時計に込められた哲学「クロノグラフ」
クロノグラフとは、通常の時刻表示機能に加え、ストップウォッチ機能も搭載した時計である。まずは、クロノグラフの歴史や魅力、代表的なメーターの種類を見ていこう。
時計史におけるクロノグラフの歩み
ナビタイマー クロノマチック
ブライトリングは、1969年に自動巻きクロノグラフムーブメントのCal.11を搭載した「クロノマチック」を発表。その後、1970年代初頭にはクロノマチック・ムーブメントCal.12を搭載した「ナビタイマー クロノマチック」(写真)をリリース。このモデルは50mの防水性能を確保するため、直径48mmのケースサイズだった。
最初の商用クロノグラフは、時計師ニコラ・リューセックが1821年に作ったものだとされている。しかし、それより5年も前の1816年にルイ・モネが天文観測用のクロノグラフを作っていたともいわれており、始まりには諸説ある。
近代クロノグラフの祖と呼ばれるアドルフ・ニコルは、1844年にクロノグラフの原型を作り、1862年にはクロノグラフ付き懐中時計を製作している。
1915年に最初の腕時計専用クロノグラフを作ったとされるのは、ブライトリングだ。その後、1969年にはブライトリングとホイヤー(現タグ・ホイヤー)、ハミルトン、デュボア・デプラが共同で、クロノマチックと呼ばれる「Cal.11」を開発し、現代的な形へとつながっていった。
クロノグラフが放つ魅力
クロノグラフの大きな魅力が計測機能。過去には、自動車レースや世界大戦でもクロノグラフが活用されていた。
今でこそ電子機器のストップウォッチが普及しているが、クロノグラフは計測時に時計の一部を切り離して使い、終われば戻すという仕組みの機構だ。パーツの組み立てだけでストップウォッチ機能を時計の内部に仕込んでいるのである。
メカニカルなデザインもクロノグラフの魅力だ。パネライ スーパーコピー代引きインダイアル、クロノグラフ秒針、メーターの表記などが複雑に絡み合い、男心をくすぐる表情となっている。
代表的なメーターの種類
スピードマスター
オメガの「スピードマスター」は、1957年に登場した初代モデルより、タキメータースケールをベゼルに刻印。このデザインは、その後のクロノグラフモデルにも影響を与えた。
ベゼルやダイアルに記されたメーター、積算機能の組み合わせにより、クロノグラフではさまざまな計測が可能となっている。
代表的なメーターが「タキメーター」と「テレメーター」である。タキメーターは時速の計測、テレメーターは距離の計測が可能だ。計時を60進法から10進法に置き換えられる「デシマルメーター」もある。
クロノグラフによっては、1分間の脈拍数や呼吸数を計測できるメーターを備えたものもある。脈拍数を計るのが「パルスメーター」、呼吸数を計るのが「アズモメーター」だ。
クロノメーターとの違い
クロノグラフと意味を混同しやすい言葉に「クロノメーター」がある。しかし、クロノメーターは高精度の認証を受けた時計のことを意味し、クロノグラフとは全くの別物だ。
そのため、クロノグラフでありクロノメーターでもある時計が存在するのである。
クロノメーターという場合、現在は一般的に「C.O.S.Cクロノメーター」を指す。C.O.S.C.クロノメーターは機械式時計の精度基準であり、ISO3159の基準に従った規格となっている。
垂直や水平といった5つの姿勢差や3つの温度下に置くなど、多角的な条件で15昼夜にわたって検査を実施し、日差-4秒~+6秒以内に収まるのが条件だ。
クロノグラフの上位機構
クロノグラフはそれ自体が高い技術を要する機構なのだが、さらに発展させた上位機構も存在する。代表的な3つの発展型クロノグラフを紹介しよう。
フライバック
タグ・ホイヤー モンツァ キャリバー ホイヤー02 フライバック クロノメーター
タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー モンツァ キャリバー ホイヤー02 フライバック クロノメーター」Ref.CR5090.FN6001
2023年にタグ・ホイヤーから発表された、フライバック機構搭載のスペシャルモデル。ケースには軽量で耐久性に優れたカーボン素材を採用する。自動巻き(Cal.ホイヤー02 COSC フライバック)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。カーボンケース(直径42mm)。100m防水。200万2000円(税込み)。(問)LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー Tel.03-5635-7054
「フライバック」は、ゼロリセットとリスタートを同時に行える機構のことである。通常のクロノグラフでは、停止・リセット・再スタートを分けて操作するが、フライバッククロノグラフでは3アクションが1プッシュで完結する。
量産型フライバック機構が採用された最初のムーブメントは、1939年に発表されたドイツのUROFA製Cal.59とされている。
計測時の中間タイムを読み取りやすくなるため、本来は航空シーンで役立つ機能なのだが、一般ユーザーの場合はスポーツやアウトドアなどのアクティブなシーンで重宝するだろう。
スプリットセコンド
トリプルスプリット
A.ランゲ&ゾーネ「トリプルスプリット」Ref.424.037F
2018年の発表以来、計測時間を最長12時間まで積算して比較できるスプリットセコンド・クロノグラフとして好評を得たA.ランゲ&ゾーネの「トリプルスプリット」。写真は2021年に追加された、ピンクゴールドケースのモデルだ。手巻き(Cal.L132.1)。46石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約55時間。18KPGケース(直径43.2mm、厚さ15.6mm)。3気圧防水。世界限定100本。要価格問い合わせ。(問)A.ランゲ&ゾーネ Tel.0120-23-1845
7大複雑機構のひとつにも数えられる「スプリットセコンド」は、2本の針で異なるふたつのタイムを計れるクロノグラフだ。不具合が起こりやすいため、作るのが非常に難しい機構として知られている。
スプリットセコンドで有名なブランドが、A.ランゲ&ゾーネとブライトリングだ。A.ランゲ&ゾーネの「トリプルスプリット」は、3つの積算時間を時間単位で表示できる。
また、自動巻き機構を持つムーブメントの場合、クロノグラフ機構は裏蓋側に収まっているため、ここにスプリットセコンド機構を追加するのは困難なのだが、ブライトリングはこれを文字盤側に設置したことで、製作が難しいスプリットセコンド化を無理なく実現させた。
スプリットセコンドを搭載したクロノグラフは、レースや競技の計測など、正確なタイム計測を必要とするシーンに向くだろう。
エル・プリメロ
クロノマスター スポーツ
ゼニス「クロノマスター スポーツ」Ref.03.3100.3600/69.M3100
2021年に発表され、世界的に話題となったゼニスの「クロノマスター スポーツ」。搭載するムーブメントは、2019年の「クロノマスター2」で初採用されたCal.エル・プリメロ 3600。3万6000振動/時のハイビートはもちろんのこと、1/10秒単位の計測が行えるクロノグラフ機能を加え、より詳細な計測を可能にした。自動巻き(Cal.エル・プリメロ 3600)。35石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径41mm)。10気圧防水。156万2000円(税込み)。(問)ゼニス ブティック銀座 Tel.03-3575-5861
「エル・プリメロ」はゼニスが1969年に発表した、一体型自動巻きクロノグラフムーブメントで、この機構を搭載したゼニスのモデルにも、エル・プリメロの名が冠されている。
3万6000振動/時の高速振動による高い精度が、エル・プリメロの大きな特徴だ。発表当時は約50時間のパワーリザーブを備えていたことでも注目を集めた。
エル・プリメロはロレックスのデイトナに搭載されていた時期もある。ロレックス時計の中で唯一の社外製ムーブメントであったことから、エル・プリメロの高い信頼性がうかがえるだろう。
高い精度と信頼性から、計時機能を必要とする航空から自動車競技、宇宙開発まで、さまざまな分野で使用されている。
クロノグラフの人気コレクション
クロノグラフは高級時計の中でも人気のジャンルであり、各ブランドが力を入れてコレクションを展開している。主要ブランドのおすすめコレクションを押さえておこう。
ロレックス「コスモグラフ デイトナ」
オイスター パーペチュアル コスモグラフ デイトナ
ロレックス「オイスター パーペチュアル コスモグラフ デイトナ」Ref.126500LN
自動巻き(Cal.4131)。44石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40mm)。100m防水。
「オイスター パーペチュアル コスモグラフ デイトナ」は、カーレースの現場から求められて1963年に誕生したロレックスのクロノグラフモデルである。約72時間ものパワーリザーブを誇るCal.4131が搭載されている。
見た目はスポーティーでダイナミックだ。シンプルで読みやすいインデックスを備えている。ベゼルにはタキメータースケールが刻まれており、レーシングウォッチのような印象だ。
特定モデルに使われているハイテク セラミック製のモノブロック セラクロムベゼルは、耐蝕性、耐傷性、耐久性に優れており、紫外線による影響も受けにくい。
ブライトリング「ナビタイマー」
ナビタイマー B01 クロノグラフ
ブライトリング「ナビタイマー B01 クロノグラフ 43」Ref.AB0138211B1P1
自動巻き(Cal.01)。47石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径43mm、厚さ13.6mm)。3気圧防水。128万1500円(税込み)。(問)ブライトリング・ジャパン Tel.0120-105-707
ブライトリングの時計は、実用性の高さと計器らしい精悍な佇まいを特徴に持つ。クロノグラフモデルは全てC.O.S.C.の認定クロノメーターである。
ブランドを代表する「ナビタイマー」は、1952年に航空用の回転計算尺を備えたクロノグラフとして誕生したモデル。
ナビタイマーには、特徴的なスライドルールが文字盤の周りに配置されており、速度や降下率、上昇率などが計算できるようになっている。ステンレススティールのケースに、レザーまたはステンレススティールのブレスレットが組み合わせられている。
オメガ「スピードマスター」
スピードマスター ムーンウォッチ
オメガ「スピードマスター ムーンウォッチ」Ref.310.30.42.50.01.002
手巻き(Cal.3861)。26石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径42mm、厚さ13.2mm)。5気圧防水。123万2000円(税込み)。(問)オメガお客様センター Tel.03-5952-4400
オメガの「スピードマスター」は、当初はモータースポーツのプロ仕様モデルとして開発されたクロノグラフウォッチである。その後は優れた性能がNASAに評価され、有人宇宙飛行にも携行された経歴を持つ。
スピードマスター以前のクロノグラフでは、タキメーターをダイアル外周に配していた。スピードマスターはタキメーターをベゼル上に配し、その後のクロノグラフのデザインにも大きな影響を与えている。
クラシックな時計のデザインと、現代的なテクノロジーを融合させているのが、スピードマスターの特徴だ。ケースバックには「シーマスター」と同様、海の守護神であるシーホースの姿が刻印されてきたが、2021年にはシースルーバックを備えた写真のモデルもラインナップに追加された。
チューダー「ブラックベイ クロノ」
ブラックベイ クロノ
チューダー「ブラックベイ クロノ」Ref.M79360N-0001
自動巻き(Cal.MT5813)。41石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径41mm、厚さ14.4mm)。200m防水。81万6200円(税込み)。(問)日本ロレックス/チューダー Tel.0120-929-570
チューダーはロレックスの兄弟ブランドとして誕生した時計メーカーだ。創業当初はロレックスの販促ブランドとしての側面が強かったが、独自路線に舵を切ってからはチューダーらしさをモデルに反映させている。
「ブラックベイ クロノ」は、全モデルにブランド初の自社製ムーブメントCal.MT5813を搭載したコレクションである。約70時間のパワーリザーブを備え、C.O.S.C.認定も取得している実用性の高さが魅力だ。
チューダーの象徴でもあるスノーフレーク針が、レトロな雰囲気を醸し出している。ステンレススティール製ブレスレットをはじめ、レザーやファブリックなど、ストラップは3種類が用意されており、好みの1本を見つけやすいだろう。
クロノグラフで大人の男を演出
優れた実用性とメカニカルなデザインが、クロノグラフの大きな魅力である。時間を切り取るという複雑な仕組みに、ブランドの魂と哲学が詰め込まれている。
スポーツやアウトドアなどのシーンなら、ストップウォッチ機能が役立つ機会もあるはずだ。お気に入りの1本を探し、クロノグラフで大人の男を演出しよう。