投稿者「鎌仲 航平」のアーカイブ

クォーツウォッチ開発をリードした諏訪精工舎の技術をさらに進化させ、

1978年(昭和53年)に発売されたセイコー クオーツ シャリオ Cal.5931が、国立科学博物館が認定する2024年度の重要科学技術史資料(通称、未来技術遺産)に登録された。

未来技術遺産とは、日本の科学技術の発展に寄与した重要な物品や技術の保存と継承を目的として2008年から始まった制度で、具体的には過去から現代にかけて開発された技術や製品、またその技術に関連する資料が将来の科学技術の研究や社会の発展にとって重要とされるものを指す。

未来技術遺産として認定されるためには、科学技術の進歩に顕著な貢献をした技術や製品であること、歴史的な意味や文化的な価値を持つものであること、そして現代および未来の技術発展にとって有用な知識や経験を提供するものであること、といった要件を満たしている必要がある。

選定に際しては、まず有識者による審査が行われ、科学技術史的な意義や保存の必要性を評価。認定されると、国立科学博物館がこれを保管し、公開展示や資料としての利用が行われることがある。未来技術遺産は、単なる“モノ”としてではなく、日本の技術的進化を象徴する遺産であり、未来の社会に役立つ資産としての意義を持つ。こうした資料を通じて、過去の技術革新がどのように現代の生活に影響を与えているかを学び、未来の技術開発に生かすことが期待されている。

これまでにもセイコーの製品はいくつか登録されており、セイコー クオーツ シャリオ Cal.5931は、以下の製品に続いて同社では7点目の登録となる。これまでの登録製品は以下のとおりだ。

・2018年度:世界初のクォーツ式腕時計「セイコー クオーツ アストロン 35SQ」
・2019年度:世界初の6桁表示デジタルウオッチ「セイコー クオーツLC V.F.A. 06LC」
・2020年度:「スパイラル水晶時計 SPX-961」、「音声報時時計ピラミッドトーク DA571」、「 超超薄型掛時計 HS301」
・2021年度:ぜんまいで駆動し、クォーツで制御する世界初の腕時計「セイコー スプリングドライブ 7R68」

未来技術遺産に選ばれた理由

セイコー クオーツ シャリオ Cal.5931が選定された理由は、ずばりアナログクォーツウォッチの小型・薄型化および電池の長寿命化を支える“適応駆動制御”と呼ばれるシステムを初めて搭載した腕時計であったからだ。

この適応駆動制御システムとは、針を動かすステップモーターの駆動パルス(信号)を複数種類持ち、モーターの回転ごとに時計の状態を判断して、最小の消費電力となるように切り替えるというもの。分かりやすく言えば、それまでアナログクォーツムーブメントにおける電力消費量の7~8割を占めていた、針を動かすためのステップモーターの電力消費量を従来の約半分に抑えることを可能にした画期的技術だった。その後、この制御システムはアナログクォーツウォッチに欠かすことのできない重要なコア技術のひとつと位置づけられ、現代においても改良を重ねながら用いられている。たとえば現行のGPSソーラーウォッチをはじめとするセイコーのアナログクォーツムーブメントにも、この適応駆動制御システムが組み込まれているほどである。

セイコー クオーツ シャリオとは?
セイコー クオーツ シャリオは、かつて存在したシャリオコレクションに属するバリエーションだ。男性向けの薄型ドレスウォッチとして誕生したコレクションで、当初は手巻きや自動巻きモデルもあり、クォーツモデルはそのひとつだった。セイコー クオーツ シャリオの名が確認できる公式な資料は、1974年の『セイコーウオッチカタログ vol.2(販売店向けの製品カタログ)』から。そして1978年に製作されたとされるトップ写真モデルのカラーバリエーション(Ref.CGX021)は、1980年のカタログでその存在を確認できる。

だが、実は1971年こそがシャリオコレクションの原点であろう。というのも、1971年の『セイコーセールス 10月号/No.160(セイコーの製品ラインナップや技術情報を消費者や販売代理店に伝えるために発行していた小冊子)』の10月の新製品情報として“セイコー ドレスウオッチ 2220”発売のニュースが報じられている。これは手巻き式の薄型ドレスウォッチだったが、これこそがのちにセイコー シャリオとして分類されるコレクションの一部になったと考えられる。1971年時点ではまだシャリオの名は見られないが、1974年の『セイコーウオッチカタログ vol.2』では、まったく同じモデルが“セイコー ドレスウオッチ シャリオ”として紹介されているのだ。

その一方、1960年代から1970年代前半にかけて、セイコーでは諏訪精工舎と第二精工舎が競うようにクォーツムーブメントを開発した。最初に販売にこぎつけたのは諏訪精工舎が開発したCal.35系(1969年)。これは世界最初のクォーツ式腕時計として販売されたセイコー クオーツ アストロン(Cal.35SQ)に搭載されたものだった。そして翌1970年には第二精工舎がCal.36系を発売する。しかしどちらも短命に終わり、製造の中心となったのは1971年登場のCal.38系(諏訪精工舎)と1972年登場のCal.39系(第二精工舎)だったが、Cal.39系は発光LEDを搭載するなど特殊であったため、コレクションの中心となったのはCal.38系であった。とはいえ、これらは基本的に精度を追求したもので厚みがあり、当時のトレンドであった薄型ドレスウォッチに向くムーブメントとは決して言えなかった。

アナログクォーツウォッチの小型・薄型化は時代が求めたものだった。セイコーのデザイン史をまとめた「Seiko Design 140」によれば、1960年代当時の日本ではスーツ姿の会社員が増えたことでスーツに合う薄型時計が売れ筋となり、ゴールドフェザーなどの薄型機械式ドレスウォッチが人気を集めたそうだ(世界的に見ると、1950年代にはすでに薄型時計開発をメーカー各社で進めており、そうしたトレンドが日本でも顕在化し始めていた)。こうした当時の様子を背景に、クォーツウォッチにおいても早くから小型・薄型化が求められた。

そんななか小型・薄型のクォーツウォッチとして市場に投入されたコレクションこそ、セイコー クオーツ シャリオだった。1974年にセイコー(当時の諏訪精工舎)は最大直径19.4mm、秒針なしの厚さで3.8mmというサイズを実現した小振りな量産クォーツムーブメントとしてCal.41を開発した。そしてセイコーはこのCal.41の派生系であるCal.4130を持ってクォーツのドレスウォッチを商品化し、分厚いクォーツではドレスウォッチは不可能という当時の常識を覆した。Cal.4130は世界最薄のクォーツムーブメント(当時)とされ、女性向けと思われる小振りなモデルに採用されたほか、男性向けのシャリオコレクションにもいち早く投入された。しかし当時の販売店向け製品カタログを見ても、クォーツの薄型ドレスウォッチのラインナップは決して多くはなかった。

第二精工舎が手がけた小型・薄型クォーツムーブメントCal.5931

前述のとおり、小型・薄型のクォーツウォッチ開発で1歩リードしていたのは諏訪精工舎だ。そんな最中に登場したセイコー クオーツ シャリオ Cal.5931(59系)は、待望のムーブメントだったに違いない。開発・製造を担ったのはクォーツウォッチ開発で先を行っていた諏訪精工舎ではなく、当時の第二精工舎だったのだ。

Cal.59系ムーブメントの登場以降、セイコーのクォーツウォッチコレクションはトレンドも受けて一気に花開くこととなる。その理由は、未来技術遺産の選定理由にあるとおり。小型・薄型化が図られただけでなく電池の長寿命化も叶えることとなり、さまざまなデザイン、サイズ、シーンにふさわしいクォーツウォッチが数多く製造されるようになり、選択肢は大幅に拡充した。

世界初のクォーツ式腕時計として登録されたセイコー クオーツ アストロン 35SQなどと比べると、その意義はやや分かりにくいかもしれない。だが、クォーツウォッチの普及に大きく貢献することとなったという意味では、Cal.59系ムーブメントは紛れもなく語り継ぐべき重要な技術遺産にふさわしいものと言えるだろう。

今回はミドルサイズのネオマティック(自動巻き)モデルを2本リリースした。

これまでで最も物議を醸したであろうノモスの時計、タンジェント 2デイト(72件ものコメントが寄せられた)が発表されてから数週間後、このグラスヒュッテのブランドは180度の方向転換をし、非常に保守的なふたつの時計、タンジェントとオリオン ネオマティック ドレをリリースした。

ノモスは予想どおりの反復的なスタイルに戻り、今回はミドルサイズのネオマティック(自動巻き)モデルを2本リリースした。今回は文字盤に、ほんのわずかに金のアクセントが加えられている。タンジェントは35mm径に厚さ6.9mmという、まさにバウハウスデザインの王道を征くドレスウォッチ然としたケースを持つ時計だ。ほかのタンジェント ネオマティックに共通するデザインとして、白く亜鉛メッキが施された文字盤、その周囲に5分ごとに刻まれたアラビア数字のミニッツトラックがあり、ノモスのロゴやスモールセコンドの目盛り、そして特徴的な時刻表示がブラックでプリントされている。ゴールドのアクセントは、時・分針、スモールセコンド、そして文字盤に印刷された“ネオマティック”という金色の文字で表現されている。

新しいタンジェント ネオマティック ドレ。

厚さ8.5mmの36.4mmケースを特徴とするオリオンには、さらにゴールドの要素が増えている。針や“ネオマティック”のゴールドに加えて、オリオン特有のダイヤモンドポリッシュ仕上げのアプライドインデックスもゴールドで仕上げられているのだ。今年の初めにノモスは、ゴールドのアクセントを加えたオリオン ネオマティック “ニュー ブラック”シリーズというきわめて印象的なモデルを生み出したが、今回はソフトホワイトのダイヤルがゴールドの輝きを少し和らげている。

新しいオリオン ネオマティック ドレ。

どちらのモデルも18mmのラグ幅、5気圧の防水性能を備えており、自社製の自動巻きムーブメントであるネオマティック Cal.DUW 3001を搭載している。このムーブメントは独自のノモススイングシステムを採用し、ブルースクリュー、グラスヒュッテ・ストライプ、そしてブランドの時計によく見られるペルラージュ装飾が施されている。なおパワーリザーブは約43時間だ。タンジェントはソリッドバック仕様のモデルで53万6800円から、裏蓋が1種類のオリオンは62万4800円(ともに税込)となっている。

我々の考え
今回のリリースはラインナップにさりげなく加わったものであり、タンジェント 2デイトのダブルデイト表示に驚いた多くの人々にとってはむしろ安心感を覚えるかもしれない。これらの時計が革新的かと言えばそうではない。しかし、タンジェント 2デイトやWatches & Wondersで披露された31色ものタンジェントのような、ここ1年のノモスの派手なリリースを経たうえで、長く支持されている定番モデルを好む層に向けた安定感のあるリリースと言えるだろう。

私は38mmのタンジェントを愛用しているが、初めて35mmのタンジェントを試したときに、これがオリジナルサイズである理由を思い出した。ラグが長くとも自分の細い手首には問題なく、タンジェントのケースは繊細でありながらシャープなケース形状に感じられる。36.4mmのオリオンも同じで、広々としたシンプルなダイヤルは小振りなケースシェイプでこそ映える。このサイズはまさに絶妙と言えるだろう。

どちらかひとつを選べと言われたら、間違いなくタンジェントを選ぶ。オリオンはゴールドとの組み合わせが素晴らしいデザインだと感じるが、タンジェントのほうがブラックの数字といったプリントの要素が多く、その分ゴールドのアクセントがダイヤル上でより際立っていると思う。あなたもそう思うだろうか?

以前から言っていることだが、ノモスはこの価格帯における薄型自社製ムーブメントのゴールドスタンダード(言葉遊びではない)を維持し続けている。むしろ薄型自社製を、略して“thin-house”とでも呼んでみてはどうだろうか。7mm未満の薄型自動巻きドレスウォッチをつくれるのであれば、ほかの競合ブランドももっと挑戦すべきだろう。

基本情報
ブランド: ノモス グラスヒュッテ(NOMOS Glashütte)
モデル名: タンジェント ネオマティック ドレ(Tangente neomatik doré)、オリオン ネオマティック ドレ(Orion neomatik doré)
型番: 192(タンジェント)、397(オリオン)

直径: 35mm(タンジェント)、36.4mm(オリオン)
厚さ: 6.9mm(タンジェント)、8.5mm(オリオン)
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: ホワイトシルバーメッキ
インデックス: プリント(タンジェント)、金メッキ(オリオン)
夜光: なし
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: ホーウィン社製ブラウンシェルコードバンストラップ

orion wristshot
ムーブメント情報
キャリバー: DUW 3001
機能: 時・分表示、スモールセコンド
直径: 28.8mm
厚さ: 3.2mm
パワーリザーブ: 約43時間
巻き上げ方式: 自動巻き
石数: 37

ブランド10番目の“基本発明”にあたるナノ・フドロワイアントEWTを発表した。

この時計は圧巻の仕上がりだ。同ブランドの発明や功績を称えるインヴェンション ピースシリーズにはトゥールビヨンが頻繁に採用されており、この時計にも同機構の姿が見られる。ダブルトゥールビヨン 30°から始まった軌跡の集大成として登場したこのモデルは、驚くほど着用しやすいモノプッシャー式クロノグラフ(フライバック式で、同社初のクロノグラフとなる)に初のフライングトゥールビヨンを搭載しているが、注目すべき点はそれだけではない。

タンタル製ベゼルとスケルトンケースバックを備えた直径37.9mm×厚さ10.49mmのホワイトゴールド(WG)製ケースを使用したこのモデルには、2万1600振動/時で駆動するトゥールビヨンケージに基づき6分の1秒単位の表示を行う常時作動のフドロワイアント秒針(または“ライトニング秒針”とも呼ばれる)も搭載されている。この機構は垂直方向を保ちながら60秒で1周するトゥールビヨンに直結する。トゥールビヨンの振幅を直接伝えることで通常のフドロワイアント輪列の余計な部品を省き、ムーブメントの小型化(直径31mm)と部品数の削減(合計428パーツ)に成功している。

厚さはわずか10.49mmしかない。

もちろん限界もある。たとえばクロノグラフ作動時のパワーリザーブは、24時間しかない(クロノグラフ非作動時の総パワーリザーブは公表されていない)。そしてもうひとつ挙げると、この非常に高価な46万5000スイスフラン(日本円で約8200万円)のナノ・フドロワイアントEWTは冗談抜きで11本しか製造されないことだ。しかしすべてのモデルに、コレクターのあいだで長年定評があるグルーベル・フォルセイならではの手仕上げが施されている。

金額や入手困難な点を気にしないなら、このモデルは今年発売された時計のなかで私が手に入れたい時計のトップ3に入る。銀行強盗をして信じられない金額を手に入れたかのような興奮で汗をかきつつ、存在しない上限額のクレジットカードを差し出したくなる最初の時計になるかもしれない(いや、実際にこの時計を手に入れるために襲うべき場所は銀行ではないだろうが)。

値段のことはちょっと脇に置いておこう。ビンス・マクマホン(Vince McMahon)氏のネットミーム(アメリカのプロレス団体WWEのCEOであるビンス氏が、興奮や驚きを次第に強めていく様子を切り取った一連の画像。彼が徐々に驚き、最後には大興奮で椅子からのけぞるようなリアクションを見せる)を見たことはあるだろうか? 同僚にこの時計のことを説明した際、まさにそのミームのような反応をされた。大きさがたった37.9mm? それだけでも注目に値する。厚さがわずか10.49mmだって? 気に入った。モノプッシャークロノグラフ? なんとしても欲しい。さらにフライングトゥールビヨンと、トゥールビヨンケージに直接取り付けられたフドロワイアント秒針? もう何の話をしているのかわからない! これはまさに驚異的だ。

先に述べたとおり、サイズだけでもこの時計は特筆に値する。厚みはわずか10.49mmだが、ラグの位置や形状、長さのために手首につけると少し浮いたような感じがする。タンタル製の外周リングにサファイアクリスタルを備えたケースバックが背面に立体感を与え、さらにタンタル製ベゼルとドーム型風防もフォルムに奥行きを加えている。直径はややモダンな印象だが、手首で少し高く見える点はパテックのRef.5004(厚さ12.8mm)を彷彿とさせる。ただ、どちらも毎日つけていたいくらい素晴らしい。

ベン・クライマーにこの時計について話したところ、これは時計愛好家、特にグルーベル・フォルセイのターゲット層が10年以上前なら熱狂したであろう時計だと彼は言った。私見だが、ここ数年でグルーベル・フォルセイへの注目はやや薄れているように感じる。今取り上げているのは約54万ドル相当の時計なので、顧客数が非常に限られているのは事実だが、この価格帯の時計を買う人は意外といる。それでも過去2年間にわたり、高級時計コレクターの集会のために世界中を飛び回ってきたなかで、実際に手首にグルーベル・フォルセイをつけている人を目にしたのは2回だけだった。そしてそのどちらも、今月初めにシンガポールで開催されたIAMWATCHでの出来事だった。いったいこの会場で何が起こっていたのだろうか?

グルーベル・フォルセイはここ数年、購買者が各々のPRによって耳目を集める有名ブランドに流れていくなかでブランドとしてのアイデンティティを見失いかけていた。同ブランドは急速に製造数を拡大し、2021年の年間130本から翌年には2022年には260本に倍増した。また(短期間であったようだが)よりシンプルなモデルを投入してより広範な層への参入を試みたが、そうした製品でさえ驚くほど複雑な構造を持ち、価格は数千万円に達していた。さらにグルーベル・フォルセイには、異なるふたつのデザイン言語が存在する。

コンヴェクスラインはより現代的な購買者を引き付けるかもしれないが、リシャール・ミルと競合することになる。リシャール・ミルは(品質や時計製造技術は別として)同じ価格帯で同様のニーズを満たし、年間5600本以上の生産量により比較的入手しやすいブランドとなっている(とはいえ入手が容易なわけではないが)。しかしこの時計はまさに今のグルーベル・フォルセイに必要なものであり、そしてあらゆる面で圧倒的な存在感を放っている。

稲妻のようなスピードで動く針をぜひ見て欲しい。

グルーベル・フォルセイの“ナノメカニクス”や“ナノジュールス単位”でのエネルギー管理については、今回は深く触れないでおこう。その真偽を確かめるには情報が足りず、単なるマーケティング用語となっている可能性もあるからだ。理解を深めるには、スティーブン・フォルセイ(Stephen Forsey)氏にフォローアップで話を聞く価値があるかもしれない(実現するかどうかは今後わかるだろう)。

しかし2万1600振動/時のテンプによって直接駆動され、1秒を6分割して動くフドロワイアント秒針(私が好む複雑機構のひとつだ)という点だけでも、これは驚異的な成果だ。グルーベル・フォルセイによれば、従来のフドロワイアントは1回のジャンプで30μJ(マイクロジュール)を消費するが、ナノ・フドロワイアントは1回のジャンプで16nJ(ナノジュール)しか消費せず、圧倒的な効率化を実現しているという。

グルーベル・フォルセイらしいデザインで、クロノグラフのコラムホイールからフロスト加工、鏡面研磨、面取りに至るまで、ナノ・フドロワイアントEWTに搭載されたムーブメントの各パーツは完璧に仕上げられている。最初はブリッジの配置やサイズがクロノグラフに期待される歯車やレバーの存在感を損ねていると思ったが、時間が経つにつれてそのシンプルさが美しいことに気づいた。

おそらくこれはグルーベル・フォルセイがこれまでに手がけたなかで最も複雑なモデルだが、ファンを熱狂させるような時計はこれにとどまらず今後も登場し続けるだろう。この時計の値段は驚くべきものだが、今年見たなかで最もクールかつ印象的な時計であり、手に入れられるのは選ばれし11人だけだ。

グルーベル・フォルセイ ナノ・フドロワイアントEWT。直径37.9mm、厚さ10.49mmのWG製ケース、タンタル製のベゼルとケースバックリング。30m防水。ゴールド製の多層ダイヤル、ロジウムカラー、エングレービングが施されたブラックラッカー仕上げの時表示リングと分表示サークル、トゥールビヨンが覗く開口部、ゴールドのスモールセコンドとクロノグラフミニッツカウンター、ポリッシュ仕上げの面取り。フロスト仕上げのフドロワイアント、秒単位の目盛りとブラックラッカー仕上げ。時・分表示、ワンミニットフライングトゥールビヨンと連動するライトニング秒針、モノプッシャークロノグラフ。2万1600振動/時で動作する手巻きムーブメントのクロノグラフ作動時のパワーリザーブは24時間。動物素材不使用の手縫いストラップ。WG製ピンバックル、手彫りのGFロゴ入り。価格46万5000スイスフラン(記事掲載時約54万ドル/日本円で約8200万円)。限定11本。

2025年のもっとも入手困難な時計のひとつかもしれない。

ここ1、2年のあいだに “ザ・ウォッチインターネット ”に入り浸っている人なら、日本の時計ブランド、大塚ローテックの時計を目にしたことがあるだろう。Redditなどで6号や7.5号が5000〜7000ドル(日本円で約75万~105万円)、あるいは1万ドル(日本円で約150万円)で取引されているのを見たことがあるかもしれない。私の同僚でHODINKEE Japanの和田将治氏のような時計ジャーナリストが7.5号を着用していたり、WatchMissGMT(現在はWatchMissLotecのほうがふさわしい?)のようなインフルエンサーが6号を着用していたりするのを見たことがあるかもしれない。さて、2週間前にその大塚ローテック 6号がGPHGでチャレンジ賞を受賞した。というわけで、もしここまでの話題になじみがない方は、いまこそ情報に追いつくチャンスだ。

Ōtsuka Lōtec No.6
 日本での休暇中、友人でありHODINKEE Japanの同僚でもある和田将治氏と東京近郊まで足を運んだ。せっかく地球の裏側まで来たのに、普段会う機会のないブランドやその関係者たちを訪ねないのはもったいない気がしたからだ。先日Four+Oneで紹介した友人のジョン・永山氏もそのひとりだが、この日は独立時計師であり実業家でもある浅岡 肇氏の工房の向かいにある会議室を訪れた。

 浅岡氏の手ごろな価格のブランド“クロノトウキョウ”や新ブランド“タカノ”の時計は見ることができたが、彼の名を冠した時計を見るチャンスはなかった。その代わりにクルマおよび家電製品のデザインに携わってきた工業デザイナーで、時計への情熱をアパートからガレージ、果ては今年のGPHG チャレンジ賞で3000スイスフラン以下のベストウォッチ賞受賞へと昇華させた工業デザイナー、片山次朗氏に会う機会を得た。

Ōtsuka Lōtec No.6
Ōtsuka Lōtec No.6
 スカイラインGTRであれ数え切れないほどのクールなグランドセイコーであれ、日本における多くの素晴らしいモノと同様、大塚ローテックはJDM(日本国内市場)における時代の寵児である。いまのところ、このブランドの時計が入手できるのは日本国内だけで、主に抽選方式で販売されている。さらに配送は日本国内の住所に限られ、決済も日本の金融機関が発行したクレジットカードのみに限られる。このような制約があるため、二次市場での価格が高騰している。しかし片山氏と現在ブランドをサポートしている浅岡氏は、この状況を打開したいと考えているようだ。

Ōtsuka Lōtec No.6
 魅力的な価格帯と独創的な技術(この点についてはのちほど説明する)だけでなく、大塚ローテックの時計デザインは唯一無二である。いろいろな意味で実にツイていたのは、この記事のために6号機の最新型を手に取ることができたことに加え、まさにそのモデルがGPHGで賞を受賞することになったことだ。6号は、ヴァシュロンのメルカトルに搭載されているレトログラード表示(ただし上下逆さま)をほうふつとさせる、比較的珍しいが直感的で読みやすいレトログラード表示を備えており、個性あふれるモデルである。私たちの訪問中、同僚のマサはヴィアネイ・ハルター(Vianney Halter ) アンティコア(Antiqua)によく似た7.5号(下の写真)を着用していた。そして、このモデルが片山氏と最初に話すきっかけとなった。

No. 7.5
シンガポールで見た大塚ローテック 7.5号。

 ここで悲しいこと、そして悔しいことを認めなければならない。こんなことは初めてのことなのだが、iPhoneのボイスメモの録音を失敗してしまったのだ。というよりむしろ、録音したデータが洗いざらい壊れてしまったようだ。これからはバックアップとして予備のボイスレコーダー機を携行するつもりだが、私たちがともに過ごした1時間の会話から直接の引用は紹介できない。その代わり、片山氏の経歴をざっと紹介しよう。

 片山次朗氏は伝統的な時計師ではなく、マックス・ブッサー(Max Büsser)氏やファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ(Fabrizio Buonamassa Stigliani)氏のような、デザインへの純粋な情熱によって時計の世界に辿り着いた偉大なデザイナーの流れを汲む。片山氏は長年、工業デザイナーとしてクルマや家電製品のデザインに携わってきた。自動車業界に身を置いていたが、2008年に自宅のアパートに収まるほど小さな(日本では並大抵のことではない)卓上旋盤を購入した。その限られた面積ではつくれるものも限られていたため、彼は時計に目を向け、この道を歩むことになった。

 片山氏によると、彼はしばらくのあいだ時計の世界とは無縁で、工業デザインのほかの分野からインスパイアされたケースデザインやモジュールに取り組んでいたという。そう、くだんのハルターの作品にも目を向けるようになったが、あの時計が革命的であったのと同様に、アンティコアのデザイン自体もどこからともなく生まれたものではないことを心に留めておく必要がある。私の目には、7.5号は時・分・秒を分離した3眼のヴィンテージ8ミリカメラをほうふつとさせる。一方、6号からはクルマのダッシュボードのメーターを瞬時に思い起こさせる。どちらも信じられないほど工業的だが、よく練られ、仕上げも見事だ。

Ōtsuka Lōtec No.6
 片山氏のデザインにはノスタルジーとセンチメンタルを覚えるが、同時に一定の実用性も確保されている。この時計は、余分なものをほとんどすべて取り除き(6号の日付は余分なものと言えるかもしれないが、私は煩わしいとは思わない)、繊細なサテン仕上げとダイヤル上の濃い型押しの表記に絞り込んでいる。必要な情報は(日本語ではあるが)すべて書かれている。ダイヤル上部には“6号 機械式”と“豊島 東京”、左側には“大塚ローテック製”、右側には“日常生活防水”と記されており、これは30mの防水性能を意味している。

Ōtsuka Lōtec No.6
 この時計はミヨタ製自動巻きムーブメント、Cal.9015を搭載しており、スケルトン仕様のケースバックをとおして眺めることができる。特筆すべき部分は少ないが、緩やかに傾斜したケースサイドが丸みを帯びたエッジへと細くなり、さらに傾斜した裏蓋のバンドにつながっているのが分かる。ラグはケースから突き出しており、非常に工業的な雰囲気で、何度でも言うがとてもチャーミングだ。ムーブメントは約40時間のパワーリザーブを備え、片山氏が設計したモジュールによって作動するレトログラード式時・分針を搭載している。このモジュールはダイヤルの下に隠れているが、公式ウェブサイトでその動作を見ることができる。また、中央下部にはスモールセコンド用のディスクと日付窓も確認できる。

Ōtsuka Lōtec No.6
 最初は6号に捉えどころのなさを感じていた。正直なところ、レトログラード針が私には少し繊細に見えたからだ(同じことが言えるかもしれない)。また無反射コーティングが施された完全にフラットなサファイア風防が、あらゆる角度でまるで存在しないかのごとく見えるのも驚きだった。写真でこの時計を見たときの私の反応のひとつは、風防がないのではという不信感だったと思う。“埃が混入したらどうするの? 雨が降ったらどうする? 針を引っ掛けて折ってしまいそうだ”と思った。だがそんな心配は杞憂に終わった。

Ōtsuka Lōtec No.6
 針の表示部分が盛り上がった様子はロイヤル オーク、ノーチラス、ウブロのどのデザインよりも舷窓を思わせる質感を持ち、現代においてスチームパンクの雰囲気を際立たせている。ハルターが数十年前に打ち出した聖火を受け継ぐブランドは多くないが、片山氏はその役割を見事に果たしている。

Ōtsuka Lōtec No.6
 おそらく時計全体で最も粗削りと思えるリューズに至るまで、彼はそれを完璧にやってのけ、しかもちゃんと機能している。リューズは指にやさしくなく、真に工業的な機械に見られるような質感のグリップを備えている。それでもサテン仕上げとポリッシュ仕上げのケース面とうまく調和し、ケースから突き出た様子はある種の気まぐれさを感じさせる。もしリューズが3時位置にあったならすべてが台無しになっただろうし、時計というよりもまるで蒸気船のボイラー室から引き出された機械を見ているような非日常感も台無しになっていただろう。

Ōtsuka Lōtec No.6
 6号(および7.5号も同様)は最近、素材が改良された。風防はミネラルガラスからサファイアクリスタルに変更され、より高品質なステンレススティールを使用する仕様となった。また初期の6号のメテオライトダイヤルは、今回のこのサテン仕上げのスティールダイヤルへと切り替わっている(全体のまとまりはよくなったが、ダウングレードという見方もある)。2023年末の時点では、片山氏は従業員3人で月産15本程度を生産していたが、新たに浅岡 肇氏が加わったことで、生産量は増加し始めるはずだ。これらの時計を初期に購入した顧客のなかには、信頼性やメンテナンス面に課題があったという事例を耳にしたことがあるが、ブランドが設備と生産能力を拡大し始めたことで、これらの諸問題も解消されつつあるようだ。

Ōtsuka Lōtec No.6
 316Lスティール製ケースのサイズは42.6mm×11.8mmで、数値上は少し大きく感じられる。しかしムーブメントサイズの制約という実用的な問題を超えて、このようなスチームパンク系のデザインには適しているといえよう。レトログラード表示用の隆起した部分が直径を狭めているため、横から見るとそれほど厚みは感じない。このケースデザインは、手首につけたときにより低い位置にあるように見せる効果を持つ。ブランドロゴが刻印されたピンバックルで固定されたカーフレザーストラップが付属するが、クッション部分が平行に2分割されているため、通常のカーフレザーよりもスポーティな印象を与えている。

Ōtsuka Lōtec No.6
 日本から帰国して以来、少なくとも5人の友人から大塚ローテックの“ツテ”を頼まれた。GPHG受賞以降は1週間に3人くらいが声をかけてくれた。ベン(・クライマー)はノーチラス熱狂時代、Ref.5711を希望小売価格で手に入れようとする人がどこからともなく現れたと話していたが、どうやら6号が私にとってのRef.5711のようだ。実際、そうであるに越したことはない。人々が再び既成概念にとらわれない考えを持つようになったことを物語っている。残念なことに、いろいろな制約があって私は手伝うことができない。できることなら自分用にも欲しいくらいだ。GPHG受賞はさておき、この新世代の手ごろなインディーズ(ファーラン・マリに当てはめるのをやめたのと同様、片山氏のような人にマイクロブランドという言葉は使いたくない)は、時計コミュニティに新たな風を呼び込んでいると思う。

ヴァン クリーフ&アーペルのカデナについて語るべきなのか。

女性用の時計といえば、カルティエやロレックス、そして少し範囲を広げると、オーデマ ピゲが主役として注目されることが多い。ただこうした“伝統的”なラグジュアリーウォッチの世界の奥には、個人的にはジュエリーに近いけれど、それだけじゃない時計と呼びたいカテゴリーがある。これらの時計はデザイン重視で、宝石が散りばめられていたり装飾にしっかりとした意図が込められていたりするものだ。そんな時計たちが、ほかでは少し退屈に感じられる市場に一筋の希望を与えてくれる。

このジャンルで最も代表的なのは、間違いなくブルガリのセルペンティだ。これは異論の余地なし。もう(大好きで仕方がないので)何時間も(そして何本もの記事を)費やしてセルペンティについて語り尽くしてきた。あの妖艶な曲線やセクシーなフィット感に完全に魅了されてしまい、ジュエリーに近いけれどそれだけじゃないほかの素晴らしい時計たちのことをつい忘れてしまうくらいだ。でも、カルティエスーパーコピーn級品 代引き華やかな人々のための価値観を変えるようなハイジュエリーウォッチには、セルペンティだけでなくもっと多彩で多様な選択肢があってもいいはずだ。

数カ月前に話を戻そう。

「カデナについて話さなきゃ!」と、ジュエリーの専門家であり『タウンアンドカントリー』の寄稿編集者でもあるウィル・カーン(Will Kahn)氏が、ギリシャの山道を走るガタガタ揺れる車内で叫んだ。「あれは象徴的で美しいのに、どうしてもっと注目されないんだ?」 その言葉に私も同感し、興奮気味に同じような気持ちを彼にぶつけた。そしてニューヨークに戻ったらもっと話をしようと約束した。そのあと、私は自分の考えを整理し始めた。

ヴァン クリーフ&アーペルのカデナは本当に美しい時計だ。特に私が好きなのは、ダイヤモンドなしのシンプルなイエローゴールドモデル。ケースのデザインは直線的で洗練されていて、斜めに配置された文字盤は、さりげなく時間を確認できる工夫がされている。現行モデルは26mm×14mm、ヴィンテージモデルは25mm×17mmとサイズに少し違いがあるが、どちらもダブルスネークチェーンのブレスレットが特徴的で、南京錠のような丸みのある留め具がしっかりと存在感を放っている。しなやかかつセクシーで、この時計はエレガントな女性の装いにぴったりの1本だ。

トルーマン・カポーティ(Truman Capote)と彼の白鳥たちを思い浮かべてほしい。カデナは端正で上品だが、どこか自然体な雰囲気がある。もし歴史的なスタイルアイコンと時計を一致させるなら、カデナはジャッキー・オナシス(Jackie Onassis)そのものだろう。彼女の洗練されたクールさにぴったりだ。華やかで自由奔放なスタイルのビアンカ・ジャガー(Bianca Jagger)氏はセルペンティがぴったりだろう。どちらの時計も、おしゃれが好きな女性のためにあるというのがこの話のポイントだ。

カデナは1935年に初めて登場し、2015年にコレクションとして復活した。今回のリバイバルでは、視認性を高めるために文字盤が大きくなり、ムーブメントもクォーツに変更されている。しかし再登場から10年経った今でも、カデナはまだあまり知られていない存在だ。「セルペンティやタンクみたいに、長いあいだ我々の記憶に刻まれてきた象徴的な時計とは違って、カデナはどこか控えめで目立たない存在だ」とカーン氏は話す。それでも、カデナも女性のための優れたデザインのひとつとして確かな価値を持っているのは間違いない。セルペンティと比べるともっと幾何学的なデザインだが、そのぶん清潔感がありながらもセクシーさを漂わせている。セルペンティがしっかりと手首に絡みつく感覚を持っているとしたら、カデナはどこか余裕のある、誘惑的で緩やかなドレープのような時計だと言えるだろう。

カデナは間違いなく、歴史に残る名作の仲間入りをするべき時計だ。スポーツウォッチにありがちなピンクの文字盤や、ベゼルに散りばめられたダイヤモンドのような、どこか使い古された無難なパターンから抜け出す新鮮な存在である。ただ、腕時計には男女問わず理想的な形という固定観念があるのも事実。この少しニッチな斜めのデザインは、そのイメージからちょっと離れすぎているのかもしれない。セルペンティもデザイン性は強いけれど、それでも文字盤はしっかり上を向いている。

もしかすると、カデナはジュエリー好きのための時計なのかもしれない。サザビーズ・ジュエリーアメリカ部門の副会長であるフランク・エヴァレット(Frank Everett)氏も同じ考えのようだ。電話で彼は「私はカデナにちょっと夢中なんです」と語り、「その時代にはとてもモダンだったものが、今振り返るとレトロや時代を象徴するものに見えるんです。本当に興味深いですよね」と話していた。私もその意見に賛成だ。カデナを知らなければ、デザイン重視のウォッチメイキングが輝いていた時代に生まれたものだと思ってしまうだろう。その雰囲気は1930年代というより、むしろ1970年代に近い。カルティエのクーリッサンよりも、最近のAP リマスター02に共通するものを感じる。カデナはアール・デコ調のレディスウォッチだが、素材の重厚感が際立っていて、当時主流だった繊細で華奢なカクテルウォッチとは一線を画している。当時としては非常に前衛的なデザインだった。「1920~30年代に、女性がドライビングウォッチをつけてクルマを運転していたなんて、考えただけでもワクワクしますよね。あのタマラ・ド・レンピッカ(Tamara de Lempicka)がブガッティを運転している有名なセルフポートレートを思い出します。彼女こそカデナをつけているのがふさわしい女性だったと思います。型破りで、自立したそんな女性がこの時計を選んだに違いありません」

それからレザーストラップのカデナもある。ゴールドとレザーのコントラストが生む雰囲気はどこか力強くて、クールさが際立つ。まるで1985年のアンジェリカ・ヒューストン(Angelica Houston)が、白いタンクトップにジョッパーズ、黒のライディングブーツを合わせて煙草を吸っている姿を思い起こさせるようなスタイルだ。南京錠とレザーの組み合わせにはエルメスらしい雰囲気もあって、ヴィンテージ感がありつつも、ただのレトロに終わらないのが魅力だ。正直こういう表現はありきたりかもしれないが、カデナは本当にシックなのだ。

『ワシントン・ポスト』のファッション批評家、レイチェル・タシジャン(Rachel Tashjian)氏はこう言っている。「今の時代、シックという言葉は簡単でブルジョワ的なものを指して使われるが、本来のシックはアンチブルジョワだった」。このファッションの価値観の逆転という考えが、頭から離れなかった。2024年、私たちは個人のスタイルという捉えどころのない概念に夢中になり、ザ・ロウやロロ・ピアーナ、そしてエルメスに浸っていた。どれもあえて言うなら、伝統的な憧れや高価さを象徴するものばかり。それがシックだと言われても…正直、なんだか退屈ではないだろうか。

もしかしたら、2025年には壮大で大胆でちょっと危険なアイデアが、ロロ・ピアーナのベージュ一色に支配された今の価値観を覆そうとしているのかもしれない。たとえばカルティエがずらりと並ぶなかにカデナのような時計が現れて、よりエネルギッシュで先進的、そして表現力豊かな世界のシックを象徴する存在になれるんじゃないかと思う。とはいえ、現実的に考えるとどの時計ブランドも美しさやスタイル、自己表現に対する私たちの考え方を根本的に変えるのは難しいのかもしれない。創造性が本当に輝くのは人を遠ざけるものではなく、喜びを与えるものとして存在するときだ、と以前どこかで読んだことがある。結局のところ、私にとってジュエリーや時計を求める理由の多くはただシンプルに、装いに新しいダイナミズムを加えるという美的な楽しさにある。

「ベニュワールのバングルを誰もが口にして、どの店舗でも売り切れのような状況なら、カデナだって同じくらい注目されるべきだと思う」カーン氏はそう語る。カデナはその個性的なデザインゆえに、多くの人に愛され模倣されているベニュワールと同じ立ち位置に立つのは少し難しいかもしれない。ただしヴァン クリーフ&アーペルのウォッチ部門が、広く支持を得るきっかけになる可能性は十分あると彼は考えている。「ヴァン クリーフは、きわめて限定的で超複雑な時計では大きな成功を収めている。でもそれらは特定の顧客向けのものだ。カデナにはもっと広い層にアピールできる可能性がある。これは本当にグローバルヒットになれるポテンシャルを持った時計だと思いますよ」と彼は言う。

フェンディの厚底スニーカー「フェンディ マッチ」が新登場。

「フェンディ マッチ」プレイフルな新作スニーカー
フェンディスーパーコピー マッチ」プラットフォームスニーカー 207,900円
「フェンディ マッチ」プラットフォームスニーカー 207,900円
「フェンディ マッチ」新作スニーカーは、2021年に発売されたオリジナルモデルをベースに、5cmのプラットフォームソールと小さめの「FF」ロゴ、そして取り外し可能なチャームを加えてアレンジを加えた厚底スニーカー。ホワイトやピンク、ミントグリーンといったクリーミーなカラーとポップなディテールによる、プレイフルな表情が魅力だ。

「フェンディ マッチ」プラットフォームスニーカー 207,900円
「フェンディ マッチ」プラットフォームスニーカー 207,900円
「フェンディ マッチ」に付属するミニチャームは、ふんわりとしたポンポンを配して人形のように仕上げたチャームと、「ペカン」ストライプタグ付きチャームの2種。アッパーのカラーと連動したマルチカラーのシューレースに取り付けて、大胆なアクセントをプラスすることができる。
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【詳細】
「フェンディ マッチ」プラットフォームスニーカー
発売日:2025年7月17日(木)
展開店舗:フェンディ直営店、フェンディ公式オンラインストア
価格:207,900円

【問い合わせ先】
フェンディ ジャパン
TEL:0120-001-829

今回の新作UR-150は時計としての革新性ももちろんすごいが。

新作UR-150を説明するには、“よりワイドなレトログラード表示”と表現するのが適しているかもしれない。ウルベルクの特徴であるサテライトディスプレイは通常120°の弧を描くが、このモデルでは240°に広がっている。では、これは何を意味するのか? まず、サテライトディスプレイ全般の仕組みを解説しよう。サテライトディスプレイは時計回りに進むが、時間が経過してもディスク自体が回転するわけではない。赤いフレームの先端には矢印が付いており、文字盤外周にあるミニッツトラックを指して時間を示す。そして分針が60分に近づくと、フレーム全体が勢いよく0に戻り、ディスクが進んで次の時間をフレーム内に表示する仕組みだ。

秒表示がないため、分目盛りを広く配置することで視認性が向上している(これはムーブメント自体の精度ではなく、読み取りの精度の話だ)。つまり、分表示がより読み取りやすくなっているのだ。時間の設定は12時位置のリューズで行うのだが、その操作は非常に触覚的な体験だ。リューズを操作するとムーブメント全体がゼロに戻るスナップを実際に感じ取れる。通常、12時位置にリューズを配置するのは扱いづらいものだが、リューズは大振りなサイズで操作性のバランスがよく、なおかつ邪魔にならない位置に収まっている点が秀逸だ。

この新作での主な功績は、新しいムーブメントが文字盤上の表示範囲を広げたこと自体ではなく、その実現方法にある。ここはウルベルクのフェリックス・バウムガルトナー(Felix Baumgartner)氏に説明を任せよう。

「すべてのサテライトを駆動し、時針を誘導し、各要素が正確なタイミングでジャンプするようにするために、新しいサテライトコンプリケーションシステムを設計しました。このシステムは、サテライトとベースムーブメントのあいだに配置されたフライングホイールとピニオンを中心に構築されています。これがカムの“ガイディングスレッド(動きを導く指針)”を読み取り、追従します。そのため従来のマルタ十字に基づく装置を、カムとラック(土台)システムに置き換えました。この新しい設計には非常に特殊なバネの開発が必要で、その製造は自社工房で独自に加工する必要がありました。この動きの躍動感をより視覚的に楽しめるようにするため、通常の60から0の目盛り間の距離を2倍に拡大しています」と、彼は語る。

より興味深いのは、視認性の向上が主目的ではなく、ムーブメントの技術的な成果を強調するという意図の副次的な効果だったという点だ。これらの動作はわずか100分の1秒と、一瞬で完了する。これについてサソリの一撃のようだとブランドは表現している。そしてカルーセルアームに取り付けられたウェイトは、これまでで最大のサイズを誇るだけでなく、このスナップ動作の力をバランスよく制御するために不可欠な要素となっている。

同ムーブメントは自動巻きだが、巻き上げの速度や使用時に発生する衝撃、さらにはムーブメントが動作する際の力を抑えるため、ブランドは二重のタービンシステムを採用している。そしてこのタービンが、衝撃を吸収する仕組みだ。とはいえ何よりも印象的だったのは、ムーブメントの裏側の見た目だ。文字盤側からも多くのメカニズムが見えるが、裏側から見えるローターのデザインはこれまで見たどの時計とも違う独特なものだった。

この時計は有機的なドーム型形状と横から見たときのプロファイルが特徴で、手首にフィットして快適に着用できる。ケースはサンドブラスト仕上げとショットブラスト仕上げが施されたチタンおよびスティールで構成され、ふたつの異なるモデルがそれぞれ異なるカラーで仕上げられている。どちらのモデルも50本の限定生産である。

昨年、シンガポールで両モデルを目にする機会があったが、撮影したのは下に掲載した“ダーク”モデルのみだ。このモデルはアンスラサイトカラーのPVD処理が施されたケースと赤いフレームの分針が特徴である。光の当たり具合によって、ダークのブラックアウトされたケースが少しグレーがかった印象を与えることもあるが、PVD加工のない“タイタン”モデルは、基本的にこのグレーの色味となっている。

下の写真だけ見ると時計があまり手首にフィットしていないように見えるかもしれないが、それはウルベルクが非常に長めのラバーストラップを標準で提供しているからだろう。おそらく、9インチ(約22cm)の手首サイズでも、箱から出したまま特に問題なく装着できるのではないだろうか。写真を撮っていないときに、ストラップを調整して7.25インチ(約18.4cm)の自分の手首にしっかりフィットさせてみたところ、ぴったりと手首に沿った。実際、これまで着用したウルベルクのなかで最も快適だったかもしれない。

新作UR-150 “スコーピオン”の価格は、PVD加工のない“タイタン”モデルが8万8000スイスフラン(日本円で約1500万円)、先述した“ダーク”モデルが8万9000スイスフラン(日本円で約1530万円)となっている。決してお得とは言えない価格だが、ウルベルクへの愛着とブラックアウトされたデザインへの偏愛を考えると、この時計がウルベルクらしい非常にクールな一品であることは間違いない。

人気の桜ダイヤルをクリーミーな色合いに仕上げた、新作のSBGH368である。

2023年、グランドセイコーは手巻きスプリングドライブのCal.9R31を搭載した100本限定のSBGY026を発表した。そして今回、62GSケースに18KRGを採用した初のレギュラーモデルが登場。クラシックなデザインを継承しつつ、より力強く存在感のあるケースデザインとなっている。

ムーブメントには約55時間のパワーリザーブを備える自動巻きのCal.9S85、通称“ハイビート36000”を搭載。ケースサイズは38mm×12.9mmで、シースルーバック仕様ながら100mの防水性能も確保している。ドレスウォッチとしては少しタフすぎるかもしれないが、個人的にはむしろうれしいポイントだ。

グランドセイコー SBGH368は、4月1日より発売を予定しており、希望小売価格は440万円(税込)だ。

昨年日本を訪れた際にこの時計のプレビューを見る機会があり、その素晴らしさに圧倒された。確かに、手巻きムーブメントでデイト表示のないSBGY026のほうが好みかもしれないが、RGと淡いクリームピンクのダイヤルの組み合わせは、間違いなく最高クラスの美しさだった。62GSケースは一般的なドレスウォッチよりも少し大胆なデザインではある(正直、“ドレスウォッチ”と断言すると議論が起きそうで少し怖い)。とはいえ、これが人生最後のゴールドウォッチになるかもしれないと思えるような1本であることは間違いない。

SBGH368
基本情報
ブランド: グランドセイコー(Grand Seiko)
モデル名: ヘリテージコレクション メカニカルハイビート 36000 桜隠し(Heritage CollectionMechanical Hi-Beat 36000 sakura-kakushi)
型番: SBGH368

直径: 38mm(ラグ・トゥ・ラグは44.7mm)
厚さ: 12.9mm
ケース素材: 18Kローズゴールド
文字盤: カッパーピンク
インデックス: 18KRG製アプライド
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: クロコダイルレザーストラップ、3つ折りクラスプ付き

SBGH368
ムーブメント情報
キャリバー: 9S85
機能: 時・分表示、センターセコンド、日付表示
パワーリザーブ: 約55時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: ハイビートの3万6000振動/時
石数: 37
クロノメーター: なし、ただし日差+5~-3秒
追加情報: 耐磁4800A/m

価格 & 発売時期
価格: 440万円(税込))
発売時期: 2025年4月1日発売予定
限定: なし

ブルガリ×MB&Fが再びコラボレーションし!

史上最も未来的な“セルペンティ”が誕生!

“アイコン”という言葉は時計の世界でよく使われるが、ときとして乱用されすぎている感もある。しかしブルガリのセルペンティなら、本物のアイコンと呼ぶにふさわしい。蛇の頭を模したデザインが特徴のこのシリーズは、まさに唯一無二の存在だ。手首にぐるりと巻きつくセルペンティ トゥボガスは、1周、2周、あるいは何重にも巻くことができるカフスタイルで、今もっとも注目されている“イット(ホットな)”ウォッチのひとつ。一方セルペンティ セドゥットーリは、同じデザインの流れをくみつつ、よりクラシックなブレスレットウォッチとして仕上げられている。そしてセルペンティの極みともいえるのがセルペンティ ミステリオーシ。蛇の頭のなかに時計が隠されたこのモデルは、世界最高峰のジェムセッティングや漆芸、ジュエリー技法が惜しみなく施された、まさに芸術品のようなアイテムだ。
ただしこれまでになかったものがある…少なくとも、ブルガリ オルロジュリーのプロダクト・クリエイション・エグゼクティブ・ディレクター、ファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ(Fabrizio Buonamassa Stigliani)氏の目には。それは大胆でマスキュリンなセルペンティで、もっと幅広い人たちの手元にこのアイコンを届けるモデルだ。そしてそれが今日ついに登場する。ブルガリと未来的なウォッチメイキングで知られるMB&F​が2度目のコラボレーションを果たし、シンプルに“セルペンティ”と名付けた新作を発表。ただその名前とは裏腹に、これまでのセルペンティとはまったく異なる、新しいスタイルの時計となった。

マックス・ブッサー(Max Büsser)氏とファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏。Photo courtesy MB&F and Bulgari.

LVMHでファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏とマクシミリアン・ブッサー(Maximilian Büsser)氏のコラボの噂を聞いたとき、とてもワクワクした。この業界でも特に好きなふたりで、時計そのものはもちろんだがそれ以上に彼らの個性や視点がおもしろい。ただし前回のレガシー・マシン フライング T アレグラは、ブルガリのハイジュエリーの魅力を最大限に生かした作品だった。だからこそ新しいコラボの話が出たときは、まだセルペンティという名前すら聞く前から、“今回はもう少し自分向きの時計になるかも?”と期待していた(まあその“自分”になるには、もっと深い懐が必要なのは間違いない)。

ジェンダーウォッチの話はひとまず置いておいて、これまでのセルペンティが主に女性向けにデザインされ、愛されてきたのは間違いない。セルペンティのデザインは基本的に蛇のビジュアルにフォーカスしていて、ブルガリはこれを“永遠の再生と大胆なメタモルフォーゼの象徴”と呼んでいる。だが今やその枠を超えて進化してきた。ではブルガリ×MB&Fのセルペンティはどんな形になるのか? スタイリッシュなブレスレット? カフ? それとも鱗や舌がついている? さすがにそこまで振り切ってはいないものの、それでもしっかりMB&Fらしさが詰まった仕上がりになっている。

MB&Fが好きなら、この時計のベースがどこから来ているかすぐにピンとくるはず。ファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏のアイデアのヒントになったのは、2020年に発表されたMB&FのHM10 “ブルドッグ”だ。HM10はドーム型のディスプレイをふたつ備えていて、左が時、右が分を表示。その丸みを帯びたヘッドデザインが、まるで目のように見えるというユニークなスタイルだった。

ブルドッグはどちらかというとカエルっぽい気がする(ちなみに“ranine”がカエルっぽいという意味なのはもちろん調べた)。カエルは両生類であり蛇みたいな爬虫類とは違うが、進化的な距離ほどにはイメージの飛躍は必要なかった。そんなことを考えつつ、ボナマッサ・スティリアーニ氏はすぐにスケッチを始めて、もっと蛇らしいデザインを探し始めた。

個人的に気に入っているのは、ボナマッサ・スティリアーニ氏が“コブラ”と名付けたセルペンティの初期スケッチのひとつ。目にあたる部分はシャープなスリット状になっていて、全体的に直線的なデザインだ。そしてスケール(鱗)パターンを施したラバーストラップが採用されていた。ストラップ部分は少し安っぽく見えたり、実際のつけ心地も微妙だったかもしれないが、セルペンティ トゥボガスの巻きつくブレスレットのアイデアをうまく取り入れていたのはおもしろい。このデザインを、過度につくり込みすぎたりより多くの人(特にジュエリー系のデザインに挑戦しづらい男性)にとって“つけにくい”ものにせずに仕上げる方法は、正直なかなか思い浮かばない。しかしプレス資料やプレゼンに含まれていたスケッチを見ると、実際にどんな方向性が検討されていたのかが垣間見えて、とても興味深かった。とはいえ最終的に完成したモデルも素晴らしい仕上がりになっている。

ブルガリ×MB&Fのセルペンティはまるでクルマのように、見る角度によって印象が変わる時計だ。それに加えてケースの素材によっても表情が大きく変わる。今回用意されたのは、18Kローズゴールド、グレード5のポリッシュ仕上げチタン、そしてブラックPVDコーティングのステンレススティールの3種類。デザインの流れも独特で、“後部(通常の時計で言えば12時位置)”からアーチを描くラインが、セルペンティの“鼻先”に向かってスッと細くなっていく。上から見ると蛇っぽさに気づきにくいかもしれないが、真正面から“鼻先”を見つめると、その特徴的なフォルムがはっきりと現れる。

個人的に、このデザインの効果が最も際立っているのは18KRGケースだと思う。エッジ部分が光と影を拾いコントラストを生み出すことで、セルペンティのフォルムをより強調している。このケースではグリーンのアクセントが使われており、時・分を表示するドーム部分もグリーンで統一されている。中央部分には、“脳”に見立てられた巨大な14mmのフライングテンプが浮かぶように配置され、ダブルネームのブリッジに支えられている。この独特な構造が、時計のデザインをより未来的でダイナミックなものにしている。

また上から見たときに注目したいのが、ラグのように機能するふたつのリューズ。左側のリューズは11時位置にあり、手巻き用。右側のリューズは1時位置に配置され時刻調整に使われる。この配置が時計のデザインと機能性を絶妙に融合させている。

先に言っておくと、この時計は決して小さくない。まあ、MB&Fの時計が小振りなことなんてほとんどないが、横39mm、縦53mmというやや掴みどころのないサイズ感に加えて、厚さ18mmとなると、正直“つけるのは不可能では?”と思ってしまう。ところが実物を初めて見たとき、一緒にいたベン(・クライマー)が真っ先に口にしたのは“意外とウェアラブルだ”という言葉だった(ベタな表現で恐縮だが本当にそうだった)。

蛇は、別にあったかくてフレンドリーな生き物ではないが、この新しいセルペンティはとにかく凶悪な雰囲気をまとっている。特に鼻先の鋭いデザインがそれを強調している。ただブッサー氏とボナマッサ・スティリアーニ氏は、あえて角ばった形ではなく、より自然なスローピングデザインに仕上げた。このふたりはクルマ好きとしても知られていて、これまでも自動車デザインを取り入れたことがある。ボナマッサ・スティリアーニ氏とは、写真やミッレ・ミリアの話で盛り上がったことがあるが、そんな背景を考えれば今回のデザインでもクルマ的な要素が取り入れられているのはまったく驚きではない。

時計の背面には、スポーツカーのリアウィンドウを思わせる段差のあるサファイアクリスタルを採用。リューズは、まるでクルマのホイールのような形状をしており、その下に配置されたふたつのパーツはV12エンジンのバルブカバーにも見える。全体のデザインは、テスタロッサやランボルギーニ・カウンタックのような直線的でアグレッシブなものではなく、フェラーリ330 P4やディーノ246 GTのような流麗なフォルムに近い。このたとえで言えば、むしろ大歓迎だ。

この時計には、5枚の反射防止コーティングが施されたサファイアクリスタルが使われている。2枚は目にあたり、1枚は脳、もう1枚はエンジンに相当する部分だ。そして5枚目は、いわばムーブメントの“アンダーキャリッジ(足回り)”、つまりこの獣”の腹部にあたる部分に配置されている。そこから覗くムーブメントは、精巧に仕上げられたオープンワークデザインになっており、大きく開いたスペースから歯車の動きを楽しむことができる。手仕上げの美しさが際立つ構造で、さらにパワーリザーブインジケーターも搭載されている。

本作は手巻きムーブメントを搭載しているが、正直なところ単なる時計というよりも、まるで機械仕掛けのアート作品のように感じる。実際これほど時間を合わせなくてもいい、と思えた時計は初めてかもしれない。重要なのは時間を知ることよりも、これを身につけるという体験そのものなのだ。

まだ触れていなかったが、この時計のなかで最も控えめながらも、実はかなりおもしろいディテールがある。それはセルペンティの鼻先に最も近い部分にあるラグだ。これは実は蛇の牙を模している。厳密に言えば、爬虫類学的にはソレノグリフ型の牙にあたる。これは、長くてなかが空洞になっていて(完全にそうではないが)、動かせる構造を持つのが特徴だ。見た目のアクセントになっているだけでなく装着感にも貢献しており、手縫いのラバーストラップとベルクロの組み合わせによって、手首にしっかりフィットするデザインになっている。

ブラックコーティングの時計は本当に好きだ。3種類のセルペンティのなかで一番“危険な香り”がするのは、間違いなくブラックPVDコーティングを施したSSモデルだと思う。ヴィンテージウォッチのようにPVDが少しずつ剥がれて味が出るのか気になるところだが、最近の技術を考えると、そこまで劇的なエイジングは期待できなさそうだ。だが個人的にちょっと引っかかったのは赤い目。ここまで攻めたデザインだと、さすがに少しやりすぎかなとも思う。それにボディの流れるようなラインや口の形の存在感が、ほかのモデルほど際立たない気がする。

個人的に気に入ったのは、チタンと18KRGのモデルだ。それぞれ33本の限定生産で、SSモデルを含めると合計99本。ブルガリとMB&Fのあいだで振り分けられることになるが、49本目の時計をどちらが手にするのか少し気になる。今回の時計はMB&Fが製造を担当していて、こうしたハイエンドなアートピースをつくるには同社の生産能力は非常に限られている。実際、MB&Fは2024年に400本未満の時計しか製作しておらず、ブルガリ×MB&F セルペンティのムーブメントも、月に6~8個しか製造・組み立てられない。そのため、全99本が完成するまでには約1年かかる計算だ。しかも、すでにMB&Fはこの99本すべての買い手を見つけたらしい。それだけでもすごい話だ。何しろ、これが決して安い時計ではないことは言うまでもない。

もしこのブルガリ×MB&Fの新作が欲しいなら、すぐにでも小切手帳を用意したほうがいい。これは普通のデイリーウォッチではなく、まさに時計のアートピースだからだ。とはいえフェラーリを毎日の足に使う人がいるように、SSやチタンモデルなら14万8000ドル(日本円で約2250万円)、18KRGモデルなら17万ドル(日本円で約2580万円)を払って、この時計を日常的に楽しむ人もいるかもしれない。

この記事で名前を挙げたどのクルマと同じく、この時計も感心するし、うらやましく思うし、存在してくれてよかったとも思う。そして、実際に体験できてよかったとも思う。ただたとえ買えるとしても、どう使えばいいのか正直わからない。“Cars and Coffee”のミートアップにお気に入りの愛車で乗りつけるように、この時計は実用的に使うというより、時計仲間と楽しむためのものだろう。ほかのセルペンティよりも、まさにそういう目的でつくられた時計だと思う。そして何より、これは間違いなく自分向けにつくられたモデルだ。だからこそ、これが最後にならないことを願っている。

ブルガリ×MB&F セルペンティ。ケース幅39mm、厚さ18mm、ラグからラグまで53mm。18Kローズゴールド、グレード5チタン、ブラックPVDコーティングステンレススティールの3種類。30m防水。時・分表示はそれぞれRGがグリーン、チタンがブルー、PVDSSがレッドのドーム型ディスプレイ。14mmのフライングテンプ。裏蓋にはパワーリザーブインジケーター。手巻きムーブメント搭載、11時位置のリューズで巻き上げ、1時位置のリューズで時刻調整、約45時間パワーリザーブ。ベルクロ式の手縫いラバーストラップ。各素材33本限定、合計99本。価格はSS&チタンが14万8000ドル(日本円で約2250万円)、RGは17万ドル(日本円で約2580万円)。

シチズンのアナデジ・スポーツウォッチに、最新世代が登場。

2024年の夏、シチズンはエコ・ドライブを搭載したプロマスター ランドシリーズの次世代機を発表した。新たに開発されたアナデジムーブメントを搭載し、ブランドが得意とするモダンで複雑、かつ機能性を重視したデザインを採用したモデルである。この新作はシチズンが長年培ってきたクォーツウォッチの分野、とりわけ小型のデジタル液晶を備えたモデルの系譜をさらに発展させるものだ。こうした時計の世界観は個人的にも大好きで、スマートウォッチではなく、機械式やデジタルの融合によって多機能を実現する時計を求めている人にとって魅力的な選択肢となるだろう。

Citizen promaster Land U822
パネライスーパーコピー代引きそして先週、マークが現在販売されているなかでも特にお気に入りの時計のひとつ、シチズン アクアランド JP2007の実機レビューを公開した。1980年代に誕生したこのモデルは、プロフェッショナルなダイビングツールとしての本格的な機能を備えている。ケースから突き出た深度センサーや、小さなデジタル液晶用の切り抜き窓が施された高輝度な夜光ダイヤルが特徴的だ。この時計は個人的にも愛用しており、数年前から手元に置いているがその魅力は尽きない。数値上のスペックよりもはるかに快適な装着感を持ち、ベゼルの優れた操作性、デジタル液晶を活用した多彩な機能、そして明るい夜光ダイヤルが備わっている。いわば“日本版プロプロフ”とも言える存在で、たびたびおすすめしているのだが、ダイバーズウォッチとしての個性が強いため万人向けではないことも承知している。
null【VS工場出品】OFFICINE PANERAI パネライ スーパーコピー ルミノール サブマーシブル GMT カーボテック? ネイビーシールズ PAM01324  44mm
しかしシチズンのラインナップは多岐にわたる。そのため、より一般的なモデルを求める人も安心して欲しい。これまでに僕はより控えめなプロマスター セイルホークや、ユニークなプロマスター SST、さらには名作ブルーエンジェルス スカイホークを所有してきた(免税店で見かけたことがある人も多いのではないだろうか)。いずれのモデルも、デジタル液晶をアクセントに持つスポーツウォッチとして非常に優れた性能を誇る。そして今回新ムーブメントを搭載したプロマスター ランド U822が登場、この実直で愛すべきコンセプトを次世代に向けて進化させることとなった。

Citizen promaster Land U822
時計全体の説明に入る前に、まずはムーブメントについて詳しく見ていこう。Cal.U822はクォーツ制御のソーラー駆動ムーブメントで、Memory-in-Pixel(MIPS)ディスプレイを採用している。このディスプレイは120×48pxの高解像度を実現しており、従来のLCDスタイルのディスプレイと比較してより高いコントラストと鮮明な表示を可能にしている。

このムーブメントにはワールドタイム、クロノグラフ、アラーム、パーペチュアルカレンダーといった一般的な機能に加え、バックライトや光量インジケーターといった特別な機能が搭載されている。光量インジケーターは、光源が時計の充電にどれほど効果的かを測定できるだけでなく、過去1週間の発電履歴も記録する。またCal.U822の精度は月差±15秒とされ、フル充電時には省電力モードで最大3年間動作する。

Citizen promaster Land U822
時計全体に視点を広げると、このプロマスター ランドの新モデルはプロマスター誕生35周年を記念して2024年に登場しており、3種のバリエーションが用意されている。ここで紹介するのは、スティール×ブラックケースにポリウレタンストラップを組み合わせたJV1007-07Eだ。このほかには、グリーンダイヤルとグレーケースのJV1005-02W、そして5900本限定のJV1008-63Eがある。限定モデルはグレーIPコーティングが施され、スティールブレスレットと、ベゼルインサートおよびダイヤルにカモフラージュパターンを採用している。

外観の違いを除けば3モデルとも基本スペックは共通で、ケース径44mm、厚さ14.5mm、ラグ・トゥ・ラグは51.4mmとなる。ラグ幅は22mmで、ストラップ装着時の重量は107g、そして防水性能は200mだ。またプッシャーはねじ込み式のように見えるが、実際にはリューズと同様にパッシブなロック機構が採用されており、防水性能を確保するためにリューズやプッシャーを操作する必要はないので安心して欲しい。

Citizen promaster Land U822
もし僕と同じようにこの種の時計に魅力を感じるのであれば、スペックや技術はアナデジフォーマットの時計、特にシチズンのモデルに共通するものが多いことに気づくだろう。それは確かにそのとおりだ。ただし新しいディスプレイを除けばの話である。MIPSディスプレイは、現行のアクアランドやスカイホークに搭載されているものよりも、はるかにモダンな使用感を提供する。従来のLCDディスプレイはシンプルで、省電力性に優れ、コントラストが高く、数字をクリアに表示できるというメリットがある。しかし表示できる情報の柔軟性は低く、細かいディテールの描画にも限界があった

MIPSディスプレイではセグメントではなくピクセルで構成されているため、より高解像度な表示が可能であり、さらに変化のあるピクセル部分だけを更新することで電力消費を抑えることができる。また画面のリフレッシュ速度が速く、標準モード(白背景に黒文字)とネガティブモード(黒背景に白文字)の切り替えも可能だ。
【SBF工場出品】OFFICINE PANERAI パネライ スーパーコピー サブマーシブル クアランタクアトロ PMA01287 44mm
画面のモード切替中の状態を示すこのリストショットでは、ディスプレイが反転し、黒文字が白背景に表示されている様子が確認できる。

シチズンはこの特性を生かし、ユーザーインターフェースを最適化している。通常の待機状態では、メインのリューズを押し込むことで画面が白黒から黒白へと反転する。さらにプッシャーを使って「カレンダー」、「ワールドタイム」、「クロノグラフ」、「タイマー」、「アラーム」、「設定」といった各機能を順番に切り替えられる。新しい機能を選択する際には再びリューズを押し込むことで決定し、画面表示は再び白背景に黒文字へと戻る。特定のモードが選択された状態では、2時位置のリューズを回すことで異なる表示オプションを切り替えられる。たとえば、ワールドタイムでは「第2時間帯の時刻のみ表示」、「ふたつの時間帯と日付を並べて表示」、「第2時間帯の拡張時刻・日付表示」などを選択可能だ。

どの待機状態(つまり、画面が黒背景に白文字表示されている状態)でも、4時位置のプッシャーを押せばスクリーンのバックライトが点灯する。このバックライトはディスプレイの上部に配置された赤みがかったオレンジ色のLEDを使用しており、暗所でも容易に視認できる。電子バックライトと、ダイヤルに施された驚異的な夜光塗料の組み合わせによる発光量はまさに圧巻だ。個人的にはインディグロのような全面発光のバックライトを望みたいところだが、このシステムでも十分に実用的で視認性の高い小型ディスプレイのメリットを最大限に生かしている。完全にデジタル表示に移行したくない、あるいはスマートウォッチには踏み切れないアナデジ好きにとって、この新しいスクリーンの導入はアナデジフォーマットの進化として意義のあるものだと感じる。

夜光は2種類。

また、Cal.U822にはちょっとした隠し機能も搭載されている。たとえば両方のプッシャーを同時に押すことで、メインの針が表示しているタイムゾーンを即座に切り替えることができる。また設定メニュー内には、針の位置がずれた場合に素早く簡単に再同期できる機能も備わっている。

興味深い点、あるいは少し不便に感じるかもしれない点として、クロノグラフ作動中には画面に計測時間が表示されないことが挙げられる。クロノグラフを開始すると“Running(作動中)”とだけ表示され、計測を停止するまでは具体的な経過時間を見ることができない(または、4時位置のプッシャーを押してスプリットタイムを記録した場合、その時点の時間が表示される)。個人的には、この仕様のためにクロノグラフを頻繁に使うことはなさそうだ。デジタル時計のクロノグラフ機能を使う主な理由は、計測中の経過時間をすぐに確認できることだからだ。しかしクロノグラフ機能を除けば、Cal.U822のユーザーインターフェースは非常に洗練されており、特にトラベルウォッチとしての実用性に優れている。GMT/ワールドタイム機能はわかりやすく整理されており、どのタイムゾーンの時刻も設定メニューから簡単に調整できる。また気になる人のために補足すると、メインの設定や各機能の時刻・日付・ロケーション設定に入ると時針と分針が素早く9時14分の位置に移動し、ディスプレイが見やすくなるよう配慮されている。

ムーブメントと小型ディスプレイ以外の要素に目を向けると、全体としては現代的なパイロットウォッチのデザインを踏襲している。太めのソード針、視認性の高い夜光インデックス、そして文字盤右側に現在のモードを表示するインダイヤル、左側にはクロノグラフの分計とパワーリザーブインジケーターが配置されている。

最後になるが、まだ触れられていないふたつの要素に気づいている人も多いであろう。それがダイヤルを囲むコンパスベゼルと、8時位置にあるタービンのようなデザインのリューズだ。このリューズはベゼルを回転させるためのもので、太陽の位置を基にした簡易的なナビゲーションが可能となる。普段なら「コンパスベゼルは実用性が低いし、もっと便利な方法がある」と言いたくなるところだが、プロマスター ランド U822はディスプレイ上でさまざまなナビゲーション機能を補完しており、さらにプロマスター ランドというカテゴリーに属していることを考えると、このコンパスベゼルはデザインの一環としても違和感なく馴染んでいる。

時計の細部や機能について多くの言葉を費やしてきたが、最後は実際の装着感について触れて締めくくろう。寸法(44×14.5×51.4mm)から想像がつくように、プロマスター ランド U822は決して小型の時計ではない。装着感は数値どおりで、特にラグ・トゥ・ラグのサイズは僕の7インチ(約17.8cm)の手首には許容範囲ギリギリといえる。ラグは手首に沿うように下向きに傾斜しており、時計のバランスを保つのに役立っているものの、やはりがっしりとしたスティールのケースを持つため、シャツのカフの下に収まるようなタイプではない。しかし数値だけでは測れないこともある。シチズンのいい点のひとつは、ほとんどのショッピングモールに店舗があり、実際に手に取って試着できることだろう。

ポリウレタン製のラバーストラップは快適で柔らかく、厚みもほどよい。このような要素が組み合わさり、極めて“マニア的”なアナデジウォッチでありながらスポーティでマスキュリンな印象を持つデザインが完成している。正直なところ、シチズンにはこのコンセプトを40mm径前後のサイズで展開してほしいと切に願っている。またダイヤルのインジケーターを減らし、ディスプレイに情報を集約することで、さらにすっきりとしたデザインになるのではないかとも思う。今後な話をするならば、このU822ムーブメントをほかのモデルにも搭載して欲しい。ダイバーズウォッチ、トラベルウォッチ、レーシングクロノグラフ、シンプルなフィールドウォッチなど、さまざまなスタイルに応用できる可能性を感じる。

アナデジのスタイルは万人向けではないが、小型ディスプレイに魅了された者にとって、この新しいディスプレイとムーブメントの視認性のよさは無視できないほどの魅力がある。僕としては、このムーブメントがどんな時計に搭載されるのかを想像するだけで胸が高鳴る。例えば、次世代のアクアランドに搭載されるとしたら……どうだろう?