月別アーカイブ: 2025年9月

独立時計師という存在に日が当たるようになった立役者のひとりでもあるアントワーヌ・プレジウソ氏。

現在は息子であるフロリアン氏とともにアントワーヌ プレジウソブランドの運営をしている。そんなプレジウソ親子が5年ぶりに来日を果たした。しかも、ブランドのルーツともいえるコレクションの復刻版を引っ提げて。

1986年に発売されたオリジナルのシエナ。デザインはほぼ現行モデルと変わらない。

アントワーヌ プレジウソといえば、トゥールビヨンをはじめとするコンプリケーションウォッチがよく知られているが、実はアントワーヌ プレジウソ銘で発表された最初の時計はシンプルな自動巻きウォッチだった。それが1986年に初めて自身の名を冠して発表したシエナコレクションだ。
そんなデビューコレクションであるシエナが30年以上の時を経て復刻。今回は、その復刻版の発売に合わせて久々の来日となった。そもそもシエナとはどんなコレクションだったのか? アントワーヌ本人の口からコレクション誕生の経緯、そしてどんな思いを込めた時計だったのかを聞くことができた。

アントワーヌ・プレジウソ氏

シエナはもともと、彼がイタリア・トスカーナ地方にある古都シエナへ旅行で訪れた際に、世界一美しい広場と称されるカンポ広場で見た“マンジャの塔”の時計にインスピレーションを得て作られた腕時計だ。複雑な造形を持つ時・分針は、塔の時計に見られる1本針を参考にしたもので、ラグのない真円のケースは時計盤面のイメージを崩さないために取り入れたアイデアだ。アントワーヌ氏は次のように当時の思い出を語る。

「シエナを訪れたのは“マンジャの塔”の時計があったからというわけではなく、たまたまでした。そこで偶然目にした時計塔に感銘を受けて腕時計にしたいと思ったのです。腕時計として形になり販売できたときは、自分の芸術性が理解されたのだと、とてもうれしかったことをよく覚えています。シエナの復刻版を今回発表したのは、これまでのスタイルを保持しながらも、このコレクションがこの先もずっと続いて欲しいという思いがあったからです」

シエナ Ref.SISSM.0402510S。94万6000円(税込)

シエナは、中世の時計を想わせる装飾的な針と艶やかなマザー・オブ・パールのダイヤルが印象的。なお、トップイメージのブレスレット仕様は104万5000円(税込)だ。ステンレススティールケース、フレンチカーフ(裏側防水加工)ストラップ。34.5mm径。厚さ9mm。3気圧防水。自動巻き(パワーリザーブは約56時間)。

復刻されたシエナは、一見すると30年以上前のオリジナルとほぼ同じように見える。だが、決して何も変わっていないわけではない。イエローゴールドだったケースは、オリジナルにはなかったSSケースへと変わり、大理石だったダイヤルはマザー・オブ・パールへと変更された。そしてできる限りケース形状に合わせてデザインされたリューズは、爪を痛めないようにと、エルゴノミクス的観点から使いやすさを意識して少し大きくなった。

ムーブメントはETAベースからセリタベースとなり、デザインは変わったものの、ブランドロゴをデザインした自動巻きローターを持つ。ムーブメントこそ汎用品だが、針やダイヤルは自身が認めたビエンヌにあるサプライヤーによるものを使用。針の造形が複雑なため、パーツの段階に加えて、アッセンブリの段階でもクオリティコントロールしているとのこと。これは量よりも質を重視したい、クオリティに目の届く範囲で時計を作りたいという彼らの思いからだ。

ディテールはアップデートされているが、アントワーヌ氏が心動かされた時計塔をほうふつとさせる優美なダイヤルデザインや装飾性に富んだ針はそのまま。ラグのないシリンダー型ケースや、34.5mmというサイズもオリジナルとほぼ変わっておらず、男性・女性問わずジェンダーレスにつけることができる。

アントワーヌ・プレジウソといえば“神の手を持つ男”と呼ばれ、フランク・ミュラー(ちなみにふたりはジュネーブ時計学校で時計づくりを学んだ)とともに早くからトゥールビヨンウォッチなどの複雑時計製作に取り組んできた独立時計師である。コンプリケーションウォッチを手がけることと、シエナのようなシンプルな腕時計(複雑時計に比べたら、であるが)をつくることに対してどんな思いを持っているのだろう? 彼は言う。「私の“プレジウソ”という名字はイタリア語でプレシャス、つまり“貴重な”という意味を持っています。だから自分が作るものは常にプレシャスなものでありたい。そういうものしか作りたくない。シエナコレクションにおいてもそれは変わりません」

今回の来日の目的は、主に新しいシエナコレクションお披露目のためであったが、やはりアントワーヌ・プレジウソはコンプリケーションウォッチの存在抜きには語れない。

1978年にジュネーブ時計学校を首席で卒業後、パテック フィリップに採用され早くから複雑時計の技術を磨いていくことになるが、彼の名が時計業界で広く知られるようになるのは90年代に入ってからだ。ブレゲからの依頼で世界で最も複雑な腕時計(当時)、ミニッツリピーターパーペチュアルカレンダーウォッチを開発・製作させ、92年には自身の名でトゥールビヨンウォッチを発表するとともに、ユニバーサル・ジュネーブ(92年)やハリー・ウィンストン(93年)のためにトゥールビヨンウォッチを製作。以降もさまざまなブランドのために独創的な腕時計を製作したが、2002年にはハリー・ウィンストンによる「オーパス2」プロジェクトに参加。時・分表示付きのトゥールビヨンを13本、パーペチュアルカレンダー付きトゥールビヨンを13本(ダイヤモンドをあしらったものを含めて)製作したことで、一躍その名を業界に知らしめた。ブランドの輝かしい歴史は以下のリンクにまとまっているので、詳しく知りたい方はぜひ一度確認してみて欲しい。

さて、アントワーヌ プレジウソにとってコンプリケーションは欠かせない存在であるのは間違いないが、実はそれと同じくらい非常に重要なものがある。それがメテオライト(隕石)を用いた腕時計だ。1989年に世界で初めてダイヤルにメテオライトを用いた腕時計を発表し、オーパス2プロジェクトで名を上げた2002年には、世界初のメテオライトケースを採用した腕時計も発表。以来、その存在は、同ブランドにおける象徴のひとつになっており、筆者が今回のインタビューでどうしても聞きたかったのが、このメテオライトについてだった。今でこそメテオライトダイヤルを持つ時計は、さまざまなブランドで見られるようになったが、なぜアントワーヌ・プレジウソ氏は時計にこの素材を使用しようと思ったのだろうか? 彼は気さくにその理由を語ってくれた。

「毎年、家族で山にある別荘に行っていたのですが、そこで寝転がって流れ星をよく見かけました。それがきっかけとなってメテオライトに関心を持つようになったのです。当時はまだ今ほどインターネットなどが発達している時代ではありませんでしたから、さまざま書物を頼りに調べ、メテオハンターと呼ばれる人にコンタクトを取りました」

ノモス グラスヒュッテより、初代クラブのデザインをアップデートしたクラブ リデザインが登場。

ノモスからクラブが発表されたのは2007年のことだ。それまでのタンジェント、オリオンといったバウハウスデザインの粋を表現したミニマルかつドレッシーなコレクションと比べ、クラシックながらもどこかカジュアルで遊び心を感じさせるエントリーモデルとして当時話題を呼んだ。やわらかに丸みを帯びたベゼルや(ノモスのなかでは)太めのラグといった特徴的なディテールは、その後のクラブ キャンパス、クラブ スポーツ、クラブ アクアといった派生モデルへと引き継がれ、現在ではクラブはノモスのスポーツウォッチを代表するコレクションに成長している。

そんなクラブの記念すべきオリジナルモデルが、2023年の末にアップデートを加えたうえで復刻されたという。その名も、クラブ リデザイン。今回ノモスが行ったのは、ベースとなるモデルを最大限リスペクトした繊細な変更だ。まるで間違い探しのようだが、順を追って確認していこう。

まずはケースから。オリジナルクラブにならい、クラブ リデザインも36mmのケース径を踏襲した。厚みは8.2mと、目立った差はない。アールを描く太めのベゼルやラグの形状にも変わりはなく、ほかのコレクションと比べて操作しやすい大ぶりのリューズも健在だ(そして10気圧防水も)。総じて、外装に特筆すべき変化はない。ムーブメントにもノモスの伝統的な手巻きムーブメントであるアルファが搭載されており、ストラップも赤いステッチが入ったシェルコードバンのブラウンストラップとなっている。

一方、ダイヤル上にはいくつかの細かな調整が見られた。もっともわかりやすいのは6時位置のスモールセコンドだろう。より彫りが深いレコード引きにより視認性が高まっただけでなく、“20”、“40”、“60”の秒数表示がプリントされたことでグッとスポーティな雰囲気が生まれた。また、時刻表示のインデックスは太く大きく、黒くふちをとることでアウトラインが明確になり、ミニッツトラックがベゼルのきわまで移動したことでダイヤル全体が引き締まった印象になっている。それに合わせて時分針もほんの少しだけ太く、長くなった。分針はオリジナルと変わらず、ミニッツトラックにしっかり届いている。ここまででも視認性という面で十分な改善が行われたことがわかると思うが、ダメ押しとばかりにクラブ キャンパスやクラブ アクアで採用されていたスーパールミノバが時分針とインデックスに塗布されている。

なお、ケースバックについてはクローズドバック(Ref.NM701.1)とシースルーバック(Ref.NM703.1)の2種類が用意された。クラブコレクションはケースバックへの無料刻印も目玉としているために、クローズドバックでの展開が中心となっている(クラブは、人生の節目における贈答品や自分への記念品としての打ち出しを強く行っている)。だが、ムーブメントに施されたグラスヒュッテ・ストライプ仕上げおよびノモス・ペルラージュ仕上げを視認できないというもどかしさもあった。今回のリデザインでは、その需要にも応えてくれたようだ(なお、サイトで確認したが文字数は減るもののサファイアガラスの外周に刻印はできる。安心して欲しい)。ノモス クラブ リデザインの価格は、Ref.NM701.1が税込22万円で、Ref.NM703.1が税込25万3000円。すでにノモスの店頭や公式Webサイトで販売が開始されているが、Ref.NM701.1は日本での店頭販売は行なっておらず、サイト購入の場合も本国からの直接発送となる。

ファースト・インプレッション
そうそう、オリジナルのクラブとクラブ リデザインの違いはもうひとつあった。それは2007年の発表時、ドイツのノモス社屋の斜向かいにあったクラブに生涯フリーで入場できるエントランスチケットがついていたことだ。当時の20〜30代をターゲットとして開発されたクラブには、太く頑丈なラグとベゼルに、暗闇でも視認性を確保してくれるオレンジの針と大ぶりなインデックス、多少の汗はものともしない10気圧防水(そして手が届く価格帯)と、アクティブに遊ぶ若者が求めるであろう要素がノモスらしいデザインのもとに盛り込まれていた。当時のノモスが考える、若々しさの象徴のような時計だったのだ。

時が経ち現在は2024年。17年のあいだには39mmと42mmと比較的大径のケースにメタルブレスを備えるクラブ スポーツ、20気圧防水を確保しダイビングにも対応するクラブ アクアなどリアルなスポーツシーンを想定したハイスペックなモデルが生み出され、クラブはスポーツウォッチコレクションとしての洗練を続けてきた。しかしほかのクラブコレクションが進化し、増加を続けるなかで、これまでオリジナルクラブだけはWebサイト上から姿を消してしまっていた。今回の復刻においては、オリジナルクラブの復活を求めるファンの熱烈な要望がきっかけにもなったという。ノモスを代表するスポーツコレクションのオリジンとして、オリジナルクラブは数年間の開発期間を経て現代に堂々の復活を遂げたのだ。

とはいえ、冒頭でも書いたとおりまるで間違い探しのようなリデザインである。トレンドの推移に敏感なブランドのなかには、よりスタイリッシュに、モダンにとダイヤル上に大胆な変更を行うところも少なくない。しかしノモスは、あくまで17年前のオリジナルクラブの面影を明確に残すことを目的としたように見える(公式サイトでも、「古典的な腕時計が戻ってきました!」とうたっている)。個人的にアーカイブに敬意を払ったアップデートは大歓迎だし、既存ファンも納得しつつ新たな若い層へのアプローチも狙える、いい塩梅のアレンジだと思う。

だが、今作のリリースにも「オリジナルのデザインに変更を加えたブランド初の試み」という一文があるように、これまでノモスは(タンジェントにせよオリオンにせよ)そのベースとなるモデルには一切手を加えてこなかった。今回オリジナルモデルのリデザインに踏み切った理由や開発の経緯、今後ほかのモデルに波及する可能性については、ぜひ直接ノモスに話を聞いてみたい。

基本情報
ブランド: ノモス グラスヒュッテ(NOMOS GLASHÜTTE)
モデル名: クラブ リデザイン
型番: NM701.1(日本ではオンライン販売のみ)、NM703.1

直径: 36mm
厚さ: 8.2mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: ホワイトシルバー
インデックス: アラビア数字とバーのプリント
夜光: 時分針、インデックス
防水性能: 10気圧
ストラップ/ブレスレット: 赤ステッチ入りのブラウンコードバン

ムーブメント情報
キャリバー: アルファ
機能: 時・分表示、6時位置にスモールセコンド
直径: 23.3mm
厚さ: 2.6mm
パワーリザーブ: 約43時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 2万1600振動/時
石数: 17石
クロノメーター認定: なし

価格 & 発売時期
価格: NM701.1が税込22万円、NM703.1が税込25万3000円

バルチックがこれまでで最もアヴァンギャルドな新作をリリースした。

ステンレススティールとチタンをミックスしたケースに4色展開の大胆な文字盤デザイン、レザーストラップとメッシュブレスレットのオプションが加わったバルチック プリズミックを紹介しよう。これは間違いなくバルチックのなかで特に驚くべきデザインのひとつであり、かなり意見が分かれるとは思うが、手頃な価格ながら多くのことが行われているのは事実だ。

先に述べたように、この時計のケースはサテン仕上げとポリッシュ仕上げのラグ、ベゼル、(シースルー)ケースバックのエッジから成る5つのパーツで構成され、すべてSS製である。ケースの残りの部分はグレイン仕上げされたグレード5チタン製で、30mの防水性を確保している。ドーム型サファイア風防を採用し、ベゼルの縁はポリッシュ仕上げとサテン仕上げの表面が混在。シースルーバックをとおして、手巻きのプゾー 7001ムーブメントを鑑賞でき、同ムーブメントの厚さはわずか2.5mmと、手頃な価格とスリムさを実現した。なおパワーリザーブは約42時間だ。

この薄さにより、全体の厚さは9.2mmしかない(風防を除いた場合は7.4mm。時計が手首にどのようにフィットするかおわかりいただけるだろうか)。ストラップは990ユーロ(日本円で約16万円)のイタリア製カーフレザーストラップ、あるいは1050ユーロ(日本円で約17万円)のクイックリリース付きメッシュブレスレットの2タイプから選べる。

いつものことだが、ショーの主役は文字盤だ。中央部分は外側のトラックと同様、ギヨシェモチーフで仕上げられ、インデックスを囲む中央部分は円形のサテン仕上げとなっている。スモールセコンドの文字盤は粒状の質感で、それをサテン仕上げのSS製リングで縁取っている。またサテン&ポリッシュ仕上げの面取りが施されたドーフィン針もポイントだ。インデックスも洗練されており、ミッドセンチュリーの“カクテルウォッチ”らしい雰囲気を醸し出している。文字盤はパープル、グリーン、サーモン、アイスブルーグレーの4色から選べる。

バルチック プリズミックは、今後10日間(米国東部時間2月25日 午前10時まで)の予約注文を受け付けており、最初の注文分の納品は2024年7月に行われる予定。以降の注文は、2024年10月から順次届けられる。

昨年末、これをちらっとプレビューで見たときは本当に驚いた。文字盤のワイルドなテクスチャーの組み合わせと大胆なインデックスは、バルチックの過去のリリースと比べるとかなり常識を逸脱しているように思う。ブランドのこれまでのリリースというと、私はどちらかといえば実用的かつ手頃な価格のものを連想しがちだ(MR-01のドレスウォッチを持っているにもかかわらず)。彼らのプレス用写真も、ピンク・フロイドの『狂気(原題:Dark Side of the Moon)』みたいな、プリズム的な雰囲気だった。ただの壁のレンガ(Brick In The Wall)ではないと言ってもいい…ごめん、アルバムを間違えた。しかし手頃な価格の時計が、往々にして当たり障りのない美的感覚に傾きがちなこの世界で、本作は大きなサプライズだった。

デザインから価値まで、明白にすべきことがたくさんある。正直なところ、パッケージがどのようにまとまるのかよくわからず、もう少し時間をかけてデザインを見てみたかった。バルチックは親切にも今日の発表に先立って各文字盤の試作サンプルを実際に撮影できるように、生産前の時計を用意してくれた。裏蓋のネジの間隔など、変更点はいくつかあるが、前提条件はすべて実機で再現されている。バルチックのリリースはいつも価格の割にはしっかりしている感じがするため、彼らが実験したくなる気持ちは理解できる。さまざまな仕上げ技術を駆使して、人々をあっと驚かせるような時計を作ってみてはどうだろう? 確かに、このデザインはとてもおもしろいアイデアだが、突然出てくるものではない。

この時計には1950年代からのヒントがたくさん詰まっている。パテック Ref.2549(および2550)の“ディスコボランテ”に似た形状のラグと、ここでの比較としてより適切なのは、ミックス仕上げの文字盤に植字インデックスを採用した時計である。大胆なピラミッドインデックス、ギヨシェ、サテン加工された表面とセクターセコンドというデザインの組み合わせ例は、控えめに言ってもかなりのものだ。最初は気に入るかどうかわからなかったが、何度も見るうちに好きになってきた。その時計は確かにこれらの色のほうがうまくいくだろう。ブルーグレーはほかの時計と並べて見たときにとても落ち着いた感じがして(問題なく使える) 、パープルは私には大胆すぎた(好みによるかもしれない)。ただグリーンは完璧なバランスが取れていて、メッシュブレスレットとの相性もよく、サーモンダイヤルもクラシックな雰囲気を醸し出している。2549を愛する私としては、バルチックがもっと大胆なパッケージになるような形状のケースを全面的に採用してくれたらうれしかったのだが、エントリーレベルの時計としては確かに理にかなっているとも思う。

さて、どうしようもない理由から私はブレスレットマニアなのだが、この時計の最高の特徴のひとつであるSS製メッシュブレスレットが含まれていることについて話そう。これは現代のリリースではかなり珍しく、ミッドセンチュリー的な雰囲気が再び強調されている。このブレスレットは2023年に発表されたバルチックのOnly Watchエディション(パープル文字盤が印象的であった)で見たことある人もいるかもしれない。また、オメガのノータイム・トゥ・ダイ・シーマスターブレスレットもほうふつとさせる。シーマスターをNATOからメッシュにアップグレードする場合、バルチック プリズミックだけではそれ以上のコストがかかることだろう。

このメッシュは、テンションクラスプからとおして閉じることで、所定の位置に固定される(残念ながら、ノータイム・トゥ・ダイにあるようなデプロワイヤントバックルはない)。ほかのメッシュブレスレットでは、手首の内側を圧迫する余分な“テール”に不満を持つ人を聞いたことがあるが、このモデルはそんなことは起きない。薄いケースと非常に快適なストラップのおかげで、時計は私の手首にピッタリとフィットし、身につけるのが楽しくなった。この値段でこのクオリティは新鮮だ。イタリアンレザーのストラップも悪くないし、メッシュがちょっと派手な人にはいい選択だろう。ただしバルチックであれブラックベイ 58であれ、私はいつもブレスレットから始め、あとで必要に応じて交換することを皆にすすめている。

スペック上気に入る箇所はたくさんあるが、これをコレクションに加えるかどうかはまだ決めていない。私のコレクションにどのように収まるか、想像するのは難しいし、デザインを変更したいと思う点もいくつかある。そして、それは公平な判断だ。すべてのブランドがすべての時計を、私の好みに合わせてつくってくれるわけではないし、それはそれでいい。もしかしたら私は真に理解していないのかもしれない。ただパテックのRef.2549R-1という、唯一公に知られているモデルを私にくれる人がいたら、すぐにそれに飛びつくだろう。しかしほかの好みに関係なく、本当の問題はそれが実際にどう機能するかということだ。もちろん気に入った点はたくさんあるが(熱心なファンからしたら何の問題もないだろう)、今後改良される可能性のある点をいくつか挙げてみよう。

先ほど言ったように、新しいプリズミックのダイヤルバリエーションのなかには、ほかのものよりもうまく機能するものがある。しかしこの価格面で競争力を証明しているブランドは、ほかにもいくつかある。特にクリエイティブなデザインと高価値の仕上げを、手頃な価格で提供することに関してだ。プリズミックでは、SSとチタンをミックスすることでケース素材と仕上げのミックスによる理論的な付加価値を提供している。確かに手首につけても遠くから見ても、ちょうどよく見える。しかしもう少し近づいてみると、ケースにあまりにも多くのことが起きすぎて、そのどれもが目立っていないことがわかった。文字盤も同様で、中央のトラックが文字盤のより興味深い仕上げを妨げている。何度も繰り返している同じ例で比較すると、パテックは文字盤にふたつの異なる仕上げをミックスさせただけだった。少ないほうがいいのかもしれない。さらに、プゾー 7001は実用的なムーブメントであるが、組み立て途中という印象にも受け取れるため、シースルーバックは少し不必要だったかもしれない。そうは言っても、これが非常に手頃な価格のリリースであることを忘れてはならない。

現在、バルチックの時計をいくつか所有しているが、MR01、エルメティック、アクアスカーフ、トリコンパックスといったラインは彼らの得意分野であり、素晴らしい表現をしていると思う。しかし多様性は人生のスパイスだと言われているように、今はほかのブランドがやっているような、ヴィンテージウォッチの既成概念にとらわれないテイストを製造する姿勢を間違いなく高く評価している。この時計と過ごした数日のあいだに私はこの時計にすっかり魅了された。その魅力はわかるし、ここで示した創造性を鵜吞みにはできない。どちらかと言えば、これはほかのブランドがより手頃な価格で、インセンティブのあるアイデアを市場に出すためのトリガーとなるだろう。我々には確かに必要なものなのだ。

基本情報
ブランド: バルチック(Baltic)
モデル名: プリズミック(Prismic)

直径: 36mm
厚さ: 9.2mm
ケース素材: 316Lスティールおよびグレード5チタン
文字盤: グリーン、サーモン、パープル、ブルーグレーのギヨシェモチーフ。サテン仕上げの外装セクター、サテン仕上げのSSセルクラージュと粒状のセンターセコンドダイヤル。サテン仕上げのドーフィン針にポリッシュ仕上げの面取り
インデックス: アプライド(ポリッシュ仕上げ)
夜光: なし
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: ラグ幅20mのイタリア製カーフレザーストラップまたはSS製メッシュブレスレット

ムーブメント情報
キャリバー: ETA プゾー 7001
機能: 時・分・センターセコンド
パワーリザーブ: 約42時間
巻き上げ方式: 手巻き
追加情報: ダイヤモンドポリッシュの面取り、ブリッジにコート・ド・ジュネーブ装飾、ラチェットとリューズホイールにソレイユ加工、青焼きビス、地板とテンプのビーディング仕上げ

価格 & 発売時期
価格: イタリア製カーフレザーストラップが990ユーロ(日本円で約16万円)、クイックリリース付きメッシュブレスレットが1050ユーロ(日本円で約17万円)
発売時期: 予約注文は2月15日午後4時(UTC+1)から2月25日午後4時(UTC+1)まで。最初のオーダーの納品は2024年7月から、次のオーダーの納品は2024年10月以降

古くなった時計の文字盤は素晴らしい投資になるか、

1993年、デイトナ 6239の“ポール・ニューマン”はアンティコルムオークションで9257ドル(当時の相場で約103万円)、2013年にはクリスティーズで7万5000ドル(当時の相場で約732万円)で落札されたが、その後も価格は上昇し続けている。今年は新しい時計(中古でも新品でも)にとって厳しい年になるかもしれないが、最も望ましいヴィンテージモデル、特にオリジナルかつコンディションが良好なモデルは、どう考えても優良株であり、投資のチャンスである。しかし非常に収集性の高い時計の価値の大部分、あるいはその大半を占める“文字盤”は、永久に使用されると想定して作られておらず、所有者が生きているあいだに見分けがつかないほど劣化する可能性がある。

時計の文字盤やダイヤルマーカーのエイジングは、褐色化(“トロピカル”文字盤)や、クラック(“スパイダー”文字盤)、および時計の価値を劇的に高めると考えられるそのほかの経年変化など、ほぼ無限ともいえる多様な形態がある。このような経年変化は、素人目には単に最盛期を過ぎた時計のサインのように見えるかもしれないが、熱心な愛好家やコレクターにとって、適切に経年変化した文字盤(これが重要だ)は、現代のコレクターが高く評価する、ある種の誠実さと真正性の表れなのである。

それにもかかわらず、目に見えて古くなった文字盤にプレミアムがつくべき考え方は、かなり新しいようだ。おそらく、特定のパーツはそのままにしておきたいという要望を受けたブランドのサービスセンターの対応ほど、このことを明確に示すものはない。というのも、コレクターはしばしばブランドのサービスセンターに時計を預ける際、オリジナル(またはオリジナルと推定される)文字盤を残してもらうのに苦労するのだ。一方で、外観が著しく損なわれている(そしてたまに機能的に問題もある)文字盤に対するサービスセンターの対応は、多くの消費者が避けたいと望んでいた時代に生まれたサービスポリシーによって、裁量が左右されることが多い。ひどく色あせた塗装、黄色に変色したラッカー、もはや光らなくなった夜光マーカーを持つ文字盤は、単に耐用年数を過ぎているとみなされるのだ。さらにサービスセンターは、時計の保存をビジネスとしていたわけでなく(一般的には今もそうだ)、彼らの任務は時計を機能的にも外見的にもできるだけ新しい状態にして、顧客に返却することだったのだ。

今日では古くなった文字盤は、コレクターのあいだで本物の証として、また時計の歴史の目に見える関係として捉えられている。ダイヤルのパティーナと我々の関係は複雑なのだ。アートにも同じような難問がある。美術品を修復するとき、できるだけ新品の状態に戻すべきか、それとも劣化が進行しないようにするだけでいいのかという問題だ。意見が分かれる典型的な例として、レオナルド・ダ・ヴィンチの最も有名な油彩画のひとつ『聖アンナと聖母子』の修復を挙げよう。2011年にルーブル美術館で絵画の修復が行われたのだが、その変化は劇的だった。この絵画で多く見られた柔らかなブラウン、アンバー、バーントシェンナ(土の焼けたような色)の色調は、修復家の綿棒によるクリーニングで消え、代わりに何世紀にもわたって蓄積された汚れと、表面の酸化の下に潜んでいた、誰もが想像していないほどの鮮やかな青、赤、肌の色調が姿を現した。この変化に対する抗議の声は、愛する時計を勝手に変更されたときに抱く、多くのコレクターの怒りとよく似ている。ただそれは単なるセンチメンタルな感情ではない。現在の市場において、オリジナルの文字盤を新品に置き換えることは、時計の価値を根底から覆すことになりかねないのだ。

『聖アンナと聖母子』(出典: Wikipedia)。

しかし、芸術作品と同じように、文字盤は時間の経過とともにゆっくりと、しかし確実に変化する素材でできている。時計の文字盤について驚くべきことのひとつは、もともと時計の文字盤をつくるために使われていた材料が、どれだけ化学的に安定しているのか、信頼できる情報が実際にはほとんどないということだ。一般的に塗料やラッカーの平均寿命は限られている。時計の文字盤は、酸化、熱、紫外線、湿気などの影響をゆっくりと、そして取り返しのつかない、ほぼ再現不可能な影響を受ける。ポール・ニューマン デイトナが1万ドル(当時の相場で約108万円)以下の時計だった時代であれば大した問題ではなかったかもしれないが、今日では何十万ドル、あるいは何百万ドルもの大金が、その絶妙な文字盤の美観にかかっており、また文字盤の状態が永遠に続くことを考えていない時計では、この問題は心配の種となるのだ。夜光塗料は遅かれ早かれ文字盤から剥離するし、“トロピカル”と呼ばれるダイヤルは今後も色あせ、変色し、予測不能な変貌を遂げる可能性が非常に高い。そして現在の状態が将来も維持されるという、ほとんど暗黙の前提で購入した超高額時計の文字盤が、今後数十年のあいだにどうなるかは誰にも断言できないのだ。

過去10年間、ヴィンテージウォッチはいい投資だったのだろうか? 少なくともいくつか例では、ほとんどの投資手段で聞いたことのない収益率を持った素晴らしい投資であった。しかし近い将来、最悪の状況を迎えるかもしれない。ヴィンテージウォッチ市場の軟化と、市場に流通するであろう膨大な数の偽物、そして多くの時計に見られる取り返しのつかない物理的劣化とが相まって、ヴィンテージウォッチ収集は非常に危険な航海になる可能性があるのだ。

ブルガリ オクト フィニッシモは2012年の登場以来、デザインのアイコンとして活躍している。

過去12年間に数多くの限定モデルがリリースされたが(知っているものもあれば、驚くようなものもあるかもしれない)、間違いなく最高のもののひとつは、2022年に、コレクション10周年を記念してリリースされた“スケッチ”だろう。

ブルガリはみんながスケッチを気に入ったことを知っているし、同じくメゾンのお気に入りのひとつとなった。だからこそ、ブルガリオルロジュリーのプロダクト・クリエーション・エグゼクティブ・ディレクター、ファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ(Fabrizio Buonamassa Stigliani)氏が、メゾンの創業140周年を記念して、オクト フィニッシモ オートマティックとクロノグラフGMTのために再度鉛筆と木炭を取り出し、新しい“スケッチ”ダイヤルをデザインした。今回は、時計を裏返さなくともムーブメントを見ることができるようなスケッチだ。スペックは既存モデルと同じのため、このふたつの時計に関する以前の記事(前回の“スケッチ”LEなど)で確認してほしい。新作では、40mm径の18Kローズゴールドまたはスティールケースのオートマティックと、43mm径SSケースのクロノグラフ GMTが用意されている。

私は昨年半ばに、ブルガリが時計製造を行う本社を訪れたのだが、そのときオリジナルのクロノグラフ GMT スケッチを貸してくれた。そしてすぐに私のお気に入りの時計になった。彼らは、手描きのデザインを模倣するために正確なテクスチャーと奥行きを得て製造するのがとても難しいと説明してくれた。そして今、彼らは再びそれを成し遂げた。新しいオートマティックが、よりシンプルで洗練されたオリジナルの“スケッチ”ほど好きかどうかはまだわからないが、私はボナマッサ・スティリアーニ氏の大ファンなので、彼の審美眼と創造的な世界観がますます好きになった。私が完全に理解したときには、きっと手遅れになっているだろう。

Octo Finissimo
ボナマッサ・スティリアーニ氏は、オクト フィニッシモのオリジナルダイヤルデザインを再現するのではなく、シースルーバックを見ているかのように、荒削りながらもムーブメントを視覚的に美しい形で描いた。また文字盤や石など、さまざまなパーツを説明したテキストも追加されており、H.モーザーの“エンデバー・パーペチュアルカレンダー チュートリアル”をほうふつさせるものとなっている。クロノグラフ GMTの画像はまだ共有されていないが、文字盤デザインは3つのモデルのなかでも一番お気に入りで、もしかしたらオリジナルスケッチを抑えて新しい一番になるかもしれない。

Chronograph GMT
オートマティックはSS製が世界限定280本で250万8000円、RG製が世界限定70本で723万8000円(ともに税込)で販売。シースルーバックには“EDIZIONE LIMITATA”と“1884 – 2024”の文字もプリントされている。なおSS製クロノグラフ GMTは世界限定140本で、価格は2万800ユーロ(日本円で約336万3000円)だ。