1000万ドル!」という有名な掛け声へのオマージュだったのかもしれない。この威勢のいい演出は会場内に少なからぬ驚きをもたらしたが、フィリップスのスペシャリストのほぼ全員が電話で入札希望者とやり取りを続けるなか、会場にいる人々は誰も応札せずしばらく静寂が続いていた。

そのあいだオークションの名手でありショーマンシップに溢れるオーレル・バックス(Aurel Bacs)氏が沈黙を埋めるように、前列に座っていたフランソワ-ポール・ジュルヌ(François-Paul Journe)氏本人と会話を始めた。ジュルヌ氏は自身が最初に製作した腕時計、自分の私物であるその時計は決して売りに出さないと明言した。つまり今回の出品作こそが、所有可能な最も古いジュルヌの時計なのだ。

意外にも突然、会場内の入札者が応札し、500万スイスフランを上回る額で応酬が始まった。ブトロス氏と彼の顧客はすぐさま応答し、最終的に600万スイスフランの提示で落札が決まった。

ハンマーが振り下ろされた瞬間。 Image courtesy of Phillips.

落札手数料を加えた最終総額は732万スイスフランに達し、これにより今回のロットはジュルヌの時計として最高額、独立時計師による腕時計としても史上最高額、さらにオークション史上7番目の高額時計となった。

オークション会場の雰囲気はどうだったのだろう。先述した静寂のなかで会場はコレクターやディーラー、そして渋々とついてきた同伴者まで、立ち見が出るほどの満員状態だった。多くの人がiPhoneを掲げ、バーチャルアルバム用に自前の動画を収めようとしていた。ハンマーが鳴らされると予想どおり拍手が湧き上がり、フランソワ-ポール・ジュルヌ氏の顔にはかすかな微笑みが浮かんでいたことだろう。その様子を確かに見届けられたのは、彼と向かい合う位置にいたオークショニアのバックス氏だけだったに違いない。

An FP Journe wristwatch
一連の出来事が何を意味するかについて考えてみたい。この結果は依然として大きな意義を持つものだが、かつてほどの驚きが感じられないのも事実だ。このジュルヌの時計はオークションで落札された腕時計としては7番目に高額なものとなったが、その上位6点のうち3点が過去3年以内に落札されている。確かに500万ドルを超える金額で時計が落札されること自体には大きな意義があるが、これほどのプライスが提示されることに業界全体がやや慣れてきた感もある。

ジュルヌの愛好家やフランソワ-ポール・ジュルヌ氏本人にとって、この結果は非常に満足のいくものであろう。ONLY WATCHのオークション会場から出るときに聞こえてきた、レジェップ・レジェピの出品作がジュルヌの作品を上回ったことを指摘する参加者の声が耳に残っている。「“次なる(ネクスト)ジュルヌ”がジュルヌ氏自身を追い越した」──この言葉は忘れられない。しかし前日のフィリップス ジュネーブにおいてジュルヌは控えめな勝利を手にし、独立時計師による腕時計の最高額記録を打ち立てた。彼自身が手作業で製作した時計が、ほかのどの独立時計師の時計よりも高額で落札されたことは、彼の内に秘めた誇りを感じさせた。

これまで独立時計師による腕時計の最高額を誇っていたのは、フィリップ・デュフォーのグラン プチ ソヌリであった。A Collected Manをとおし、763万ドル(当時のレートで8億7000万円)で販売された。Image: courtesy of A Collected Man.

より広い視点で見ると、今回の結果は時計収集におけるひとつの傾向を反映している。すなわちクオリティの高さがますます重要視され、エスティメートを遥かに超える金額で落札されるケースが増えているということだ。この11月に開催されたジュネーブ オークションはまだ今シーズンにおける序章に過ぎないが、フィリップスはこのジュルヌ以外にも初期“レインボー”モデルとして最高額となったロレックス デイトナ、デレク・プラット(Derek Pratt)とウルバン・ヤーゲンセン(Urban Jürgensen)による懐中時計“オーバル”および“レモンダイヤル”のポール・ニューマン デイトナの最高額記録を次々に打ち立てている。トップレベルのコレクターは時計の状態や品質にかつてないほど精通しており、圧倒的に優れた時計ほど価格にもその価値がますます反映されるようになっている。

ではブトロス氏の電話の向こうにいたのは一体誰だったのか。フィリップスのチームは法的にも当然口外しないが、バックス氏のハンマーがロストラム(演台)を叩いた直後、あるアメリカ・ハーバード大学出身のテクノロジー業界のエグゼクティブが新しい所有者であるという噂が広まった。多くの噂には一抹の真実が含まれるものだが、この噂には事実の根拠がない。