時計のサイズに大きく関わる問題について触れよう。

時計のサイズについてのこだわりがあふれている。この問題は、常に物議を醸す日付窓と同じくらい論争が起こりやすいテーマであり、またあえて言うならば、おそらくピンバックルとフォールディングバックルの優劣よりもさらに議論を巻き起こしやすい。

時計のサイズに大きく関わる問題について触れよう。私の知る限り、この問題は“スクエアウォッチはラウンドと比べてどれほど違うの?”ということでは明白にならなかった。我々が扱う腕時計のうち圧倒的多数を占めるラウンドウォッチにおいて、40mmが装着性に対する一種の大衆的な境界線であるならば、スクエアウォッチに適用されるその境界線は、一体どこで引かれるべきなのだろうか? そしてもうひとつ、熱い議論が交わされる時計の厚さについては、別の日のために残すことにしよう。

タグ・ホイヤーのモナコは、39mm径のスクエアウォッチだ。

サイズの数値だけでは騙されやすい。スクエアウォッチの代表格である、39mmのタグ・ホイヤー モナコを着用したことがある人は、その39mmというサイズから想像されるよりもずっと大きなサイズであるのを知っているはずだ(手首の面積を15.21平方cmも占めているから)。39mmのラウンドウォッチと比較すると、こちらの表面積は11.94平方cmなので、正方形の時計がいかにデカいかがわかる。例えばチェリーニ ムーンフェイズのような39mmのラウンドウォッチと同じように、控えめな装着感を提供してくれるスクエアウォッチを見つけるには、34mmから35mmのあいだのサイズが望ましい。

ロレックス チェリーニ ムーンフェイズは直径39mmである。

チェリーニ ムーンフェイズのような39mmのラウンドウォッチは、モナコのような39mmのスクエアウォッチの79%の大きさだ。両者の最も狭い部分(39mm)を横から測ると同じサイズだが、チェリーニはモナコの対角線(55mm強)に対してわずか71%の幅しかない。

この記事を書くにあたり、私はすぐにノモスのテトラシリーズを思いだし、ブランドが提供するいくつかのサイズを調べ始めた。思ったとおりノモスのテトラは、装着しやすい優れたスクエアウォッチをいくつかリリースしていた。ノモスのサイトを見ていたら、最近追加されたテトラ ネオマティック 39が目に飛び込んできたので、そのスペックを細かく調べてみた。正直、このブランドが39mmのスクエアウォッチを作るとは思ってもみなかった。彼らにとってはとても大きなサイズのように思えたのだ。調べてみると、この時計は実際には39mmもなかった。長辺はそれぞれ33mmで、対角線は46mmであることがわかった。テトラ ネオマティック 39という名前は、実際の長さのサイズではなく、この腕時計がどのように着用されるかに基づいているようだ。ノモスUSAの副社長であるメルリン・シュヴェルトナー(Merlin Schwertner)氏にこれが本当かどうか尋ねたところ、彼はそれが本当であると認めた。

ノモス テトラ ネオマティック 39 シルバーカット。

モナコの話に戻ろう。39mmのケースの感触が気に入って、同じような体験ができるラウンドウォッチ、つまり手首の面積を同じように占めるラウンドウォッチが欲しいと思ったとしよう。表面積が15.21平方cm台のラウンドウォッチを見つけるには、少し計算する必要がある。もちろん、円を2乗することはできないので、あくまでも近似値でしかないことを忘れてはならない。

表面積15.21平方cmのモナコ 39mmのように、スクエアウォッチに相当する円形面積を求めるには、表面積をπで割ってその平方根をとればいい。これにより半径2.2cm、直径4.4cm、対角線44mmというラウンドウォッチの数値が得られる。

スティーブン(・プルビレント)が今年初めのSIHHで書いた、カリ・ヴティライネンが最近リリースした44mm径のステンレススティール製ヴァントゥイット(Vingt-8)をご覧あれ。

44mm径のヴァントゥイット(左)と、39mm径のヴァントゥイット(右)。

好都合なことに、39mmのヴァントゥイットの真横で撮影されているので、44mmのラウンドウォッチが、まったく同一条件(apples-to-apples)の39mm径ラウンドウォッチと比べてどれだけ大きいかが実感できるだろう。

リンゴといえば、Apple Watchはどうだろう。これはラウンドでもスクエアでもなく、レクタンギュラーだ。セラミック製のApple Watch Series 3 (写真はベンの手首)のサイズは42.6mm×36.5mmで、表面積は15.55平方cmだ。42mmと銘打ったラウンドウォッチよりはかなり大きいが、42mmのスクエアウォッチよりかは小ぶりだ。

Apple Watch Series 3は42.6mm×36.5mmのサイズで、手首を占めるスペースは15.55平方cmだ。

したがって、腕時計のサイズの普遍的な測定値は、それが手首にどのように装着されるかを最もよく知ることができるものであり、直径や長辺の長さではなく、面積であるべきだと思われる。

3年の開発期間を経て、リシャール・ミルは新しいRM 35-03を発表した。

RM 35-03は、特別な巻き上げ機構を備えた超スポーティな自動巻きモデルで、着用者の現在の活動レベルに応じて巻き上げ量を調整できるようになっている。すべての機能は、クルマをテーマにした“スポーツモード”ボタンと連動。必要に応じてローターを停止し、ムーブメントの巻きすぎを防止することができるのだ。

RM 350-03 Nadal
 ボタンやモードについては後ほど説明するが、RM 35-03はカーボンTPT(ケースとケースストラップは黒。多くの画像に写っているだろう)、ブルーとホワイトのクォーツTPT、そしてカーボンTPTにホワイトのクォーツTPTを加えたバージョンの全3種類で展開する。サイズは3モデルとも同じで、直径43.15mm、厚さ13.15mm、ラグからラグまでが49.95mmだ。防水性は50mで、価格は時計よりもはるかに重い。

 ブランドが“ベイビー・ナダル”と呼んでいる同モデル最大の特徴は、ケース側面の7時位置にある、前述したスポーツモードボタンだ。これに搭載された特別な“バタフライローター”システムは、本当は複雑な説明があるが、そのコンセプトは同ボタンを押すことによって巻き上げローターの重力を利用する能力を緩和できるというものである。この半分ずつにわかれたふたつあるローターを、中央のヒンジで固定されるように設計。このスポーツモードを使用するとその2パーツが扇状に広がり、エレメントが180°にわたって均等に分散されるため、ローターが回転する機能がなくなるというのだ。おわかりいただけただろうか。下のアニメーションでメカニズムを確認して欲しい。ほらね? 理解するのはそれほど難しくない(少なくとも機能レベルでは)。

rm 35-03 in action
 ここでのアイデアは、スポーツモードを有効にしてプロテニスのようなスポーティなことをしようとするとき、ムーブメントの追加巻上げを一時停止できるということだ。ダイヤルを見ると自動巻きが有効かどうか、オン/オフの表示があり、このシステムはほかのRMモデルで見られるファンクションセレクターと同じもので、ユーザーが3つのモード(時間設定の“H”、ニュートラルの“N”、ワインディングの“W”)を切り替えられるようになっている。

rm 35-03 nadal
 この機能は時・分・秒を表示するフルスケルトナイズの自動巻きムーブメント、Cal.RMAL2によって支えられている(前述した機能も搭載)。ムーブメントのブリッジと地板はグレード5チタン製で、2万8800振動/時で時を刻み、パワーリザーブは約55時間を提供。このパワーリザーブを支えているのがツインバレルシステムであり、どちらの香箱からでもトルクを計測できるためより正確な計時が可能となっている。

RM 350-03 Nadal
rm 35-03
rm 35-03
 すでに記載したとおり、ラファエル・ナダルとのつながりを持つ複雑なリシャール・ミル RM 35-03は、23万8000ドル(日本円で約3400万円)で販売される。

我々の考え
リシャール・ミルの腕時計は、常にさまざなシェイプとサイズで提供されているが、RM 35-03はブランドの中核をなす製品のように感じる。デザインの力強さ、ワイルドなケース素材、ギミックのようなスポーツモードへのこだわり、これらすべてがリシャール・ミルの伝統なのだ。

 “ベイビー・ナダル”シリーズ第4弾となるRM 35-03は、バタフライローターシステムを搭載し、遊び心あふれる機能を追加した。このようなシステムの必要性を主張することはできるだろうが、僕はこのような時計にはそぐわないかもしれないと思っている。ただ文字どおりの意味でも感情的な意味でも、エンゲージメントのために時計の自動巻きを止める機能というアイデアはちょっと気に入っている。最近の高性能車では、プログラム可能なモード(スポーツモードのような)が主要な機能としてセットされているので、25万ドルするリシャール・ミルを買おうとしている人たちのライフスタイルや経験ともつながりがある。彼らのクルマには、それを体験できるさまざまな要素をコントロールできるボタンがたくさんあるのだ。では時計になるとそれはないのか?

RM 350-03 Nadal
 しかし、リシャール・ミルの時計は文字どおり“モノ”として扱う必要はない。スーパーカーのように、これらの腕時計は実用性や機能性で評価されているわけではない。むしろ、これらは感情、コレクター性、生の魅力としての対象であり、スポーツモードがこれほど適切だと感じる時計はない。もし可能なら、コメントで教えて欲しい。

基本情報
ブランド: リシャール・ミル(Richard Mille)
モデル名: RM 35-03 オートマティック ラファエル・ナダル(RM 35-05 Automatic Rafael Nadal)
型番: RM 35-03

直径: 43.15mm
厚さ: 13.15mm
ラグからラグまで: 49.95mm
ケース素材: カーボンTPTまたはクォーツTPT
防水性能: 50m

RM 350-03 Nadal
ムーブメント情報
キャリバー: RMAL2
機能: 時・分・センターセコンド、スポーツモード、ファンクションセレクター
直径: 31.25mm×29.45mm
厚さ: 5.92mm
パワーリザーブ: 約55時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 38
追加情報: 特許取得済みのバタフライローター

価格 & 発売時期
価格: 23万8000ドル(日本円で約3400万円)

ショパールはドバイウォッチウィークにてアルパイン イーグルの珠玉のラインナップを発表した。

ドバイに行ったことはないが、史上初の7つ星ホテルを生み出した国にふさわしい宝石のようだ。少なくとも私のなかのドバイは、金無垢に宝石を施した時計、ロビーに噴水がある巨大で豪華なホテル、ロールス・ロイス ファントムなどがイメージされる。

新しいアルパイン イーグル サミットの時計は直径41mm、エシカルな18Kイエロー、ホワイト、ローズゴールドで用意(豊富なオプションに感謝)。

本新作の焦点はふたつ。ひとつ目はベゼルにサファイア、ツァボライト、スペサルタイトを含む、カラフルなバゲットカットの宝石がセッティングされたこと。もうひとつは、スイス・ヴァレー州にあるジナル氷河にちなんで名付けられた、“ジナルブルー”ダイヤルがデビューしたことだ。

ショパール アルパイン イーグル サミット
ジナルブルーは写真だと虹色に見え、バイオレットとブルー両方の色合いを反映している。光沢があり、まさにクジャクのようだ。そのツートーンの色合いは、ベゼルにセットされたジェムストーンのグラデーションでも表現される。文字盤はアルパイン イーグルのすべてのモデルと同様、深いテクスチャーを維持。このコレクションはほかに、PVD加工を施した“ゴールデンピーク”、“ヴァルスグレー”、“ドーンピンク”といったダイヤルカラーもラインナップした。

各モデルにはCal.01.15-Cを搭載。透明なサファイアクリスタル製シースルーバックをとおして見える、自動巻きのショパール自社製ムーブメントは、COSC認定も取得している。また完全に巻き上げると、最大約60時間のパワーリザーブを発揮。さらにすべてのモデルにストップセコンド機能も搭載している。

(宝石の)価格は想定の範囲内であり、WGとYGモデルは1250万7000円、RGは1136万3000円(すべて税込)の価格がつけられた。

我々の考え
ショパール アルパイン イーグル サミット
別の日も、そして今日もまたレインボーが出た。まあ、これは厳密にはレインボーではないが。ポイントは、ショパールはカラーや宝石を少し刺激的な方法で取り入れているところだ。たとえ宝石に興味がなくとも、ジュエリーのノウハウが時計製造のカテゴリーに取り入れられていることは間違いない。社内でのクロスオーバーを見るのはいつも楽しい。私は、これらの特定のモデルに日付機能がないことに気づいた。これは同モデルがもう少し華やかであるべきだという考えを補強するものである。ただ私はダイヤモンドをセットしたコンプリケーションを楽しんでいるので、それはもったいないと思う!

確かに華やかな色合いはいい。ジナルブルーは通常、私が嘲笑するタイプのマーケティング戦略的なネーミングであるが、私はショパールブランドとアルプスとの結びつきに心から共感している。ショイフレ一家と話したことはあるだろうか? 彼らはアルプスを愛しているのだ。

しかしここで、なぜ41mmなのかという疑問が残る。これは昨年登場したYG製のアルパイン イーグル(ニューヨークで先行販売)の既視感を感じた。宝石がセットされた大ぶりな時計は汎用性があるのでありがたいが、ただもう少しサイズの幅が欲しい。36mmとかどうだろう。答えを追求し続けるしかない!

基本情報
ブランド: ショパール(Chopard)
モデル名: アルパイン イーグル サミット(Alpine Eagle Summit)
型番: Ref.295363-0002(ゴールデンピーク)、Ref.295363-1007(ジナルブルー)、Ref.295363-1008(ヴァルスグレー)、Ref.295363-5013(ドーンピンク)

直径: 41mm
厚さ: 9.7mm
ケース素材: 18Kエシカルイエローゴールド、ホワイトゴールド、ローズゴールド
文字盤: イーグルの虹彩に着想を得た型打ちサンバーストモチーフのゴールデンピーク、ジナルブルー、ヴァルスグレー、ドーンピンクのブラス製(すべてPVD加工)
インデックス: アプライドとバゲットカットダイヤモンド
夜光: あり、スーパールミノバ® グレードX1
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: テーパー形状の18Kエシカルゴールドブレスレット、トリプルフォールディングバックル

ショパール アルパイン イーグル サミットに搭載されたCal.01.15-C
ムーブメント情報
キャリバー: Chopard 01.15-C
機能: 時・分・センターセコンド(ストップセコンド機能)
直径: 28.8mm
厚さ: 4.95mm
パワーリザーブ: 約60時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 31
クロノメーター: あり

価格 & 発売時期
価格: WGとYGモデルは1250万7000円、RGは1136万3000円(すべて税込)
限定: ショパールブティック限定

時計を手にするとき私が一番に考えるのは、今が何時かということではなく、

アラン・“ハマー”・ブロア(Alan “Hammer” Bloore)氏が時計を集め始めたのはまだ子供の時分からであり、最初の時計は貯金して買ったセイコーのダイバーズだったという。彼は生来のスポーツマンであったが、2000年代初頭にボート事故で腰から下が麻痺した。当時、彼はすでにヴィンテージのミリタリーウォッチやダイバーズウォッチのコレクターであり、“パネリスティ”のような初期のコレクターコミュニティの一員でもあった。そしてこの事故は、彼の時計への興味をさらに強固なものにした。

「これらの時計を手にするとき私が一番に考えるのは、今が何時かということではなく、その時計が語る物語についてです」と、ハマー氏は言う。「時計への愛がなかったら、私はどこに情熱を見出すことができたでしょうか。時計は私という人間を作り、世界中を巡り、私の人生を変えるような友情をもたらしてくれたのです」

アラン・“ハマー”・ブロア氏

そして今、ハマー氏が時計を売却する時が来た。現地時間の12月7日(木)にニューヨークのサザビーズで行われるセールを皮切りに、“ハマー コレクション”の時計約60点がオークションのハンマーにかけられる。

ハマーのコレクションの大部分はパネライとヴィンテージロレックスだが、サザビーズのライブ中継やオンラインカタログでは、パテックやインディーズブランド、その他のブランドも目にすることができる。

ハマー コレクションより、オーストラリア海軍に納入されたRef.5510。

特に注目すべきは、オーストラリア海軍のために作られたハマー氏所有のビッグクラウン Ref.5510だ。彼はオーストラリア人であり、このビッグクラウンは、軍用時計としての実績を持つ素晴らしく真っ当なモデルである。さらに時計だけではなく、オーストラリア海軍の制服やフィールドノート、シガレットケースやノーズクリップまでついてくる。箱や書類のことは忘れよう。このセットは、“フルセット”という言葉にこれまでとは違った意味を与えてくれるものだ。

パネライ Ref.PAM21

ハマーの膨大なパネライ コレクションのなかで、とりわけ注目すべきはRef.PAM21だろう。これは1997年に発表されたプラチナ製の限定モデルで、パネライによれば、第2次世界大戦でイタリアのフロッグマン(潜水士)が着用した伝説的なロレックス Ref.3646にインスパイアされたヴィンテージムーブメントを使用しているという。パネライがヴァンドーム(現リシュモン)に買収された直後に発表した最初のモデルで、60本すべてが数週間で完売した。

また、パネリスティの10周年を記念して限定発売されたパネライ Ref.PAM360もあり、これはハマーがデザインに携わった時計でもある。彼が持っている個体のシリアルは1/300で、裏蓋には“Hammer”と刻印されている。

時計自体のストーリーにとどまらず、ハマーに関するストーリーもまた、彼のコレクションの醍醐味なのである。ブロアは過去20年間、収集家のコミュニティに欠かせない存在だった。最近、彼は同じオーストラリア仲間であるフェリックス・ショルツ(Felix Scholz)氏とアンディ・グリーン(Andy Green)氏らとともにOT: The Podcastに出演し、彼のコレクターとしての軌跡を語った。 彼が2000年代初頭に事故に遭ったとき、世界中から100人以上のコレクターが彼を訪ねてきた。彼が言うには、これが最初の本格的な時計愛好家の集まりだったそうだ。彼の手首に“Paneristi.com”のタトゥーが彫られているほど、このコミュニティは彼にとって大きな意味を持つ。ハマーの話やヴィンテージウォッチに興味があるならば、全エピソードを聞く価値があるだろう。

ハマーは事故に遭ったのちも、常に前向きに生き続けてきた。それは、彼が20年以上にわたって関わってきたコレクターたちのコミュニティによるところが大きい。ハマーのストーリーは、時計収集の素晴らしさを思い出させてくれるものである。

ニューヨークで行われるオークションの模様は、今週末にお伝えする。

独立時計師という存在に日が当たるようになった立役者のひとりでもあるアントワーヌ・プレジウソ氏。

現在は息子であるフロリアン氏とともにアントワーヌ プレジウソブランドの運営をしている。そんなプレジウソ親子が5年ぶりに来日を果たした。しかも、ブランドのルーツともいえるコレクションの復刻版を引っ提げて。

1986年に発売されたオリジナルのシエナ。デザインはほぼ現行モデルと変わらない。

アントワーヌ プレジウソといえば、トゥールビヨンをはじめとするコンプリケーションウォッチがよく知られているが、実はアントワーヌ プレジウソ銘で発表された最初の時計はシンプルな自動巻きウォッチだった。それが1986年に初めて自身の名を冠して発表したシエナコレクションだ。
そんなデビューコレクションであるシエナが30年以上の時を経て復刻。今回は、その復刻版の発売に合わせて久々の来日となった。そもそもシエナとはどんなコレクションだったのか? アントワーヌ本人の口からコレクション誕生の経緯、そしてどんな思いを込めた時計だったのかを聞くことができた。

アントワーヌ・プレジウソ氏

シエナはもともと、彼がイタリア・トスカーナ地方にある古都シエナへ旅行で訪れた際に、世界一美しい広場と称されるカンポ広場で見た“マンジャの塔”の時計にインスピレーションを得て作られた腕時計だ。複雑な造形を持つ時・分針は、塔の時計に見られる1本針を参考にしたもので、ラグのない真円のケースは時計盤面のイメージを崩さないために取り入れたアイデアだ。アントワーヌ氏は次のように当時の思い出を語る。

「シエナを訪れたのは“マンジャの塔”の時計があったからというわけではなく、たまたまでした。そこで偶然目にした時計塔に感銘を受けて腕時計にしたいと思ったのです。腕時計として形になり販売できたときは、自分の芸術性が理解されたのだと、とてもうれしかったことをよく覚えています。シエナの復刻版を今回発表したのは、これまでのスタイルを保持しながらも、このコレクションがこの先もずっと続いて欲しいという思いがあったからです」

シエナ Ref.SISSM.0402510S。94万6000円(税込)

シエナは、中世の時計を想わせる装飾的な針と艶やかなマザー・オブ・パールのダイヤルが印象的。なお、トップイメージのブレスレット仕様は104万5000円(税込)だ。ステンレススティールケース、フレンチカーフ(裏側防水加工)ストラップ。34.5mm径。厚さ9mm。3気圧防水。自動巻き(パワーリザーブは約56時間)。

復刻されたシエナは、一見すると30年以上前のオリジナルとほぼ同じように見える。だが、決して何も変わっていないわけではない。イエローゴールドだったケースは、オリジナルにはなかったSSケースへと変わり、大理石だったダイヤルはマザー・オブ・パールへと変更された。そしてできる限りケース形状に合わせてデザインされたリューズは、爪を痛めないようにと、エルゴノミクス的観点から使いやすさを意識して少し大きくなった。

ムーブメントはETAベースからセリタベースとなり、デザインは変わったものの、ブランドロゴをデザインした自動巻きローターを持つ。ムーブメントこそ汎用品だが、針やダイヤルは自身が認めたビエンヌにあるサプライヤーによるものを使用。針の造形が複雑なため、パーツの段階に加えて、アッセンブリの段階でもクオリティコントロールしているとのこと。これは量よりも質を重視したい、クオリティに目の届く範囲で時計を作りたいという彼らの思いからだ。

ディテールはアップデートされているが、アントワーヌ氏が心動かされた時計塔をほうふつとさせる優美なダイヤルデザインや装飾性に富んだ針はそのまま。ラグのないシリンダー型ケースや、34.5mmというサイズもオリジナルとほぼ変わっておらず、男性・女性問わずジェンダーレスにつけることができる。

アントワーヌ・プレジウソといえば“神の手を持つ男”と呼ばれ、フランク・ミュラー(ちなみにふたりはジュネーブ時計学校で時計づくりを学んだ)とともに早くからトゥールビヨンウォッチなどの複雑時計製作に取り組んできた独立時計師である。コンプリケーションウォッチを手がけることと、シエナのようなシンプルな腕時計(複雑時計に比べたら、であるが)をつくることに対してどんな思いを持っているのだろう? 彼は言う。「私の“プレジウソ”という名字はイタリア語でプレシャス、つまり“貴重な”という意味を持っています。だから自分が作るものは常にプレシャスなものでありたい。そういうものしか作りたくない。シエナコレクションにおいてもそれは変わりません」

今回の来日の目的は、主に新しいシエナコレクションお披露目のためであったが、やはりアントワーヌ・プレジウソはコンプリケーションウォッチの存在抜きには語れない。

1978年にジュネーブ時計学校を首席で卒業後、パテック フィリップに採用され早くから複雑時計の技術を磨いていくことになるが、彼の名が時計業界で広く知られるようになるのは90年代に入ってからだ。ブレゲからの依頼で世界で最も複雑な腕時計(当時)、ミニッツリピーターパーペチュアルカレンダーウォッチを開発・製作させ、92年には自身の名でトゥールビヨンウォッチを発表するとともに、ユニバーサル・ジュネーブ(92年)やハリー・ウィンストン(93年)のためにトゥールビヨンウォッチを製作。以降もさまざまなブランドのために独創的な腕時計を製作したが、2002年にはハリー・ウィンストンによる「オーパス2」プロジェクトに参加。時・分表示付きのトゥールビヨンを13本、パーペチュアルカレンダー付きトゥールビヨンを13本(ダイヤモンドをあしらったものを含めて)製作したことで、一躍その名を業界に知らしめた。ブランドの輝かしい歴史は以下のリンクにまとまっているので、詳しく知りたい方はぜひ一度確認してみて欲しい。

さて、アントワーヌ プレジウソにとってコンプリケーションは欠かせない存在であるのは間違いないが、実はそれと同じくらい非常に重要なものがある。それがメテオライト(隕石)を用いた腕時計だ。1989年に世界で初めてダイヤルにメテオライトを用いた腕時計を発表し、オーパス2プロジェクトで名を上げた2002年には、世界初のメテオライトケースを採用した腕時計も発表。以来、その存在は、同ブランドにおける象徴のひとつになっており、筆者が今回のインタビューでどうしても聞きたかったのが、このメテオライトについてだった。今でこそメテオライトダイヤルを持つ時計は、さまざまなブランドで見られるようになったが、なぜアントワーヌ・プレジウソ氏は時計にこの素材を使用しようと思ったのだろうか? 彼は気さくにその理由を語ってくれた。

「毎年、家族で山にある別荘に行っていたのですが、そこで寝転がって流れ星をよく見かけました。それがきっかけとなってメテオライトに関心を持つようになったのです。当時はまだ今ほどインターネットなどが発達している時代ではありませんでしたから、さまざま書物を頼りに調べ、メテオハンターと呼ばれる人にコンタクトを取りました」