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H.モーザーの最新作、エンデバー・パーペチュアルカレンダー タンタル ブルーエナメルだ。

H.モーザーは、人々の注目を引くことを問題としたことは決してない(ときに度が過ぎることはある)。このブランドは過去に悪ふざけのきっかけを作ったことはあるが、優れた時計づくりのために、口先だけでなく行動を起こすことができる存在であることに疑う余地はない。

タンタルを使った時計が発売されるというのは、マニアのテンションをあげるのに十分だ。この素材はゴージャスでありながら極めて硬く、重く、濃く、さらに光沢を放ち、延性を持つ。私は市場で最も優れたホワイトメタル素材であるとも思っている。しかしその一方で、機械に負担をかけてケースメーカーの怒りを買うという、悪夢のような存在であることも多くの愛好家が知っていることだろう。タンタルの時計は、かつてのような大きな功績を残すことはないかもしれないが、“我々はこんなことができるのだということを見て欲しい”と、ブランドが胸を張っていえるようなモデルであることは確かだ。

フュメのグラン・フー エナメル文字盤も注目を集めるだろう。グラン・フー エナメルは、ガラスと金属を融合させたエナメル粉末を一層ずつふるい落とし、何度も焼成することで、まるで生きているかのような泡に似た質感を生み出す非常に繊細な技法のひとつで、一部のメーカー(anOrdainのような意外とリーズナブルなものも含めて)を除いてはほとんど見ることができない。

このふたつの要素を、H.モーザーの新作エンデバー(Ref.1800-2000)のような、美しくて極めてシンプルな42mmサイズの永久カレンダーに搭載すれば、それは大正解なのだ。

ベン・クライマーは2015年当時、A Week On The Wrist記事のなかで、モーザーのエンデバーは“私が考えるなかで最もエレガントな永久カレンダーだ”と言っている。あえていうならそれは今も変わらない。シンプルなデザインであるため、複雑な時計ではなく、普通の日付つき時計と見間違うほど。ときには“私は複雑だ!”と、声高に主張するカレンダーウォッチも欲しいのだが、それほど力説する必要のない時計は、なんだか贅沢な感じがしてくる。シンプルなディスプレイが、フュメのグラン・フー エナメル文字盤の“アビスブルー”のような素晴らしいデザインを表現するパレットとして機能するのであればなおさらだ。だが、この話はまた今度にしよう。

H.モーザー エンデバー・パーペチュアルカレンダー チュートリアルの写真に戻らなければならない。これは永久カレンダーを簡略化し、その簡略化された表示の読み方を文字盤上でおもしろおかしく教えてくれる時計である。メイラン夫妻のユーモアのセンスを知っている私は、この“チュートリアル”が発表された際、適度な皮肉を込めて鑑賞したが、手ほどきなしではデザインを理解できない人がいたら、どんなに侮辱されるだろうかと考えたものである。まあ、実は私も忘れていて助けを必要としたのだが…。1カ月はどこからがスタートなのか? 月表示の針は、文字盤の周りをジャンプしたり、少しずつ動いたりするのだろうか? 私は侮辱されたというより、恥ずかしい思いをした。

The H. Moser Endeavor Perpetual Calendar Tutorial
H.モーザー エンデバー・パーペチュアルカレンダー チュートリアル。courtesy H. Moser & Cie.

おさらいになるが考えすぎは禁物だ。日付は午前0時にジャンプし、必要に応じて月表示の針もジャンプする。つまり、小さな月表示のインジケーターは常に、1年から12年、または1月から12月までの月に関連付けられたダイヤルの時間を指していることになる。また文字盤に対して針がとても短いため、“今が1月か2月か”わからくなってしまうかもしれないが、いずれは慣れることだろう。

The dial of the new Moser Endeavor Perpetual Calendar with fumé grand feu enamel dial
日付窓、月表示の針、パワーリザーブインジケーター、6時位置にはスモールセコンドを搭載。

The movement of the new Moser Endeavor Perpetual Calendar
このエレガントなデザインに用いられたのは、34mm径のCal.HMC800で、8年前にベンがレビューした時計に搭載していた、オリジナルのHMC341から派生したムーブメントである。32石の新ムーブメントは、H.モーザーがそのあいだに繰り返し行ってきた改良を施して信頼性とパワーリザーブを向上させ、さらに組み立て時間を3分の1に短縮したものだ。このように、組み立てとサービスのダウンタイムの短縮に力を入れることは、以前から行ってきたモーザーの基本的な姿勢である。これはブランドの名刺代わりにもなっている、交換可能な脱進機モジュールの実現にも表れていることだ。また、2015年にベンが指摘した仕上げの“ショートカット”(内角というワードは、当時は今よりも流行していなかった)のなかには、ブリッジの特定部分の面取りのようなものも残っているが、何となくこの時計は少し丁寧さを感じることができ、仕上げに輝きが増しているような気がする。

The escapement of the The new Moser Endeavor Perpetual Calendar with fumé grand feu enamel dial
簡単に交換可能な、HMC800の脱進機。

多くの手巻き式永久カレンダーとは異なり、エンデバー・パーペチュアルカレンダー タンタル ブルーエナメルには、多くのおまけが付属している。簡略化された表示とは裏腹に、中身には完全に統合された(モジュール式ではない)ムーブメントを搭載しているのだ。

ヴィンテージの手巻き式永久カレンダーを手に入れる場合、それがうるう年表示がないモデルであれば、巻き上げを忘れるととんでもないことになる。しかしエンデバーを裏返すと、すぐに今年が何年目なのかを確認できるホイールが付いている。私の大好きなインフォマーシャルアイコン(CM)の言葉を借りれば、“set it and forget it!(一度設定したら後は放っておけばいい!)”。また、ツインバレルを備えており、約7日間というロングパワーリザーブを実現しているため、少なくとも、忘れていても巻き忘れることはないだろう。

しかしこのムーブメントは、誤作動しないようにつくっているという、最大のおまけを搭載していることを“チュートリアル”ウォッチでハッキリと示している。時計メーカーは、時計の設定や使用方法に関して、ユーザーエクスペリエンス(おそらくクレーム要求を避けるため)に注意を払っているようである。さらに一般的に、午後9時から午前3時まで日付や月の設定ができない、日付変更禁止時間帯に操作をするとムーブメントが壊れてしまい、多額のサービス料が発生するということもなく、チュートリアルは時計をセットしていい時間とそうではない時間を、1時間も必要としない。もう一度言おう。一度設定したら後は放っておけばいい!

真意を理解すると、タンタルはH.モーザーにとって今年の顔ともいえる金属なのかもしれない。H.モーザーは、タンタルに翡翠の文字盤を組み合わせた10本限定のエンデバー・パーペチュアルカレンダーも発売している。フュメのグラン・フー エナメル文字盤は、このケース素材との相性が抜群といえるのではないだろうか。ダークでムーディーな雰囲気のケースは、光の加減で深いブルーと薄いブルーの両方の色調からセンターのシーフォームグリーンまで変化する、この文字盤の背景としてピッタリだと思うのだ。

リーフ針も、センターポストから先端にかけて2分割され、文字盤のグラデーションに対して常に鮮やかな印象で、光と影をうまく受け止めている。そして最後のディテールは、翡翠文字盤に足りないと思っていた要素をフォローするように配された、大きな日付窓を囲ったメタルの囲いだ。

エンデバー・パーペチュアルカレンダーの装着感が悪いと、リリースのすべてが無意味になってしまう。ただ嫌いな人には申し訳ないが、この時計の装着感は最高だった。6時と12時が緩やかなカーブを描くシースルーバックを備え、またラグは手首にフィットするよう、スカラップ型のミドルケースに対してやや高めにセットしていた。マットなクードゥーレザーストラップはダークなタンタルケースと相性がよく、この金属製の時計に求められる迫力を補完している。さらに“H. Moser & Cie.”と刻印されたSS製のクラスプは、時計を身につけているあいだ、唯一メーカー名を見ることができるディテールとなっている。直径42mm、厚さ13.1mmというサイズ感は従来のドレスウォッチとは異なるが、モーザーは特に伝統的なことを意識しているものではない。

もしかしたら文字盤よりも目を引くのは、その価格かもしれない。価格は1182万5000円(税込)で、グラン・フー エナメルダイヤルのないホワイトゴールドと、ファンキーブルーフュメのバリエーションより、335万5000円もの差額がついている。anOrdainのようなブランドが、グラン・フー エナメルを3000スイスフラン(日本円で約43万9000円)以下で提供しているのだから、かなり厳しいものがある。しかし、タンタル製ケースと搭載している永久カレンダーキャリバーとのあいだでは統一性がなく、比較できないものである。さらにこのリリースをきっかけに、H.モーザーに興味を持った時計ファンがひとりでも、このブランドの深みにハマっていくことは間違いないだろう。

新作クラシック クロノグラフの魅力を探る。

ショパールによるミッレ ミリアのワールドスポンサー&オフィシャルタイムキーパーは連続36回に及び、パートナーシップはこれまでのレース史上でも最も長い。そしてその歴史は紛れもなく、同じ名を持つウォッチコレクションの歩みでもあるのだ。

記念すべきミッレ ミリアコレクションの第1作が誕生したのは1988年。出走したすべてのドライバーとコ・ドライバーの勇気を讃え、勝利のメダル代わりに贈呈された。積算針を中央に備えたクォーツ式のシンプルなモノプッシュクロノグラフにシリアルナンバーが刻まれ、以降、毎年新作が発表された。なかには機械式ストップウォッチやカフリンクス、キーリングといった変わりダネも登場し、このことからも当初はあくまでも記念品であり、時計での市販は想定していなかったのだろう。

だがレースへの注目とともに一般からの要望が高まり、Competitorの文字などが刻印された参加チームに贈られるモデルとは異なる仕様で1997年に市販化。コレクターズアイテムとしても高く支持され、現在に至る。レースの開催に合わせて発表された最新作ミッレ ミリア クラシック クロノグラフも歴代モデル同様、新たな魅力に磨きをかけ、注目を集めている。

革新素材を融合したクラシックへの原点回帰

コレクションでも特に伝統的なミッレ ミリアの雰囲気を表現したクラシック クロノグラフは、1998年の第1世代から2009年の第2世代、2017年の第3世代へと続く歴代のスタイルを踏襲する。進化の系譜は一見わかりづらいが、新作においてにはデザインコードを守りつつ、さらなる洗練とフルモデルチェンジといえるほど魅力を一新した。

まず注目すべきは、80%リサイクル素材を用いたルーセントスティール™を採用した点。ショパールはサステナブル・ラグジュアリーに向けた役割として、年内にこれをすべてのSSモデルに採用し、さらに現在80%以上のリサイクル率も2025年までに90%以上に引き上げる目標を掲げている。これはその取り組みの一環だ。

この未来志向の革新素材を採用したケースは、前作の42mm径から40.5mm径に抑えた。第1世代の39.2mm径以降、拡張を続けるなかで初のダウンサイジングであり、これも原点回帰といえるだろう。さらにグラスボックスと呼ばれるドーム型のクリスタル風防を採用し、クラシックテイストを強調するとともにフェイス全面を被うことでベゼルの幅を抑え、文字盤をより大きく印象づけている。ブレーキペダルを想起させるプッシュボタンのローレット加工や刻みを増すことで操作性を向上したリューズにも機能美が漂う。

新たな試みとして、レースに参戦したクルマのボディカラーをイメージしたカラフルな4色で文字盤を彩り、それぞれに合ったエンジンターンやサーキュラーサテン仕上げを施し、インダイヤルのスネイル仕上げとのコントラストで多彩な表情を演出する。また、カラー文字盤とバイカラー仕様のパンチングレザーストラップに対し、ブラック文字盤にはコレクションの象徴である1960年代のダンロップレーシングタイヤのトレッドパターンを模したラバーストラップを合わせ、これもより柔らかな質感に向上している。

ケースのコンパクト化に伴い、ムーブメントも刷新。これまでのETA 2894-2からより小径のETA A32.211をベースに、クロノメーター認定の高精度を継続する一方、パワーリザーブも42時間から54時間へと延ばしたことも見逃せない。

伝説のドライバーを掻き立てるレースと時計

ミッレ ミリア クラシック クロノグラフ グリージオ・ブルー(ブルーグレー)ダイヤル。Ref.168619-4001。ルーセントスティール™×18Kエシカルイエローゴールドケース。40.5mm径。149万6000円(税込)

ジャッキー・イクス(Jacques Bernard “Jacky” Ickx)

1969年から1982年のあいだ、ル・マン 24時間レースにおいて6回の優勝で記録を塗り替え、F1では8回の優勝、表彰台には25回上った。さらにパリ ダカール・ラリーでは13回の完走を達成する。初めてミッレ ミリアに参戦した時は、ショイフレ氏はてっきりイクス氏の運転かと思っていたら、スタート直前に鍵をわたされ、自分がドライバーであることを知ったらしい。

ル・マン 24時間レースで6度の優勝経験を誇る伝説的ドライバー、ジャッキー・イクス氏は、ショパールの共同社長カール‐フリードリッヒ・ショイフレ氏のコ・ドライバーとして過去15回以上にわたってミッレ ミリアに参加してきた。それはブランドアンバサダーという枠を越え、ともに走り続けてきた友情の証である。

「最初にショイフレ氏と会ったのは35年以上前で、今に至るまでその絆はより深まっています。もうファミリーのひとりですよ」とイクス氏はいう。

「現在のミッレ ミリアはスピードを競うレースではありません。1927年から57年当時に出走したようなスポーツカーが変わらず公道を走ることで、歴史や伝統をもう1度みんなで味わえるイベントになっています。風光明媚なイタリアを巡るこの素晴らしい機会は、僕にはコ・ドライバーのほうがより楽しめるんですよ」

それにショイフレ氏のドライビングでなかったらミッレ ミリアに参加してないかもと笑う。

「彼はすごく運転が上手なのでとても心地いいし、安心して乗っていられます。レースに向き合う真摯な姿勢やクラシックカーへの愛情があり、それがミッレ ミリアを支えていると思います。背景には5世代にわたるファミリービジネスがあり、それにも増して本人の情熱がなかったらここまで続かなかったでしょうね」

そんなふたりはまるで初夏のドライブのように毎年レースを楽しむ。そのとっておきの時を刻むのがミッレ ミリアコレクションだ。

「毎年発表される新作はいつも新鮮で、新たなインスピレーションを与えてくれます。そしてレースに参加し、これを贈られた皆さんが、のちのち時計を見るたびにレースを走ったことを思い出す。その記憶が刻まれるという点でもとても素晴らしいですね」

モータースポーツは、人々のスピードへの情熱をかきたてると同時に、自由なモビリティを象徴するクルマの技術革新に大きく寄与してきた。その役割は今後変わったとしてもインスピレーションを与え続ける存在であることに変わりはないだろうと話す。

「ミッレ ミリアにしてもそれは歴史であり、伝統です。それを間近にすることで多くの発見が得られます。それは人のあり方と同じで、積み重ねた時を大切にすることは人生にも繋がり、豊かな生き方をもたらしてくれると思いますよ」

熱狂はレースを超え、自動車文化の継承へ

ミッレ ミリアは、1927年に始まったイタリアの公道レースだ。きっかけは4人のモータースポーツファンが、特権階級や限られたエリートドライバーだけでなく、腕と才覚さえあれば誰でも参加できるカーレースを始めようと思い立ったことだった。出走も市販スポーツカーに限られ、ここにミッレ ミリアの思想が誕生したのだ。ブレシアをスタートし、ローマで折り返し、南北を往復する3日間(現在の開催期間は年によって異なる)におよぶ総距離が1000マイル(ミッレ ミリア=mille miglia)になることから名付けられた。

しかし30年近く続いたレースも、1957年に起った市街地での事故で幕を閉じる。だがその復活を望む声は高まり、終了から20年を経た1977年に復活を果たしたのである。

競技は決められた区間タイムをクリアするラリー形式になったが、伝統へのオマージュを込めて参加車両は1927年から57年に出走した車両か同型モデルに規定されている。往時のスポーツカーたちは時を超えて美しく、初夏を迎えたイタリアの自然や街並みに映える。まさに“世界一美しいレース”と讃えられる所以だ。

レースに魅了されたヴィンテージカー愛好家のひとりが、当時ショパールの副社長だったショイフレ氏だった。その虜になり、1988年にはスポンサーに名乗り出た。だがそれも単なるブランドのPRやイメージアップだけでないことは、ショイフレ氏自らが毎年ステアリングを握り、参戦していることからも明らかだろう。彼はミッレ ミリアの魅力についてこう語る。

「イタリアで開催されるというところに意味があると思います。イタリアでは誰もがクルマに情熱を持っています。美しい風景、美しく古い建物、見て回るだけでも飽きない美しい街がある。そしてどこに立ち寄っても、おいしいコーヒーがいつでも飲める。だからミッレ ミリアは最高の国で行われているのかもしれないですね。そしてイタリアの人々みんなが楽しんでいる。人々の村や道路を通り過ぎる瞬間、どんな時間帯であろうと、人々がそこにいようといまいと関係なくね。言葉で表現するのはとても難しいですが、スイスでこんなことをしたら誰もクルマを走らせたがらないと思います。これは人間的な冒険であり、イタリアは私にとって特別な国なんです」

今年は世界中から405台がレースを走った。行程も1日延長されて5日間にわたり、パルマからミラノのルートが追加された。これもようやく取り戻した日常の喜びを謳歌する粋な計らいだろう。35回目の出走となるショイフレ氏は、相棒ジャッキー・イクス氏とともに愛車のメルセデス ・ベンツ 300SL ガルウィングで参戦。さらにブランドアンバサダーである中国の俳優、朱一龙(Zhu Yilong)氏と、著名な耐久レースドライバー、ロマン・デュマ氏のペアがチーム・ショパールとして、ポルシェ 356 スピードスターに乗り込んだ。

ヴァシュロンとルーブル美術館は、あらゆる芸術作品をモチーフにした時計を製作するチャンスを提供した。

時計コミュニティの一員であることの醍醐味のひとつは、“おそらく二度と見ることはないだろう”と即座に思うような時計を目にする機会があることだ。場合によってはさまざまな理由から写真を撮ることはもちろん、そのような経験を共有することすら許されないことがある。しかしヴァシュロン・コンスタンタン(そしてこの時計の所有者)のおかげで、最近ニューヨークの旗艦店に入荷したユニークピースの簡単な概要を共有してもらうことができた。それがヴァシュロン・コンスタンタン レ・キャビノティエ – ピーテル・パウル・ルーベンス『アンギアーリの戦い』へのオマージュだ。

このユニークな時計は、2020年12月にヴァシュロン・コンスタンタンがオークションに参加し、収益の100%をルーブル美術館による教育ワークショップの広大なプロジェクトを収容するスタジオスペース、ル・ストゥディオ・デュ・ルーヴルに寄付したことから始まった。ル・ストゥディオ・デュ・ルーヴルでは家族連れや学生、学校グループ、障害者や恵まれない人々など、あらゆる年齢層の来館者が美術や文化に親しむことができるよう、さまざまなプログラムが用意されている。さらにうれしいことに、これらのプログラムにはすべて美術館の入場料が含まれている。

落札者は28万ユーロ(日本円で約4375万円)を支払い、ヴァシュロン・コンスタンタンにルーヴル美術館のコレクションにあるあらゆる芸術作品をミニアチュール・エナメルまたはグリザイユ・エナメルで再現した文字盤を備えたオーダーメイドの1点ものモデルを制作してもらうチャンスを得た。しかしそれは、カタログをめくってインスピレーションを得るような単純な体験ではなかった。

代わりに入札者は時計の文字盤にするのに最適な作品を求めて、美術館の専門家による案内で個人的なプライベートツアーに参加した。予約制で一般公開されているキャビネ・デ・デッサン(版画・素描閲覧室)を訪問し、入札者はこの時計のベースとなったルーベンスの作品を見つけた。それが『アンギアーリの戦い』である。

この絵は英語で『The Struggle for the Standard of the Battle of Anghiari』と訳される。フランドル派の巨匠ルーベンスにより描かれたもので、彼が17世紀初頭にイタリア滞在中、アンギアーリの戦いを描いた素描を購入し、インクやチョーク、水彩で加筆したと言われている。

レオナルド・ダ・ヴィンチが、フィレンツェのシニョリーア広場(のちにヴェッキオ宮殿となる)の大会議室のために制作を依頼した巨大な構図が、この“戦い”の原型である。この作品はローマ教皇エウゲニウス4世とヴェネツィア共和国およびフィレンツェ共和国の軍隊がミラノ公国軍に勝利したことを祝して描かれたもので、ダ・ヴィンチの偉大な傑作のひとつと見なされていたが、1506年にレオナルドによって未完成のまま放置され、急速に劣化していった。ほかの最近の美術史家たちはこの作品は着手すらされていなかったと示唆しているが、ダ・ヴィンチのこの作品のための研究はしっかりと記録されている。

『アンギアーリの戦い』。courtesy Vacheron Constantin and the Louvre.

ルーベンスの作品の歴史について私が理解しているところでは、この作品はのちにロレンツォ・ザッキアによって彫られたものが元になっている可能性があり、それ自体はダ・ヴィンチによって描かれた原画か、未完成のオリジナルが元になっているかのどちらかである(原画が存在したとすればだが)。ダ・ヴィンチの原案を物理的に永続的に思い起こさせる作品はいくつかあるが、ルーベンスによるアイデアの“共同作品”という点では、この作品が最も有名だろう。ヴァシュロンのエナメル職人は、ルーベンスの作品の深みと力強さを見事に表現し、写真では残念ながら実物ほどには伝わらないが、素晴らしい仕事をした。

絵画の一部を切り取り、直径わずか3.3cmの文字盤にミニチュアとして表現することがどれほど難しいか、私には想像できない。レ・キャビノティエに所属する匿名のエナメル職人の言葉によれば、ディテールと奥行きの両方を達成するには微妙なバランスが必要だったという。エナメル職人はジュネーブに古くから伝わるミニアチュール・エナメルの技法が原作へのオマージュとして最もふさわしいと考え、一般的にグリザイユ・エナメルで使用されるリモージュ・ホワイトを取り入れた。彼らは細かいディテールを表現するために3、4本の硬い毛が付いた筆やサボテンの棘を使うこともあった。

私の心を本当に引きつけたのは作品の躍動感だけでなく、光がエナメルのさまざまな部分に反射し、特に馬のたてがみの暗い部分にアクセントを与えていることだった。それが立体感と動きに象徴されるリモージュ・ホワイトの力だ。またジュネーブフラックスのアンダーコート(何層にも重ねたガラス化エナメルを最終的に無色透明に保護するもの)によって、さらに輝きと深みが増したという。

最終的に職人はブラウン、グレーブラウン、セピアブラウン、クリームブラウンの約20の色調を用い、それぞれ着色するあいだに文字盤を900℃の温度で焼成した。最初の層は非常に軽く焼成する必要があり、エナメルのガラス化プロセスを開始するのに十分な時間、しかし色の濃淡を変えすぎない程度に焼かなければならなかった。

最終的に時計は40mm径、9.42mm厚の18Kピンクゴールド製ケースにオフィサータイプのケースバックを備えたものとなった。内部にはヴァシュロンが設計・製造したCal.2460SCを搭載し、時・分・秒を表示する。このキャリバーは主にメティエ・ダールの時計に搭載されている自動巻きムーブメントで、2万8800振動/時(4Hz)で作動し、パワーリザーブは約40時間である。私はこの時計を身につけることはできなかったが(もちろん完璧な状態で引き渡しを受けたいオーナーへの配慮から、時計をつけさせてもらうのは無理な話だった)、この時計のサイズと手に持った感触は間違いなく完璧に身につけられるものだ。しかし私の考えからすると、この時計は身につける時計というよりもディスプレイピースであり、芸術品である。

この時計のポイントが文字盤であることは確かだが、ヴァシュロンは期待どおり、ムーブメントの仕上げに時間と思慮を注いでいる。その最たるものがルーブル美術館の東側ファサードをエングレーヴィングした22Kピンクゴールド製のローターである。

おそらくこの時計で最もクールなことのひとつは、ユニークでありながら、ヴァシュロン・コンスタンタンと関係をもつ人(そして余裕がある人)に開かれた新しいパートナーシップと体験への扉を開いたことだろう。この時計が初めてオークションに出品されたとき、彼らはこの時計を“あなたの腕に傑作を(A masterpiece on your wrist)”と呼んだが、これは現在ルーヴル美術館とヴァシュロン・コンスタンタンが提供する新しいプログラムのタイトルとなっている。そして最近、夏のパリ観光の猛暑と気が狂いそうな混雑を乗り切った私にとって、製作される時計だけでなく、この新しいプログラムが提供する体験をこれほどうらやましいと思ったことはない。

このプログラムを通じて、顧客はルーブル美術館のガイド、ヴァシュロン・コンスタンタンの熟練時計職人や職人とともにプライベートツアーに参加し、自身が選んだシングルピースエディションの完璧なインスピレーションを探すサポートを受ける。ピーテル・パウル・ルーベンスへのオマージュと同様、購入者が選んだアートはエナメルで再現される。そして私が選ぶだろう絵画を想像すると心が躍るが(結局のところ、これはおそらくカラヴァッジョを所有することに最も近づくだろう)、値札(魔法の言葉”on request”が特徴だ)は私の手の届かないところにあることは確実であり、幸運な顧客のためにこのプログラムから生まれたほかの時計も見みられることを願っている。

セイコーから、伝統紋様である菊つなぎ紋をダイヤルで表現した数量限定モデル、そして新たなダイヤルカラーを含む新作3種が発表された。

セイコー腕時計110周年記念限定モデルして2月に発売されたSDKS013では、キングセイコー生誕の地である東京・亀戸が亀の甲羅の形に似た“亀島”と呼ばれていたことに着想を得て、亀甲文様を取り入れたダークブラウングラデーションダイヤルを採用した。

新作(以下、SDKA009)では、日本を代表する花である菊をモチーフにした江戸切子の伝統紋様、“菊つなぎ紋”デザインのダイヤルを採用。本作においては日本伝統のものづくりをヒントにした。カッティングラインが細かく交差する“菊つなぎ紋”は江戸切子のなかでも最も高度な技が要求されるが、本作ではこの紋様をホワイトの型打ちダイヤルで表現している。

また、この限定のSDKA009は1965年に誕生した2代目キングセイコー “KSK” のデザインを受け継ぎ、薄型自動巻きムーブメントのCal.6L35を搭載しているのも特徴。Cal.6L35はセイコーの現行機種において最も薄い自動巻きムーブメントで、ケース構造と風防を改良することによって“KSK” のオリジナルモデルよりもさらに0.2mmの薄型化を実現している。

数量限定モデルの証として、裏蓋には通常盤にも見られる“KING SEIKO”のロゴの下に“Limited Edition”の表記とシリアルナンバーが記されている。

限定のSDKA009ではSS製ブレスレットに加えて、ホワイトのダイヤルとも調和するライトグレーの交換用レザーストラップも付属する。

そしてもうひとつ新作として加わることになったのが、オリーブグリーンを含む新たなダイヤルカラーを採用した3種のKSK キャリバー6R55モデルだ。ダイヤルカラーは、チャコールブラック(SDKS021)、インディゴブルー(SDKS023)、そして新色のオリーブグリーン(SDKS025)の3種類。創成期のキングセイコーが発売されていた1960~70年代当時のファッションから着想を得てアースカラーを採用したという。

 ダイヤル表面には縦方向のヘアライン仕上げを施し、アースカラーと組み合わせることで、経年変化したような雰囲気を表現。また、力強いインデックスを持つダイヤルデザインに合わせて、時・分針とインデックス外周部にはエイジングカラーのルミブライトを採用し、昼夜を問わず視認性を高めている。なお、現行のキングセイコーでルミブライトが採用されるのは今回が初となる。

限定のSDKA009とは異なり、新作3種が搭載するのはCal.6R55だ。デイト表示を備え、コンパクトな自動巻き機構を持つ一方で、3日間(約72時間)のロングパワーリザーブを実現した。また、この新作3種のブレスレットではエンドピースの過度な回転を防止するダブルレバー式の簡易着脱レバーを採用。簡単に付け外しできることに加えて、高級感、着脱のしやすさ、優れたフィット感を合わせ持ったブレスレットとなっている。また既存の10種類のレザーストラップ(別売り)とも組み合わせることができるため、好みに応じて多様なシーンで着用することができる。

限定のSDKA009は10月7日(土)の発売で、世界限定600本(うち国内展開は200本)、価格は44万円。レギュラーの新作3種の発売は9月8日(金)、価格は25万3000円(ともに税込)を予定している。

ファースト・インプレッション

新作において注目すべきモデルは、きっと“菊つなぎ紋”デザインダイヤルを持つ限定のSDKA009だろう。“白樺ダイヤル”や“御神渡りダイヤル”、日本特有の季節の情景をダイヤル上で表現した“二十四節気コレクション”など、日本人らしい美意識と審美感をダイヤルで表現したモデルが人気を得るグランドセイコーを筆頭に、近年のセイコーが手がける時計のダイヤル表現にはユニークなものが多く、目を見張るものがある。“菊つなぎ紋”デザインダイヤルは、まさにそうした昨今のセイコーらしさを感じさせる1本だと思う。

だがより筆者が心引かれたのは、1960~70年代当時のファッションから着想を得たというアースカラーダイヤルを持つ3種の新作のほうだった。

いまでこそ少し湾曲した“ボンベダイヤル”や先端をダイヤル側にカーブさせた針などは高級時計のディテールとしてもてはやされるが、これは当時、ダイヤルをムーブメントの形状に合わせ、視認性を高めるためのオーソドックスな手法だった。対してかつてのキングセイコーは、ダイヤルや風防の形状を工夫することで、当時としては画期的なフラットなダイヤルとストレートな針の組み合わせを実現させた。そう、こうした合理的・工業的なスタイルのダイヤルやシャープなディテールによるモダンなデザイン表現こそ、今も昔も変わらぬキングセイコーらしい魅力だと筆者は思っている。

アースカラーを取り入れるなど今っぽいダイヤル表現がなされているものの、KSK キャリバー6R55モデルは縦方向のヘアライン仕上げを施したダイヤル、シャープで力強い針やインデックスなどを持ち、その質実剛健な雰囲気がオリジナルのキングセイコーをほうふつとさせる。また、ケースとブレスレットとの隙間を滑らかにつなぐコの字の形状のラグ(厳密にはケースとブレスレットが接する嵌合部)は、インダストリアルな印象を強調しているように思うし、付け外しが簡単にできるというブレスレットはいかにも合理的ではないか。そして、ルミブライトを採用して暗所での視認性を高めるというのは、これまでのキングセイコーでも見られなかった新しい実用的なディテールだ。

3種のダイヤルのうち、筆者の好みはオリーブグリーンのSDKS025だ。広報写真で見る限りは文字どおりのオリーブグリーン、オリーブドラブカラーのようだが、実際はどのように見えるのだろう。グリーンの色味は写真と実物でずいぶんイメージが異なる場合も多いので、早く実機で確認してみたいと思っている。

基本情報
ブランド: キングセイコー(King Seiko)
モデル名: KSK キャリバー6L35限定モデル&KSK キャリバー6R55モデル(KSK Caliber 6L35 Limited Edition & KSK Caliber 6R55 Model)
型番:SDKA009(KSK キャリバー6L35限定モデル)、SDKS021、SDKS023、SDKS025(KSK キャリバー6R55モデル)

直径: 38.6mm(KSK キャリバー6L35限定モデル)、38.3mm(KSK キャリバー6R55モデル)
厚さ: 10.7mm(KSK キャリバー6L35限定モデル)、11.7mm(KSK キャリバー6R55モデル)
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: ホワイトの菊つなぎ紋(SDKA009)、チャコールブラック(SDKS021)、インディゴブルー(SDKS023)、オリーブグリーン(SDKS025)
インデックス: アプライドバー
夜光: KSK キャリバー6L35限定モデルはなし、KSK キャリバー6R55モデルは針とインデックス外周部にルミブライト
防水性能: 日常生活用強化防水(KSK キャリバー6L35限定モデルは5気圧、KSK キャリバー6R55モデルは10気圧)
ストラップ/ブレスレット: SS製ブレスレット&ワンプッシュ両開き方式クラスプ(KSK キャリバー6L35限定モデルは換えカーフストラップつき)

ムーブメント情報
キャリバー: 6L35(KSK キャリバー6L35限定モデル)、6R55(KSK キャリバー6R55モデル)
機能:時・分表示、センターセコンド、3時位置に日付表示
パワーリザーブ: 約45時間(KSK キャリバー6L35限定モデル)、約72時間(KSK キャリバー6R55モデル)
巻き上げ方式: 自動巻き(手巻きつき)
振動数: 2万8800振動/時(KSK キャリバー6L35限定モデル)、2万1600振動/時(KSK キャリバー6R55モデル)
石数: 26(KSK キャリバー6L35限定モデル)、24(KSK キャリバー6R55モデル)
精度: 6L35は日差+15秒~ -10秒、6R55は日差+25秒~ -15秒(ともに気温5℃~35℃において腕につけた場合)

クォーツウォッチ開発をリードした諏訪精工舎の技術をさらに進化させ、

1978年(昭和53年)に発売されたセイコー クオーツ シャリオ Cal.5931が、国立科学博物館が認定する2024年度の重要科学技術史資料(通称、未来技術遺産)に登録された。

未来技術遺産とは、日本の科学技術の発展に寄与した重要な物品や技術の保存と継承を目的として2008年から始まった制度で、具体的には過去から現代にかけて開発された技術や製品、またその技術に関連する資料が将来の科学技術の研究や社会の発展にとって重要とされるものを指す。

未来技術遺産として認定されるためには、科学技術の進歩に顕著な貢献をした技術や製品であること、歴史的な意味や文化的な価値を持つものであること、そして現代および未来の技術発展にとって有用な知識や経験を提供するものであること、といった要件を満たしている必要がある。

選定に際しては、まず有識者による審査が行われ、科学技術史的な意義や保存の必要性を評価。認定されると、国立科学博物館がこれを保管し、公開展示や資料としての利用が行われることがある。未来技術遺産は、単なる“モノ”としてではなく、日本の技術的進化を象徴する遺産であり、未来の社会に役立つ資産としての意義を持つ。こうした資料を通じて、過去の技術革新がどのように現代の生活に影響を与えているかを学び、未来の技術開発に生かすことが期待されている。

これまでにもセイコーの製品はいくつか登録されており、セイコー クオーツ シャリオ Cal.5931は、以下の製品に続いて同社では7点目の登録となる。これまでの登録製品は以下のとおりだ。

・2018年度:世界初のクォーツ式腕時計「セイコー クオーツ アストロン 35SQ」
・2019年度:世界初の6桁表示デジタルウオッチ「セイコー クオーツLC V.F.A. 06LC」
・2020年度:「スパイラル水晶時計 SPX-961」、「音声報時時計ピラミッドトーク DA571」、「 超超薄型掛時計 HS301」
・2021年度:ぜんまいで駆動し、クォーツで制御する世界初の腕時計「セイコー スプリングドライブ 7R68」

未来技術遺産に選ばれた理由

セイコー クオーツ シャリオ Cal.5931が選定された理由は、ずばりアナログクォーツウォッチの小型・薄型化および電池の長寿命化を支える“適応駆動制御”と呼ばれるシステムを初めて搭載した腕時計であったからだ。

この適応駆動制御システムとは、針を動かすステップモーターの駆動パルス(信号)を複数種類持ち、モーターの回転ごとに時計の状態を判断して、最小の消費電力となるように切り替えるというもの。分かりやすく言えば、それまでアナログクォーツムーブメントにおける電力消費量の7~8割を占めていた、針を動かすためのステップモーターの電力消費量を従来の約半分に抑えることを可能にした画期的技術だった。その後、この制御システムはアナログクォーツウォッチに欠かすことのできない重要なコア技術のひとつと位置づけられ、現代においても改良を重ねながら用いられている。たとえば現行のGPSソーラーウォッチをはじめとするセイコーのアナログクォーツムーブメントにも、この適応駆動制御システムが組み込まれているほどである。

セイコー クオーツ シャリオとは?
セイコー クオーツ シャリオは、かつて存在したシャリオコレクションに属するバリエーションだ。男性向けの薄型ドレスウォッチとして誕生したコレクションで、当初は手巻きや自動巻きモデルもあり、クォーツモデルはそのひとつだった。セイコー クオーツ シャリオの名が確認できる公式な資料は、1974年の『セイコーウオッチカタログ vol.2(販売店向けの製品カタログ)』から。そして1978年に製作されたとされるトップ写真モデルのカラーバリエーション(Ref.CGX021)は、1980年のカタログでその存在を確認できる。

だが、実は1971年こそがシャリオコレクションの原点であろう。というのも、1971年の『セイコーセールス 10月号/No.160(セイコーの製品ラインナップや技術情報を消費者や販売代理店に伝えるために発行していた小冊子)』の10月の新製品情報として“セイコー ドレスウオッチ 2220”発売のニュースが報じられている。これは手巻き式の薄型ドレスウォッチだったが、これこそがのちにセイコー シャリオとして分類されるコレクションの一部になったと考えられる。1971年時点ではまだシャリオの名は見られないが、1974年の『セイコーウオッチカタログ vol.2』では、まったく同じモデルが“セイコー ドレスウオッチ シャリオ”として紹介されているのだ。

その一方、1960年代から1970年代前半にかけて、セイコーでは諏訪精工舎と第二精工舎が競うようにクォーツムーブメントを開発した。最初に販売にこぎつけたのは諏訪精工舎が開発したCal.35系(1969年)。これは世界最初のクォーツ式腕時計として販売されたセイコー クオーツ アストロン(Cal.35SQ)に搭載されたものだった。そして翌1970年には第二精工舎がCal.36系を発売する。しかしどちらも短命に終わり、製造の中心となったのは1971年登場のCal.38系(諏訪精工舎)と1972年登場のCal.39系(第二精工舎)だったが、Cal.39系は発光LEDを搭載するなど特殊であったため、コレクションの中心となったのはCal.38系であった。とはいえ、これらは基本的に精度を追求したもので厚みがあり、当時のトレンドであった薄型ドレスウォッチに向くムーブメントとは決して言えなかった。

アナログクォーツウォッチの小型・薄型化は時代が求めたものだった。セイコーのデザイン史をまとめた「Seiko Design 140」によれば、1960年代当時の日本ではスーツ姿の会社員が増えたことでスーツに合う薄型時計が売れ筋となり、ゴールドフェザーなどの薄型機械式ドレスウォッチが人気を集めたそうだ(世界的に見ると、1950年代にはすでに薄型時計開発をメーカー各社で進めており、そうしたトレンドが日本でも顕在化し始めていた)。こうした当時の様子を背景に、クォーツウォッチにおいても早くから小型・薄型化が求められた。

そんななか小型・薄型のクォーツウォッチとして市場に投入されたコレクションこそ、セイコー クオーツ シャリオだった。1974年にセイコー(当時の諏訪精工舎)は最大直径19.4mm、秒針なしの厚さで3.8mmというサイズを実現した小振りな量産クォーツムーブメントとしてCal.41を開発した。そしてセイコーはこのCal.41の派生系であるCal.4130を持ってクォーツのドレスウォッチを商品化し、分厚いクォーツではドレスウォッチは不可能という当時の常識を覆した。Cal.4130は世界最薄のクォーツムーブメント(当時)とされ、女性向けと思われる小振りなモデルに採用されたほか、男性向けのシャリオコレクションにもいち早く投入された。しかし当時の販売店向け製品カタログを見ても、クォーツの薄型ドレスウォッチのラインナップは決して多くはなかった。

第二精工舎が手がけた小型・薄型クォーツムーブメントCal.5931

前述のとおり、小型・薄型のクォーツウォッチ開発で1歩リードしていたのは諏訪精工舎だ。そんな最中に登場したセイコー クオーツ シャリオ Cal.5931(59系)は、待望のムーブメントだったに違いない。開発・製造を担ったのはクォーツウォッチ開発で先を行っていた諏訪精工舎ではなく、当時の第二精工舎だったのだ。

Cal.59系ムーブメントの登場以降、セイコーのクォーツウォッチコレクションはトレンドも受けて一気に花開くこととなる。その理由は、未来技術遺産の選定理由にあるとおり。小型・薄型化が図られただけでなく電池の長寿命化も叶えることとなり、さまざまなデザイン、サイズ、シーンにふさわしいクォーツウォッチが数多く製造されるようになり、選択肢は大幅に拡充した。

世界初のクォーツ式腕時計として登録されたセイコー クオーツ アストロン 35SQなどと比べると、その意義はやや分かりにくいかもしれない。だが、クォーツウォッチの普及に大きく貢献することとなったという意味では、Cal.59系ムーブメントは紛れもなく語り継ぐべき重要な技術遺産にふさわしいものと言えるだろう。

今回はミドルサイズのネオマティック(自動巻き)モデルを2本リリースした。

これまでで最も物議を醸したであろうノモスの時計、タンジェント 2デイト(72件ものコメントが寄せられた)が発表されてから数週間後、このグラスヒュッテのブランドは180度の方向転換をし、非常に保守的なふたつの時計、タンジェントとオリオン ネオマティック ドレをリリースした。

ノモスは予想どおりの反復的なスタイルに戻り、今回はミドルサイズのネオマティック(自動巻き)モデルを2本リリースした。今回は文字盤に、ほんのわずかに金のアクセントが加えられている。タンジェントは35mm径に厚さ6.9mmという、まさにバウハウスデザインの王道を征くドレスウォッチ然としたケースを持つ時計だ。ほかのタンジェント ネオマティックに共通するデザインとして、白く亜鉛メッキが施された文字盤、その周囲に5分ごとに刻まれたアラビア数字のミニッツトラックがあり、ノモスのロゴやスモールセコンドの目盛り、そして特徴的な時刻表示がブラックでプリントされている。ゴールドのアクセントは、時・分針、スモールセコンド、そして文字盤に印刷された“ネオマティック”という金色の文字で表現されている。

新しいタンジェント ネオマティック ドレ。

厚さ8.5mmの36.4mmケースを特徴とするオリオンには、さらにゴールドの要素が増えている。針や“ネオマティック”のゴールドに加えて、オリオン特有のダイヤモンドポリッシュ仕上げのアプライドインデックスもゴールドで仕上げられているのだ。今年の初めにノモスは、ゴールドのアクセントを加えたオリオン ネオマティック “ニュー ブラック”シリーズというきわめて印象的なモデルを生み出したが、今回はソフトホワイトのダイヤルがゴールドの輝きを少し和らげている。

新しいオリオン ネオマティック ドレ。

どちらのモデルも18mmのラグ幅、5気圧の防水性能を備えており、自社製の自動巻きムーブメントであるネオマティック Cal.DUW 3001を搭載している。このムーブメントは独自のノモススイングシステムを採用し、ブルースクリュー、グラスヒュッテ・ストライプ、そしてブランドの時計によく見られるペルラージュ装飾が施されている。なおパワーリザーブは約43時間だ。タンジェントはソリッドバック仕様のモデルで53万6800円から、裏蓋が1種類のオリオンは62万4800円(ともに税込)となっている。

我々の考え
今回のリリースはラインナップにさりげなく加わったものであり、タンジェント 2デイトのダブルデイト表示に驚いた多くの人々にとってはむしろ安心感を覚えるかもしれない。これらの時計が革新的かと言えばそうではない。しかし、タンジェント 2デイトやWatches & Wondersで披露された31色ものタンジェントのような、ここ1年のノモスの派手なリリースを経たうえで、長く支持されている定番モデルを好む層に向けた安定感のあるリリースと言えるだろう。

私は38mmのタンジェントを愛用しているが、初めて35mmのタンジェントを試したときに、これがオリジナルサイズである理由を思い出した。ラグが長くとも自分の細い手首には問題なく、タンジェントのケースは繊細でありながらシャープなケース形状に感じられる。36.4mmのオリオンも同じで、広々としたシンプルなダイヤルは小振りなケースシェイプでこそ映える。このサイズはまさに絶妙と言えるだろう。

どちらかひとつを選べと言われたら、間違いなくタンジェントを選ぶ。オリオンはゴールドとの組み合わせが素晴らしいデザインだと感じるが、タンジェントのほうがブラックの数字といったプリントの要素が多く、その分ゴールドのアクセントがダイヤル上でより際立っていると思う。あなたもそう思うだろうか?

以前から言っていることだが、ノモスはこの価格帯における薄型自社製ムーブメントのゴールドスタンダード(言葉遊びではない)を維持し続けている。むしろ薄型自社製を、略して“thin-house”とでも呼んでみてはどうだろうか。7mm未満の薄型自動巻きドレスウォッチをつくれるのであれば、ほかの競合ブランドももっと挑戦すべきだろう。

基本情報
ブランド: ノモス グラスヒュッテ(NOMOS Glashütte)
モデル名: タンジェント ネオマティック ドレ(Tangente neomatik doré)、オリオン ネオマティック ドレ(Orion neomatik doré)
型番: 192(タンジェント)、397(オリオン)

直径: 35mm(タンジェント)、36.4mm(オリオン)
厚さ: 6.9mm(タンジェント)、8.5mm(オリオン)
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: ホワイトシルバーメッキ
インデックス: プリント(タンジェント)、金メッキ(オリオン)
夜光: なし
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: ホーウィン社製ブラウンシェルコードバンストラップ

orion wristshot
ムーブメント情報
キャリバー: DUW 3001
機能: 時・分表示、スモールセコンド
直径: 28.8mm
厚さ: 3.2mm
パワーリザーブ: 約43時間
巻き上げ方式: 自動巻き
石数: 37

2025年のもっとも入手困難な時計のひとつかもしれない。

ここ1、2年のあいだに “ザ・ウォッチインターネット ”に入り浸っている人なら、日本の時計ブランド、大塚ローテックの時計を目にしたことがあるだろう。Redditなどで6号や7.5号が5000〜7000ドル(日本円で約75万~105万円)、あるいは1万ドル(日本円で約150万円)で取引されているのを見たことがあるかもしれない。私の同僚でHODINKEE Japanの和田将治氏のような時計ジャーナリストが7.5号を着用していたり、WatchMissGMT(現在はWatchMissLotecのほうがふさわしい?)のようなインフルエンサーが6号を着用していたりするのを見たことがあるかもしれない。さて、2週間前にその大塚ローテック 6号がGPHGでチャレンジ賞を受賞した。というわけで、もしここまでの話題になじみがない方は、いまこそ情報に追いつくチャンスだ。

Ōtsuka Lōtec No.6
 日本での休暇中、友人でありHODINKEE Japanの同僚でもある和田将治氏と東京近郊まで足を運んだ。せっかく地球の裏側まで来たのに、普段会う機会のないブランドやその関係者たちを訪ねないのはもったいない気がしたからだ。先日Four+Oneで紹介した友人のジョン・永山氏もそのひとりだが、この日は独立時計師であり実業家でもある浅岡 肇氏の工房の向かいにある会議室を訪れた。

 浅岡氏の手ごろな価格のブランド“クロノトウキョウ”や新ブランド“タカノ”の時計は見ることができたが、彼の名を冠した時計を見るチャンスはなかった。その代わりにクルマおよび家電製品のデザインに携わってきた工業デザイナーで、時計への情熱をアパートからガレージ、果ては今年のGPHG チャレンジ賞で3000スイスフラン以下のベストウォッチ賞受賞へと昇華させた工業デザイナー、片山次朗氏に会う機会を得た。

Ōtsuka Lōtec No.6
Ōtsuka Lōtec No.6
 スカイラインGTRであれ数え切れないほどのクールなグランドセイコーであれ、日本における多くの素晴らしいモノと同様、大塚ローテックはJDM(日本国内市場)における時代の寵児である。いまのところ、このブランドの時計が入手できるのは日本国内だけで、主に抽選方式で販売されている。さらに配送は日本国内の住所に限られ、決済も日本の金融機関が発行したクレジットカードのみに限られる。このような制約があるため、二次市場での価格が高騰している。しかし片山氏と現在ブランドをサポートしている浅岡氏は、この状況を打開したいと考えているようだ。

Ōtsuka Lōtec No.6
 魅力的な価格帯と独創的な技術(この点についてはのちほど説明する)だけでなく、大塚ローテックの時計デザインは唯一無二である。いろいろな意味で実にツイていたのは、この記事のために6号機の最新型を手に取ることができたことに加え、まさにそのモデルがGPHGで賞を受賞することになったことだ。6号は、ヴァシュロンのメルカトルに搭載されているレトログラード表示(ただし上下逆さま)をほうふつとさせる、比較的珍しいが直感的で読みやすいレトログラード表示を備えており、個性あふれるモデルである。私たちの訪問中、同僚のマサはヴィアネイ・ハルター(Vianney Halter ) アンティコア(Antiqua)によく似た7.5号(下の写真)を着用していた。そして、このモデルが片山氏と最初に話すきっかけとなった。

No. 7.5
シンガポールで見た大塚ローテック 7.5号。

 ここで悲しいこと、そして悔しいことを認めなければならない。こんなことは初めてのことなのだが、iPhoneのボイスメモの録音を失敗してしまったのだ。というよりむしろ、録音したデータが洗いざらい壊れてしまったようだ。これからはバックアップとして予備のボイスレコーダー機を携行するつもりだが、私たちがともに過ごした1時間の会話から直接の引用は紹介できない。その代わり、片山氏の経歴をざっと紹介しよう。

 片山次朗氏は伝統的な時計師ではなく、マックス・ブッサー(Max Büsser)氏やファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ(Fabrizio Buonamassa Stigliani)氏のような、デザインへの純粋な情熱によって時計の世界に辿り着いた偉大なデザイナーの流れを汲む。片山氏は長年、工業デザイナーとしてクルマや家電製品のデザインに携わってきた。自動車業界に身を置いていたが、2008年に自宅のアパートに収まるほど小さな(日本では並大抵のことではない)卓上旋盤を購入した。その限られた面積ではつくれるものも限られていたため、彼は時計に目を向け、この道を歩むことになった。

 片山氏によると、彼はしばらくのあいだ時計の世界とは無縁で、工業デザインのほかの分野からインスパイアされたケースデザインやモジュールに取り組んでいたという。そう、くだんのハルターの作品にも目を向けるようになったが、あの時計が革命的であったのと同様に、アンティコアのデザイン自体もどこからともなく生まれたものではないことを心に留めておく必要がある。私の目には、7.5号は時・分・秒を分離した3眼のヴィンテージ8ミリカメラをほうふつとさせる。一方、6号からはクルマのダッシュボードのメーターを瞬時に思い起こさせる。どちらも信じられないほど工業的だが、よく練られ、仕上げも見事だ。

Ōtsuka Lōtec No.6
 片山氏のデザインにはノスタルジーとセンチメンタルを覚えるが、同時に一定の実用性も確保されている。この時計は、余分なものをほとんどすべて取り除き(6号の日付は余分なものと言えるかもしれないが、私は煩わしいとは思わない)、繊細なサテン仕上げとダイヤル上の濃い型押しの表記に絞り込んでいる。必要な情報は(日本語ではあるが)すべて書かれている。ダイヤル上部には“6号 機械式”と“豊島 東京”、左側には“大塚ローテック製”、右側には“日常生活防水”と記されており、これは30mの防水性能を意味している。

Ōtsuka Lōtec No.6
 この時計はミヨタ製自動巻きムーブメント、Cal.9015を搭載しており、スケルトン仕様のケースバックをとおして眺めることができる。特筆すべき部分は少ないが、緩やかに傾斜したケースサイドが丸みを帯びたエッジへと細くなり、さらに傾斜した裏蓋のバンドにつながっているのが分かる。ラグはケースから突き出しており、非常に工業的な雰囲気で、何度でも言うがとてもチャーミングだ。ムーブメントは約40時間のパワーリザーブを備え、片山氏が設計したモジュールによって作動するレトログラード式時・分針を搭載している。このモジュールはダイヤルの下に隠れているが、公式ウェブサイトでその動作を見ることができる。また、中央下部にはスモールセコンド用のディスクと日付窓も確認できる。

Ōtsuka Lōtec No.6
 最初は6号に捉えどころのなさを感じていた。正直なところ、レトログラード針が私には少し繊細に見えたからだ(同じことが言えるかもしれない)。また無反射コーティングが施された完全にフラットなサファイア風防が、あらゆる角度でまるで存在しないかのごとく見えるのも驚きだった。写真でこの時計を見たときの私の反応のひとつは、風防がないのではという不信感だったと思う。“埃が混入したらどうするの? 雨が降ったらどうする? 針を引っ掛けて折ってしまいそうだ”と思った。だがそんな心配は杞憂に終わった。

Ōtsuka Lōtec No.6
 針の表示部分が盛り上がった様子はロイヤル オーク、ノーチラス、ウブロのどのデザインよりも舷窓を思わせる質感を持ち、現代においてスチームパンクの雰囲気を際立たせている。ハルターが数十年前に打ち出した聖火を受け継ぐブランドは多くないが、片山氏はその役割を見事に果たしている。

Ōtsuka Lōtec No.6
 おそらく時計全体で最も粗削りと思えるリューズに至るまで、彼はそれを完璧にやってのけ、しかもちゃんと機能している。リューズは指にやさしくなく、真に工業的な機械に見られるような質感のグリップを備えている。それでもサテン仕上げとポリッシュ仕上げのケース面とうまく調和し、ケースから突き出た様子はある種の気まぐれさを感じさせる。もしリューズが3時位置にあったならすべてが台無しになっただろうし、時計というよりもまるで蒸気船のボイラー室から引き出された機械を見ているような非日常感も台無しになっていただろう。

Ōtsuka Lōtec No.6
 6号(および7.5号も同様)は最近、素材が改良された。風防はミネラルガラスからサファイアクリスタルに変更され、より高品質なステンレススティールを使用する仕様となった。また初期の6号のメテオライトダイヤルは、今回のこのサテン仕上げのスティールダイヤルへと切り替わっている(全体のまとまりはよくなったが、ダウングレードという見方もある)。2023年末の時点では、片山氏は従業員3人で月産15本程度を生産していたが、新たに浅岡 肇氏が加わったことで、生産量は増加し始めるはずだ。これらの時計を初期に購入した顧客のなかには、信頼性やメンテナンス面に課題があったという事例を耳にしたことがあるが、ブランドが設備と生産能力を拡大し始めたことで、これらの諸問題も解消されつつあるようだ。

Ōtsuka Lōtec No.6
 316Lスティール製ケースのサイズは42.6mm×11.8mmで、数値上は少し大きく感じられる。しかしムーブメントサイズの制約という実用的な問題を超えて、このようなスチームパンク系のデザインには適しているといえよう。レトログラード表示用の隆起した部分が直径を狭めているため、横から見るとそれほど厚みは感じない。このケースデザインは、手首につけたときにより低い位置にあるように見せる効果を持つ。ブランドロゴが刻印されたピンバックルで固定されたカーフレザーストラップが付属するが、クッション部分が平行に2分割されているため、通常のカーフレザーよりもスポーティな印象を与えている。

Ōtsuka Lōtec No.6
 日本から帰国して以来、少なくとも5人の友人から大塚ローテックの“ツテ”を頼まれた。GPHG受賞以降は1週間に3人くらいが声をかけてくれた。ベン(・クライマー)はノーチラス熱狂時代、Ref.5711を希望小売価格で手に入れようとする人がどこからともなく現れたと話していたが、どうやら6号が私にとってのRef.5711のようだ。実際、そうであるに越したことはない。人々が再び既成概念にとらわれない考えを持つようになったことを物語っている。残念なことに、いろいろな制約があって私は手伝うことができない。できることなら自分用にも欲しいくらいだ。GPHG受賞はさておき、この新世代の手ごろなインディーズ(ファーラン・マリに当てはめるのをやめたのと同様、片山氏のような人にマイクロブランドという言葉は使いたくない)は、時計コミュニティに新たな風を呼び込んでいると思う。

ジャガー・ルクルトは好評を博しているトリビュートラインをさらに発展させたレベルソ・トリビュート・ジオグラフィークを新たに発表した。

本作は旅をテーマにした時計でありながら、インスピレーションの元となった1990年代のレベルソ・ジオグラフィークとは大きく異なるアプローチがとられている。

この新作、レベルソ・トリビュート・ジオグラフィークは、現行トリビュートシリーズのデザイン言語に沿って引き算された見事な美学を備えている。ケースのサイズは縦(ラグ・トゥ・ラグ)が49.4mmで横が29.9mm、厚さは11.14mm。これは現行のレベルソ・トリビュート・クロノグラフと同じ寸法であり、縦方向に特に大きいレベルソであることを意味している。

レベルソのフロントダイヤル側では、ポリッシュ仕上げかつファセット加工されたアプライドインデックスがサンレイ仕上げのダイヤルを縁取り、6時にはスモールセコンドが配される。ステンレススティールケースにはブルー、ピンクゴールドの限定モデルにはチョコレートカラーのダイヤルが採用されている。そして今回のジオグラフィークで新たに導入されたのが、文字盤上のJLCロゴ上に金属製の窓で囲われた大型の2桁デイト表示である。このデイト機構にはブランドが2021年に取得した特許技術が用いられており、一般的な大型日付表示とは異なり、数字ディスクが上下ではなく横並びに配置されている。右側のディスクにはフックが備えられており、左側の数字が切り替わる際に連動して右側のディスクも引き寄せられる構造となっている。たとえば、19日から20日に切り替わる際にこの仕組みが機能するというわけだ。

本作の最大の見どころは、なんといってもケースバックにある。ミドルケースを反転構造で反転させると、従来のワールドタイマーとはひと味違った趣向が現れる。ケースバック中央にはレーザー彫刻による世界地図が描かれ、大陸と経緯線がレリーフ状に刻まれ、海洋部分のくぼみには手作業でラッカーが塗り込まれている。さらにディスク全体には、最終的にポリッシュ仕上げが施される。地図を囲むように配置されたサファイアガラス窓の下には、24時間表記の回転リングが配され、昼夜の色分けがなされている。ケース上部のラグのあいだに隠されたプッシャーを使って調整する際には、この回転リングが1時間単位でジャンプする仕組みだ。ビッグデイトとトラベルタイム機構は、新開発の自社製キャリバー834によって駆動される。このムーブメントは時刻表示にモジュールを追加したものではなく、これらの複雑機構のためにいちから設計されたものである。

新作レベルソ・トリビュート・ジオグラフィークには、レベルソのストラップサプライヤーとして長年提携してきたカーサ・ファリアーノ製の付け替え用ストラップが2本付属する。ステンレススティールモデルにはブルーのキャンバスストラップとカーフスキンストラップが付属し、価格は330万円(税込)。一方、18Kピンクゴールド製の限定150本モデルには、タンカラーのカーフレザーストラップとブラックアリゲーターストラップが組み合わされており、価格は545万6000円(税込)となっている。

我々の考え
ジャガー・ルクルトのトリビュートラインには、これまでもずっと心くすぐられてきた。シャープなファセットインデックスや美しいダイヤルカラーなど、魅力的なディテールが随所に光っている。そして今回の新作、レベルソ・トリビュート・ジオグラフィークもまた、トリビュート・クロノグラフと同様に心躍る1本に仕上がっている。どちらのモデルも伝統的な“デュオフェイス”の枠にとらわれず、ケースバックに独自のひねりを加えている点が実に興味深い。

とはいえ、もしあなたが私のように手首の細い人でなければ、このレベルソの大きめのケースサイズも難なくつけこなせるだろう。そういう前提で見れば、この時計のデザインや仕上がりは非常に完成度が高い。ただルックスに関しては、かつてのモデルとの共通点があまり感じられないのも事実だ。正直なところあまりにも洗練されすぎていて、かつてのモデルと同じ流れを汲んでいるとは思えないほどだ。もちろんどちらも“ワールドタイマー”という点では共通しているが、以前のモデルが持っていたちょっと風変わりでユニークな魅力が少し懐かしくなってしまう。ただし過去の文脈を少し離れて見てみれば、このトリビュート・ジオグラフィークはそれ自体でしっかりと個性を放つデザインに仕上がっている。トリビュートラインにこうした複雑機構が加わっていくのを見るのは実に楽しいし、願わくば今後こうしたモデルがもう少しコンパクトなケースサイズでも展開されることを期待したい。

基本情報
ブランド: ジャガー・ルクルト(Jaeger-LeCoultre)
モデル名: レベルソ・トリビュート・ジオグラフィーク(Reverso Tribute Geographic)
型番: Q714845J(ステンレススティール)/Q714256J(ピンクゴールド)

直径: 29.9mm
厚さ: 11.14mm
全長: 49.4mm
ケース素材: SS(Q714845J)/PG(Q714256J)
文字盤色: ブルー(Q714845J)/ブラウン(Q714256J)
インデックス: アプライド
夜光: なし
防水性能: 3気圧
ストラップ/ブレスレット: カーサ・ファリアーノ製

Geographic Pink Gold Caseback
ムーブメント情報
キャリバー: 834
機能: 時・分表示、スモールセコンド、ビッグデイト、ワールドタイム
パワーリザーブ: 42時間
巻き上げ方式: 手巻き

価格 & 発売時期
価格: SS 330万円/PG 545万6000円(ともに税込)
発売時期: 発売中
限定: PGモデルは世界限定150本

ラブクロム(LOVECHROME)から、新作ヘアコーム「ラブクロム ウエービーツキ( WAVY TSUKI)」が登場。

ラブクロム、絡まりやすいボリュームヘア用コーム「ウエービーツキ」
ラブクロム K24GPウエービーツキ ゴールド 13,200円 ※9月5日(金)~コスメキッチン(Cosme Kitchen)・ビープル(Biople)・ビオップ(Biop)にて先行発売後、9月12日(金)~発売。
ラブクロム K24GPウエービーツキ ゴールド 13,200円
※9月5日(金)~コスメキッチン(Cosme Kitchen)・ビープル(Biople)・ビオップ(Biop)にて先行発売後、9月12日(金)~発売。
「ウエービーツキ」は、ラブクロムを代表するヘアコーム「ツキ」をボリューム髪向けにアップデートした新作モデル。コームの刃と刃の間に適度なスペースを設けることで、絡まりやすいボリュームヘアをはじめ、幅広い髪質のヘアスタイルを整えてくれる。

毛流れ&束感を活かしたコーミング
ラブクロム PG ウエービーツキ プレミアムブラック 6,820円
ラブクロム PG ウエービーツキ プレミアムブラック 6,820円
毛流れや束感などを意識したコーミングや、ウェーブがかった髪のアレンジなど、細かなヘアスタイリングにもぴったりだ。また、バスタイム中に使用できる「インバス(INBATH)」シリーズでは、絡まりがちな濡れた髪もやさしく梳かし、髪への負担を抑えたヘアケアを叶える。

ラブクロム K24GP ウエービーツキ ローズゴールド 34,650円
ラブクロム K24GP ウエービーツキ ローズゴールド 34,650円
ラインナップは、K24GPゴールドから、PGプレミアムブラックや最上級のK24GPローズゴールド、インバス用のプレミアムブラックまで、全4種を展開する。

【詳細】
「ラブクロム ウエービーツキ」
発売日:2025年9月5日(金)
取扱店舗:ラブクロム直営店舗および公式オンラインストア、一部取り扱い店舗
価格:
・ラブクロム K24GPウエービーツキ ゴールド 13,200円 ※9月5日(金)~コスメキッチン(Cosme Kitchen)・ビープル(Biople)・ビオップ(Biop)にて先行発売後、9月12日(金)~発売。
・ラブクロム K24GP ウエービーツキ ローズゴールド 34,650円
・ラブクロム PG ウエービーツキ プレミアムブラック 6,820円
・ラブクロム INBATH ウエービーツキ プレミアムブラック 6,930円

【問い合わせ先】
コスメキッチン
TEL:03-5774-5565

エトロ(ETRO)は、2026年春夏メンズコレクションをイタリア・ミラノにて発表した。

幻想的な夏の装い
エトロ 2026年春夏メンズコレクション、自由に放浪する夢の旅人|写真2
2026年春夏シーズンは、何かに縛られず自由に放浪する“夢の旅人”を思わせる、幻想的な夏の装いを提案。心地よいシルエットと詩的な色彩によって、開放感あふれるイメージを描き出す。

涼やかなペイズリー
エトロ 2026年春夏メンズコレクション、自由に放浪する夢の旅人|写真1
象徴的なペイズリーは薄く軽やかなブルゾンやシャツ、ショートパンツを華やかに彩るほか、繊細なジャカードのセットアップや小粒ペイズリーの総柄シャツなど、多彩なバリエーションで登場。ニットやデニムパンツには溶け込むような淡い色彩でペイズリーが落とし込まれている。また、爽やかなリネンのオープンカラーシャツの襟には、装飾的なペイズリー刺繍を施し、アクセントを効かせた。

エトロ 2026年春夏メンズコレクション、自由に放浪する夢の旅人|写真25
中でも目を引くのは、グリーンやブルーなどの涼やかな色彩に彩られたピース。みずみずしい草木を彷彿させるグリーンのブルゾンやシャツ、ピンクをアクセントに効かせたブルーのガウンは、光沢を備えた素材の質感も相まって、夢想的な輝きを放つ。

軽くしなやかな佇まい
エトロ 2026年春夏メンズコレクション、自由に放浪する夢の旅人|写真6
流れるようなしなやかさをもって、そっと身体にフィットするような佇まいも印象的だ。さらりとしたシルクのシャツはゆとりのあるトラウザーズにタックインして、端正ながらも軽快な装いに。刺繍を施したブルーのニットやニットポロシャツは緩やかに身体に寄り添い、アクティブなブルゾンは柔らかく空気を含むようなシルエットに仕上げている。

アクティブさをもたらすスカーフ
エトロ 2026年春夏メンズコレクション、自由に放浪する夢の旅人|写真8
また、スカーフもスタイリングに軽やかさをもたらしている。ボタンを開けたシャツの襟からちょうど見えるようにきゅっと巻いたバンダナや、分量を持たせてふわりと巻いたスカーフがアクティブなムードを漂わせる。かっちりとしたジャケットには、あえてラフな巻き方でスカーフを合わせて抜け感をプラス。ベルトとして、ウエストにスカーフを巻いたルックからも、気ままな雰囲気を感じられる。