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ダニエル・クレイグスーパーコピー、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞授賞式にムーンスウォッチをつけて登場!

ムーンスウォッチ・ネバー・ダイ。元007のダニエル・クレイグは、日曜日の夜、ナショナル・ボード・オブ・レビュー2023賞のガラにミッション トゥ ネプチューンを着用して出席した。

ニューヨークのステージで、深い青……、いや紫がかったカーテンの前に立ったクレイグは、『ナイブズ・アウト: グラスオニオン』(原題:A Knives Out Mystery)で演じたジャネル・モネーに助演女優賞を贈呈した。クレイグはこの映画で、今や知らぬ者はいない名探偵ブノワ・ブランを演じている。それゆえに、このプレゼンテーションにはうってつけであった。

画像提供:ゲッティ

クレイグが映画のなかで特別なオメガのシーマスターを着用していることは、2022年末に『グラスオニオン』に関する記事で紹介した。ジェームズ・ボンド役の彼とオメガとのつながりはよく知られており、深夜のトークショーなどでは実際にスピードマスターを装着している姿をよく見かける。しかし、賞の晩餐会にスーツ姿で颯爽と現れたクレイグがムーンスウォッチをつけているのを目撃したのは、「なんてこった!」と言いたくなるような発見のひとつだった。

先日の夜、HODINKEEのSlackに、ヴィンテージの大家であるトニー・トレイナがガラで撮ったクレイグの写真を投稿してくれた。ムーンスウォッチを最も多く扱っていたエディターとして、この写真を共有しなければならないと思ったのだ。トニー、知らせてくれてありがとう。

ご存じない方のために説明すると、ムーンスウォッチとは、スウォッチとオメガの驚くべきコラボレーションによって生まれたモデルだ。11色のカラーバリエーションと3万3550円(税込)という財布に優しい価格を伴い、バイオセラミックによりスウォッチ化を図った象徴的なスピードマスターとなった。本モデルはオンラインでは購入不可能な時計として、社会現象にもなっている。私たちはこのムーンスウォッチを2022年のウォッチ・オブ・ザ・イヤーに選んだ。もっと詳しく読みたい方は、こちらか、こちらか、こちらへどうぞ。

クレイグがミッション トゥ ネプチューンを携えてニューヨークを訪れた際、その真っ青なケースとベルクロストラップはムーンスウォッチが不滅であることを立証するものだった。『ナイブズ・アウト』には続編があるが、ムーンスウォッチもそうなるのだろうか?

H.モーザーの最新作、エンデバー・パーペチュアルカレンダー タンタル ブルーエナメルだ。

H.モーザーは、人々の注目を引くことを問題としたことは決してない(ときに度が過ぎることはある)。このブランドは過去に悪ふざけのきっかけを作ったことはあるが、優れた時計づくりのために、口先だけでなく行動を起こすことができる存在であることに疑う余地はない。

タンタルを使った時計が発売されるというのは、マニアのテンションをあげるのに十分だ。この素材はゴージャスでありながら極めて硬く、重く、濃く、さらに光沢を放ち、延性を持つ。私は市場で最も優れたホワイトメタル素材であるとも思っている。しかしその一方で、機械に負担をかけてケースメーカーの怒りを買うという、悪夢のような存在であることも多くの愛好家が知っていることだろう。タンタルの時計は、かつてのような大きな功績を残すことはないかもしれないが、“我々はこんなことができるのだということを見て欲しい”と、ブランドが胸を張っていえるようなモデルであることは確かだ。

フュメのグラン・フー エナメル文字盤も注目を集めるだろう。グラン・フー エナメルは、ガラスと金属を融合させたエナメル粉末を一層ずつふるい落とし、何度も焼成することで、まるで生きているかのような泡に似た質感を生み出す非常に繊細な技法のひとつで、一部のメーカー(anOrdainのような意外とリーズナブルなものも含めて)を除いてはほとんど見ることができない。

このふたつの要素を、H.モーザーの新作エンデバー(Ref.1800-2000)のような、美しくて極めてシンプルな42mmサイズの永久カレンダーに搭載すれば、それは大正解なのだ。

ベン・クライマーは2015年当時、A Week On The Wrist記事のなかで、モーザーのエンデバーは“私が考えるなかで最もエレガントな永久カレンダーだ”と言っている。あえていうならそれは今も変わらない。シンプルなデザインであるため、複雑な時計ではなく、普通の日付つき時計と見間違うほど。ときには“私は複雑だ!”と、声高に主張するカレンダーウォッチも欲しいのだが、それほど力説する必要のない時計は、なんだか贅沢な感じがしてくる。シンプルなディスプレイが、フュメのグラン・フー エナメル文字盤の“アビスブルー”のような素晴らしいデザインを表現するパレットとして機能するのであればなおさらだ。だが、この話はまた今度にしよう。

H.モーザー エンデバー・パーペチュアルカレンダー チュートリアルの写真に戻らなければならない。これは永久カレンダーを簡略化し、その簡略化された表示の読み方を文字盤上でおもしろおかしく教えてくれる時計である。メイラン夫妻のユーモアのセンスを知っている私は、この“チュートリアル”が発表された際、適度な皮肉を込めて鑑賞したが、手ほどきなしではデザインを理解できない人がいたら、どんなに侮辱されるだろうかと考えたものである。まあ、実は私も忘れていて助けを必要としたのだが…。1カ月はどこからがスタートなのか? 月表示の針は、文字盤の周りをジャンプしたり、少しずつ動いたりするのだろうか? 私は侮辱されたというより、恥ずかしい思いをした。

The H. Moser Endeavor Perpetual Calendar Tutorial
H.モーザー エンデバー・パーペチュアルカレンダー チュートリアル。courtesy H. Moser & Cie.

おさらいになるが考えすぎは禁物だ。日付は午前0時にジャンプし、必要に応じて月表示の針もジャンプする。つまり、小さな月表示のインジケーターは常に、1年から12年、または1月から12月までの月に関連付けられたダイヤルの時間を指していることになる。また文字盤に対して針がとても短いため、“今が1月か2月か”わからくなってしまうかもしれないが、いずれは慣れることだろう。

The dial of the new Moser Endeavor Perpetual Calendar with fumé grand feu enamel dial
日付窓、月表示の針、パワーリザーブインジケーター、6時位置にはスモールセコンドを搭載。

The movement of the new Moser Endeavor Perpetual Calendar
このエレガントなデザインに用いられたのは、34mm径のCal.HMC800で、8年前にベンがレビューした時計に搭載していた、オリジナルのHMC341から派生したムーブメントである。32石の新ムーブメントは、H.モーザーがそのあいだに繰り返し行ってきた改良を施して信頼性とパワーリザーブを向上させ、さらに組み立て時間を3分の1に短縮したものだ。このように、組み立てとサービスのダウンタイムの短縮に力を入れることは、以前から行ってきたモーザーの基本的な姿勢である。これはブランドの名刺代わりにもなっている、交換可能な脱進機モジュールの実現にも表れていることだ。また、2015年にベンが指摘した仕上げの“ショートカット”(内角というワードは、当時は今よりも流行していなかった)のなかには、ブリッジの特定部分の面取りのようなものも残っているが、何となくこの時計は少し丁寧さを感じることができ、仕上げに輝きが増しているような気がする。

The escapement of the The new Moser Endeavor Perpetual Calendar with fumé grand feu enamel dial
簡単に交換可能な、HMC800の脱進機。

多くの手巻き式永久カレンダーとは異なり、エンデバー・パーペチュアルカレンダー タンタル ブルーエナメルには、多くのおまけが付属している。簡略化された表示とは裏腹に、中身には完全に統合された(モジュール式ではない)ムーブメントを搭載しているのだ。

ヴィンテージの手巻き式永久カレンダーを手に入れる場合、それがうるう年表示がないモデルであれば、巻き上げを忘れるととんでもないことになる。しかしエンデバーを裏返すと、すぐに今年が何年目なのかを確認できるホイールが付いている。私の大好きなインフォマーシャルアイコン(CM)の言葉を借りれば、“set it and forget it!(一度設定したら後は放っておけばいい!)”。また、ツインバレルを備えており、約7日間というロングパワーリザーブを実現しているため、少なくとも、忘れていても巻き忘れることはないだろう。

しかしこのムーブメントは、誤作動しないようにつくっているという、最大のおまけを搭載していることを“チュートリアル”ウォッチでハッキリと示している。時計メーカーは、時計の設定や使用方法に関して、ユーザーエクスペリエンス(おそらくクレーム要求を避けるため)に注意を払っているようである。さらに一般的に、午後9時から午前3時まで日付や月の設定ができない、日付変更禁止時間帯に操作をするとムーブメントが壊れてしまい、多額のサービス料が発生するということもなく、チュートリアルは時計をセットしていい時間とそうではない時間を、1時間も必要としない。もう一度言おう。一度設定したら後は放っておけばいい!

真意を理解すると、タンタルはH.モーザーにとって今年の顔ともいえる金属なのかもしれない。H.モーザーは、タンタルに翡翠の文字盤を組み合わせた10本限定のエンデバー・パーペチュアルカレンダーも発売している。フュメのグラン・フー エナメル文字盤は、このケース素材との相性が抜群といえるのではないだろうか。ダークでムーディーな雰囲気のケースは、光の加減で深いブルーと薄いブルーの両方の色調からセンターのシーフォームグリーンまで変化する、この文字盤の背景としてピッタリだと思うのだ。

リーフ針も、センターポストから先端にかけて2分割され、文字盤のグラデーションに対して常に鮮やかな印象で、光と影をうまく受け止めている。そして最後のディテールは、翡翠文字盤に足りないと思っていた要素をフォローするように配された、大きな日付窓を囲ったメタルの囲いだ。

エンデバー・パーペチュアルカレンダーの装着感が悪いと、リリースのすべてが無意味になってしまう。ただ嫌いな人には申し訳ないが、この時計の装着感は最高だった。6時と12時が緩やかなカーブを描くシースルーバックを備え、またラグは手首にフィットするよう、スカラップ型のミドルケースに対してやや高めにセットしていた。マットなクードゥーレザーストラップはダークなタンタルケースと相性がよく、この金属製の時計に求められる迫力を補完している。さらに“H. Moser & Cie.”と刻印されたSS製のクラスプは、時計を身につけているあいだ、唯一メーカー名を見ることができるディテールとなっている。直径42mm、厚さ13.1mmというサイズ感は従来のドレスウォッチとは異なるが、モーザーは特に伝統的なことを意識しているものではない。

もしかしたら文字盤よりも目を引くのは、その価格かもしれない。価格は1182万5000円(税込)で、グラン・フー エナメルダイヤルのないホワイトゴールドと、ファンキーブルーフュメのバリエーションより、335万5000円もの差額がついている。anOrdainのようなブランドが、グラン・フー エナメルを3000スイスフラン(日本円で約43万9000円)以下で提供しているのだから、かなり厳しいものがある。しかし、タンタル製ケースと搭載している永久カレンダーキャリバーとのあいだでは統一性がなく、比較できないものである。さらにこのリリースをきっかけに、H.モーザーに興味を持った時計ファンがひとりでも、このブランドの深みにハマっていくことは間違いないだろう。

新作クラシック クロノグラフの魅力を探る。

ショパールによるミッレ ミリアのワールドスポンサー&オフィシャルタイムキーパーは連続36回に及び、パートナーシップはこれまでのレース史上でも最も長い。そしてその歴史は紛れもなく、同じ名を持つウォッチコレクションの歩みでもあるのだ。

記念すべきミッレ ミリアコレクションの第1作が誕生したのは1988年。出走したすべてのドライバーとコ・ドライバーの勇気を讃え、勝利のメダル代わりに贈呈された。積算針を中央に備えたクォーツ式のシンプルなモノプッシュクロノグラフにシリアルナンバーが刻まれ、以降、毎年新作が発表された。なかには機械式ストップウォッチやカフリンクス、キーリングといった変わりダネも登場し、このことからも当初はあくまでも記念品であり、時計での市販は想定していなかったのだろう。

だがレースへの注目とともに一般からの要望が高まり、Competitorの文字などが刻印された参加チームに贈られるモデルとは異なる仕様で1997年に市販化。コレクターズアイテムとしても高く支持され、現在に至る。レースの開催に合わせて発表された最新作ミッレ ミリア クラシック クロノグラフも歴代モデル同様、新たな魅力に磨きをかけ、注目を集めている。

革新素材を融合したクラシックへの原点回帰

コレクションでも特に伝統的なミッレ ミリアの雰囲気を表現したクラシック クロノグラフは、1998年の第1世代から2009年の第2世代、2017年の第3世代へと続く歴代のスタイルを踏襲する。進化の系譜は一見わかりづらいが、新作においてにはデザインコードを守りつつ、さらなる洗練とフルモデルチェンジといえるほど魅力を一新した。

まず注目すべきは、80%リサイクル素材を用いたルーセントスティール™を採用した点。ショパールはサステナブル・ラグジュアリーに向けた役割として、年内にこれをすべてのSSモデルに採用し、さらに現在80%以上のリサイクル率も2025年までに90%以上に引き上げる目標を掲げている。これはその取り組みの一環だ。

この未来志向の革新素材を採用したケースは、前作の42mm径から40.5mm径に抑えた。第1世代の39.2mm径以降、拡張を続けるなかで初のダウンサイジングであり、これも原点回帰といえるだろう。さらにグラスボックスと呼ばれるドーム型のクリスタル風防を採用し、クラシックテイストを強調するとともにフェイス全面を被うことでベゼルの幅を抑え、文字盤をより大きく印象づけている。ブレーキペダルを想起させるプッシュボタンのローレット加工や刻みを増すことで操作性を向上したリューズにも機能美が漂う。

新たな試みとして、レースに参戦したクルマのボディカラーをイメージしたカラフルな4色で文字盤を彩り、それぞれに合ったエンジンターンやサーキュラーサテン仕上げを施し、インダイヤルのスネイル仕上げとのコントラストで多彩な表情を演出する。また、カラー文字盤とバイカラー仕様のパンチングレザーストラップに対し、ブラック文字盤にはコレクションの象徴である1960年代のダンロップレーシングタイヤのトレッドパターンを模したラバーストラップを合わせ、これもより柔らかな質感に向上している。

ケースのコンパクト化に伴い、ムーブメントも刷新。これまでのETA 2894-2からより小径のETA A32.211をベースに、クロノメーター認定の高精度を継続する一方、パワーリザーブも42時間から54時間へと延ばしたことも見逃せない。

伝説のドライバーを掻き立てるレースと時計

ミッレ ミリア クラシック クロノグラフ グリージオ・ブルー(ブルーグレー)ダイヤル。Ref.168619-4001。ルーセントスティール™×18Kエシカルイエローゴールドケース。40.5mm径。149万6000円(税込)

ジャッキー・イクス(Jacques Bernard “Jacky” Ickx)

1969年から1982年のあいだ、ル・マン 24時間レースにおいて6回の優勝で記録を塗り替え、F1では8回の優勝、表彰台には25回上った。さらにパリ ダカール・ラリーでは13回の完走を達成する。初めてミッレ ミリアに参戦した時は、ショイフレ氏はてっきりイクス氏の運転かと思っていたら、スタート直前に鍵をわたされ、自分がドライバーであることを知ったらしい。

ル・マン 24時間レースで6度の優勝経験を誇る伝説的ドライバー、ジャッキー・イクス氏は、ショパールの共同社長カール‐フリードリッヒ・ショイフレ氏のコ・ドライバーとして過去15回以上にわたってミッレ ミリアに参加してきた。それはブランドアンバサダーという枠を越え、ともに走り続けてきた友情の証である。

「最初にショイフレ氏と会ったのは35年以上前で、今に至るまでその絆はより深まっています。もうファミリーのひとりですよ」とイクス氏はいう。

「現在のミッレ ミリアはスピードを競うレースではありません。1927年から57年当時に出走したようなスポーツカーが変わらず公道を走ることで、歴史や伝統をもう1度みんなで味わえるイベントになっています。風光明媚なイタリアを巡るこの素晴らしい機会は、僕にはコ・ドライバーのほうがより楽しめるんですよ」

それにショイフレ氏のドライビングでなかったらミッレ ミリアに参加してないかもと笑う。

「彼はすごく運転が上手なのでとても心地いいし、安心して乗っていられます。レースに向き合う真摯な姿勢やクラシックカーへの愛情があり、それがミッレ ミリアを支えていると思います。背景には5世代にわたるファミリービジネスがあり、それにも増して本人の情熱がなかったらここまで続かなかったでしょうね」

そんなふたりはまるで初夏のドライブのように毎年レースを楽しむ。そのとっておきの時を刻むのがミッレ ミリアコレクションだ。

「毎年発表される新作はいつも新鮮で、新たなインスピレーションを与えてくれます。そしてレースに参加し、これを贈られた皆さんが、のちのち時計を見るたびにレースを走ったことを思い出す。その記憶が刻まれるという点でもとても素晴らしいですね」

モータースポーツは、人々のスピードへの情熱をかきたてると同時に、自由なモビリティを象徴するクルマの技術革新に大きく寄与してきた。その役割は今後変わったとしてもインスピレーションを与え続ける存在であることに変わりはないだろうと話す。

「ミッレ ミリアにしてもそれは歴史であり、伝統です。それを間近にすることで多くの発見が得られます。それは人のあり方と同じで、積み重ねた時を大切にすることは人生にも繋がり、豊かな生き方をもたらしてくれると思いますよ」

熱狂はレースを超え、自動車文化の継承へ

ミッレ ミリアは、1927年に始まったイタリアの公道レースだ。きっかけは4人のモータースポーツファンが、特権階級や限られたエリートドライバーだけでなく、腕と才覚さえあれば誰でも参加できるカーレースを始めようと思い立ったことだった。出走も市販スポーツカーに限られ、ここにミッレ ミリアの思想が誕生したのだ。ブレシアをスタートし、ローマで折り返し、南北を往復する3日間(現在の開催期間は年によって異なる)におよぶ総距離が1000マイル(ミッレ ミリア=mille miglia)になることから名付けられた。

しかし30年近く続いたレースも、1957年に起った市街地での事故で幕を閉じる。だがその復活を望む声は高まり、終了から20年を経た1977年に復活を果たしたのである。

競技は決められた区間タイムをクリアするラリー形式になったが、伝統へのオマージュを込めて参加車両は1927年から57年に出走した車両か同型モデルに規定されている。往時のスポーツカーたちは時を超えて美しく、初夏を迎えたイタリアの自然や街並みに映える。まさに“世界一美しいレース”と讃えられる所以だ。

レースに魅了されたヴィンテージカー愛好家のひとりが、当時ショパールの副社長だったショイフレ氏だった。その虜になり、1988年にはスポンサーに名乗り出た。だがそれも単なるブランドのPRやイメージアップだけでないことは、ショイフレ氏自らが毎年ステアリングを握り、参戦していることからも明らかだろう。彼はミッレ ミリアの魅力についてこう語る。

「イタリアで開催されるというところに意味があると思います。イタリアでは誰もがクルマに情熱を持っています。美しい風景、美しく古い建物、見て回るだけでも飽きない美しい街がある。そしてどこに立ち寄っても、おいしいコーヒーがいつでも飲める。だからミッレ ミリアは最高の国で行われているのかもしれないですね。そしてイタリアの人々みんなが楽しんでいる。人々の村や道路を通り過ぎる瞬間、どんな時間帯であろうと、人々がそこにいようといまいと関係なくね。言葉で表現するのはとても難しいですが、スイスでこんなことをしたら誰もクルマを走らせたがらないと思います。これは人間的な冒険であり、イタリアは私にとって特別な国なんです」

今年は世界中から405台がレースを走った。行程も1日延長されて5日間にわたり、パルマからミラノのルートが追加された。これもようやく取り戻した日常の喜びを謳歌する粋な計らいだろう。35回目の出走となるショイフレ氏は、相棒ジャッキー・イクス氏とともに愛車のメルセデス ・ベンツ 300SL ガルウィングで参戦。さらにブランドアンバサダーである中国の俳優、朱一龙(Zhu Yilong)氏と、著名な耐久レースドライバー、ロマン・デュマ氏のペアがチーム・ショパールとして、ポルシェ 356 スピードスターに乗り込んだ。

ヴァシュロンとルーブル美術館は、あらゆる芸術作品をモチーフにした時計を製作するチャンスを提供した。

時計コミュニティの一員であることの醍醐味のひとつは、“おそらく二度と見ることはないだろう”と即座に思うような時計を目にする機会があることだ。場合によってはさまざまな理由から写真を撮ることはもちろん、そのような経験を共有することすら許されないことがある。しかしヴァシュロン・コンスタンタン(そしてこの時計の所有者)のおかげで、最近ニューヨークの旗艦店に入荷したユニークピースの簡単な概要を共有してもらうことができた。それがヴァシュロン・コンスタンタン レ・キャビノティエ – ピーテル・パウル・ルーベンス『アンギアーリの戦い』へのオマージュだ。

このユニークな時計は、2020年12月にヴァシュロン・コンスタンタンがオークションに参加し、収益の100%をルーブル美術館による教育ワークショップの広大なプロジェクトを収容するスタジオスペース、ル・ストゥディオ・デュ・ルーヴルに寄付したことから始まった。ル・ストゥディオ・デュ・ルーヴルでは家族連れや学生、学校グループ、障害者や恵まれない人々など、あらゆる年齢層の来館者が美術や文化に親しむことができるよう、さまざまなプログラムが用意されている。さらにうれしいことに、これらのプログラムにはすべて美術館の入場料が含まれている。

落札者は28万ユーロ(日本円で約4375万円)を支払い、ヴァシュロン・コンスタンタンにルーヴル美術館のコレクションにあるあらゆる芸術作品をミニアチュール・エナメルまたはグリザイユ・エナメルで再現した文字盤を備えたオーダーメイドの1点ものモデルを制作してもらうチャンスを得た。しかしそれは、カタログをめくってインスピレーションを得るような単純な体験ではなかった。

代わりに入札者は時計の文字盤にするのに最適な作品を求めて、美術館の専門家による案内で個人的なプライベートツアーに参加した。予約制で一般公開されているキャビネ・デ・デッサン(版画・素描閲覧室)を訪問し、入札者はこの時計のベースとなったルーベンスの作品を見つけた。それが『アンギアーリの戦い』である。

この絵は英語で『The Struggle for the Standard of the Battle of Anghiari』と訳される。フランドル派の巨匠ルーベンスにより描かれたもので、彼が17世紀初頭にイタリア滞在中、アンギアーリの戦いを描いた素描を購入し、インクやチョーク、水彩で加筆したと言われている。

レオナルド・ダ・ヴィンチが、フィレンツェのシニョリーア広場(のちにヴェッキオ宮殿となる)の大会議室のために制作を依頼した巨大な構図が、この“戦い”の原型である。この作品はローマ教皇エウゲニウス4世とヴェネツィア共和国およびフィレンツェ共和国の軍隊がミラノ公国軍に勝利したことを祝して描かれたもので、ダ・ヴィンチの偉大な傑作のひとつと見なされていたが、1506年にレオナルドによって未完成のまま放置され、急速に劣化していった。ほかの最近の美術史家たちはこの作品は着手すらされていなかったと示唆しているが、ダ・ヴィンチのこの作品のための研究はしっかりと記録されている。

『アンギアーリの戦い』。courtesy Vacheron Constantin and the Louvre.

ルーベンスの作品の歴史について私が理解しているところでは、この作品はのちにロレンツォ・ザッキアによって彫られたものが元になっている可能性があり、それ自体はダ・ヴィンチによって描かれた原画か、未完成のオリジナルが元になっているかのどちらかである(原画が存在したとすればだが)。ダ・ヴィンチの原案を物理的に永続的に思い起こさせる作品はいくつかあるが、ルーベンスによるアイデアの“共同作品”という点では、この作品が最も有名だろう。ヴァシュロンのエナメル職人は、ルーベンスの作品の深みと力強さを見事に表現し、写真では残念ながら実物ほどには伝わらないが、素晴らしい仕事をした。

絵画の一部を切り取り、直径わずか3.3cmの文字盤にミニチュアとして表現することがどれほど難しいか、私には想像できない。レ・キャビノティエに所属する匿名のエナメル職人の言葉によれば、ディテールと奥行きの両方を達成するには微妙なバランスが必要だったという。エナメル職人はジュネーブに古くから伝わるミニアチュール・エナメルの技法が原作へのオマージュとして最もふさわしいと考え、一般的にグリザイユ・エナメルで使用されるリモージュ・ホワイトを取り入れた。彼らは細かいディテールを表現するために3、4本の硬い毛が付いた筆やサボテンの棘を使うこともあった。

私の心を本当に引きつけたのは作品の躍動感だけでなく、光がエナメルのさまざまな部分に反射し、特に馬のたてがみの暗い部分にアクセントを与えていることだった。それが立体感と動きに象徴されるリモージュ・ホワイトの力だ。またジュネーブフラックスのアンダーコート(何層にも重ねたガラス化エナメルを最終的に無色透明に保護するもの)によって、さらに輝きと深みが増したという。

最終的に職人はブラウン、グレーブラウン、セピアブラウン、クリームブラウンの約20の色調を用い、それぞれ着色するあいだに文字盤を900℃の温度で焼成した。最初の層は非常に軽く焼成する必要があり、エナメルのガラス化プロセスを開始するのに十分な時間、しかし色の濃淡を変えすぎない程度に焼かなければならなかった。

最終的に時計は40mm径、9.42mm厚の18Kピンクゴールド製ケースにオフィサータイプのケースバックを備えたものとなった。内部にはヴァシュロンが設計・製造したCal.2460SCを搭載し、時・分・秒を表示する。このキャリバーは主にメティエ・ダールの時計に搭載されている自動巻きムーブメントで、2万8800振動/時(4Hz)で作動し、パワーリザーブは約40時間である。私はこの時計を身につけることはできなかったが(もちろん完璧な状態で引き渡しを受けたいオーナーへの配慮から、時計をつけさせてもらうのは無理な話だった)、この時計のサイズと手に持った感触は間違いなく完璧に身につけられるものだ。しかし私の考えからすると、この時計は身につける時計というよりもディスプレイピースであり、芸術品である。

この時計のポイントが文字盤であることは確かだが、ヴァシュロンは期待どおり、ムーブメントの仕上げに時間と思慮を注いでいる。その最たるものがルーブル美術館の東側ファサードをエングレーヴィングした22Kピンクゴールド製のローターである。

おそらくこの時計で最もクールなことのひとつは、ユニークでありながら、ヴァシュロン・コンスタンタンと関係をもつ人(そして余裕がある人)に開かれた新しいパートナーシップと体験への扉を開いたことだろう。この時計が初めてオークションに出品されたとき、彼らはこの時計を“あなたの腕に傑作を(A masterpiece on your wrist)”と呼んだが、これは現在ルーヴル美術館とヴァシュロン・コンスタンタンが提供する新しいプログラムのタイトルとなっている。そして最近、夏のパリ観光の猛暑と気が狂いそうな混雑を乗り切った私にとって、製作される時計だけでなく、この新しいプログラムが提供する体験をこれほどうらやましいと思ったことはない。

このプログラムを通じて、顧客はルーブル美術館のガイド、ヴァシュロン・コンスタンタンの熟練時計職人や職人とともにプライベートツアーに参加し、自身が選んだシングルピースエディションの完璧なインスピレーションを探すサポートを受ける。ピーテル・パウル・ルーベンスへのオマージュと同様、購入者が選んだアートはエナメルで再現される。そして私が選ぶだろう絵画を想像すると心が躍るが(結局のところ、これはおそらくカラヴァッジョを所有することに最も近づくだろう)、値札(魔法の言葉”on request”が特徴だ)は私の手の届かないところにあることは確実であり、幸運な顧客のためにこのプログラムから生まれたほかの時計も見みられることを願っている。

セイコーから、伝統紋様である菊つなぎ紋をダイヤルで表現した数量限定モデル、そして新たなダイヤルカラーを含む新作3種が発表された。

セイコー腕時計110周年記念限定モデルして2月に発売されたSDKS013では、キングセイコー生誕の地である東京・亀戸が亀の甲羅の形に似た“亀島”と呼ばれていたことに着想を得て、亀甲文様を取り入れたダークブラウングラデーションダイヤルを採用した。

新作(以下、SDKA009)では、日本を代表する花である菊をモチーフにした江戸切子の伝統紋様、“菊つなぎ紋”デザインのダイヤルを採用。本作においては日本伝統のものづくりをヒントにした。カッティングラインが細かく交差する“菊つなぎ紋”は江戸切子のなかでも最も高度な技が要求されるが、本作ではこの紋様をホワイトの型打ちダイヤルで表現している。

また、この限定のSDKA009は1965年に誕生した2代目キングセイコー “KSK” のデザインを受け継ぎ、薄型自動巻きムーブメントのCal.6L35を搭載しているのも特徴。Cal.6L35はセイコーの現行機種において最も薄い自動巻きムーブメントで、ケース構造と風防を改良することによって“KSK” のオリジナルモデルよりもさらに0.2mmの薄型化を実現している。

数量限定モデルの証として、裏蓋には通常盤にも見られる“KING SEIKO”のロゴの下に“Limited Edition”の表記とシリアルナンバーが記されている。

限定のSDKA009ではSS製ブレスレットに加えて、ホワイトのダイヤルとも調和するライトグレーの交換用レザーストラップも付属する。

そしてもうひとつ新作として加わることになったのが、オリーブグリーンを含む新たなダイヤルカラーを採用した3種のKSK キャリバー6R55モデルだ。ダイヤルカラーは、チャコールブラック(SDKS021)、インディゴブルー(SDKS023)、そして新色のオリーブグリーン(SDKS025)の3種類。創成期のキングセイコーが発売されていた1960~70年代当時のファッションから着想を得てアースカラーを採用したという。

 ダイヤル表面には縦方向のヘアライン仕上げを施し、アースカラーと組み合わせることで、経年変化したような雰囲気を表現。また、力強いインデックスを持つダイヤルデザインに合わせて、時・分針とインデックス外周部にはエイジングカラーのルミブライトを採用し、昼夜を問わず視認性を高めている。なお、現行のキングセイコーでルミブライトが採用されるのは今回が初となる。

限定のSDKA009とは異なり、新作3種が搭載するのはCal.6R55だ。デイト表示を備え、コンパクトな自動巻き機構を持つ一方で、3日間(約72時間)のロングパワーリザーブを実現した。また、この新作3種のブレスレットではエンドピースの過度な回転を防止するダブルレバー式の簡易着脱レバーを採用。簡単に付け外しできることに加えて、高級感、着脱のしやすさ、優れたフィット感を合わせ持ったブレスレットとなっている。また既存の10種類のレザーストラップ(別売り)とも組み合わせることができるため、好みに応じて多様なシーンで着用することができる。

限定のSDKA009は10月7日(土)の発売で、世界限定600本(うち国内展開は200本)、価格は44万円。レギュラーの新作3種の発売は9月8日(金)、価格は25万3000円(ともに税込)を予定している。

ファースト・インプレッション

新作において注目すべきモデルは、きっと“菊つなぎ紋”デザインダイヤルを持つ限定のSDKA009だろう。“白樺ダイヤル”や“御神渡りダイヤル”、日本特有の季節の情景をダイヤル上で表現した“二十四節気コレクション”など、日本人らしい美意識と審美感をダイヤルで表現したモデルが人気を得るグランドセイコーを筆頭に、近年のセイコーが手がける時計のダイヤル表現にはユニークなものが多く、目を見張るものがある。“菊つなぎ紋”デザインダイヤルは、まさにそうした昨今のセイコーらしさを感じさせる1本だと思う。

だがより筆者が心引かれたのは、1960~70年代当時のファッションから着想を得たというアースカラーダイヤルを持つ3種の新作のほうだった。

いまでこそ少し湾曲した“ボンベダイヤル”や先端をダイヤル側にカーブさせた針などは高級時計のディテールとしてもてはやされるが、これは当時、ダイヤルをムーブメントの形状に合わせ、視認性を高めるためのオーソドックスな手法だった。対してかつてのキングセイコーは、ダイヤルや風防の形状を工夫することで、当時としては画期的なフラットなダイヤルとストレートな針の組み合わせを実現させた。そう、こうした合理的・工業的なスタイルのダイヤルやシャープなディテールによるモダンなデザイン表現こそ、今も昔も変わらぬキングセイコーらしい魅力だと筆者は思っている。

アースカラーを取り入れるなど今っぽいダイヤル表現がなされているものの、KSK キャリバー6R55モデルは縦方向のヘアライン仕上げを施したダイヤル、シャープで力強い針やインデックスなどを持ち、その質実剛健な雰囲気がオリジナルのキングセイコーをほうふつとさせる。また、ケースとブレスレットとの隙間を滑らかにつなぐコの字の形状のラグ(厳密にはケースとブレスレットが接する嵌合部)は、インダストリアルな印象を強調しているように思うし、付け外しが簡単にできるというブレスレットはいかにも合理的ではないか。そして、ルミブライトを採用して暗所での視認性を高めるというのは、これまでのキングセイコーでも見られなかった新しい実用的なディテールだ。

3種のダイヤルのうち、筆者の好みはオリーブグリーンのSDKS025だ。広報写真で見る限りは文字どおりのオリーブグリーン、オリーブドラブカラーのようだが、実際はどのように見えるのだろう。グリーンの色味は写真と実物でずいぶんイメージが異なる場合も多いので、早く実機で確認してみたいと思っている。

基本情報
ブランド: キングセイコー(King Seiko)
モデル名: KSK キャリバー6L35限定モデル&KSK キャリバー6R55モデル(KSK Caliber 6L35 Limited Edition & KSK Caliber 6R55 Model)
型番:SDKA009(KSK キャリバー6L35限定モデル)、SDKS021、SDKS023、SDKS025(KSK キャリバー6R55モデル)

直径: 38.6mm(KSK キャリバー6L35限定モデル)、38.3mm(KSK キャリバー6R55モデル)
厚さ: 10.7mm(KSK キャリバー6L35限定モデル)、11.7mm(KSK キャリバー6R55モデル)
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: ホワイトの菊つなぎ紋(SDKA009)、チャコールブラック(SDKS021)、インディゴブルー(SDKS023)、オリーブグリーン(SDKS025)
インデックス: アプライドバー
夜光: KSK キャリバー6L35限定モデルはなし、KSK キャリバー6R55モデルは針とインデックス外周部にルミブライト
防水性能: 日常生活用強化防水(KSK キャリバー6L35限定モデルは5気圧、KSK キャリバー6R55モデルは10気圧)
ストラップ/ブレスレット: SS製ブレスレット&ワンプッシュ両開き方式クラスプ(KSK キャリバー6L35限定モデルは換えカーフストラップつき)

ムーブメント情報
キャリバー: 6L35(KSK キャリバー6L35限定モデル)、6R55(KSK キャリバー6R55モデル)
機能:時・分表示、センターセコンド、3時位置に日付表示
パワーリザーブ: 約45時間(KSK キャリバー6L35限定モデル)、約72時間(KSK キャリバー6R55モデル)
巻き上げ方式: 自動巻き(手巻きつき)
振動数: 2万8800振動/時(KSK キャリバー6L35限定モデル)、2万1600振動/時(KSK キャリバー6R55モデル)
石数: 26(KSK キャリバー6L35限定モデル)、24(KSK キャリバー6R55モデル)
精度: 6L35は日差+15秒~ -10秒、6R55は日差+25秒~ -15秒(ともに気温5℃~35℃において腕につけた場合)